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夢の君

ゴトッ、ゴトン。


耳を澄ませると音は薬棚の一番下から聞こえてくる。

恐る恐る引き出しを開けてみれば、一冊の本が待っていましたとばかりに頁を捲り上げた。

黙って見ていると、いつものように私の筆跡が浮かんでくる。


どうやらドクダミ茶を作り始めたことで反応をしたようだ。

しかし、こんな所に本をしまっていた覚えはない。

「これって薬の本かな?」


ドクダミの頁には【整腸作用】と書かれていた。

他の頁はまだ文字が変わっていない。


『それ、僕が読んでいたんだけど』

間近で少年の声が聞こえた。


はっと顔を上げても、人影はない。部屋の中を見渡してみたが、どこにも少年らしき人は見当たらなかった。

『ここだよ、目の前にいるでしょう。言葉を話すのは人だけだと思ってるの?』


その声は目の前の薬棚から聞こえた。

突然のことに声を出せずにいると、薬棚がゆらっと人の姿に変わり手の中の本を取り上げた。

先日うたた寝の折に見かけたおかっぱ頭の少年は、本を大事そうに抱える。


「その文字が読めるんですか?」

『これは僕たちの言葉だよ、こんな本は稀さ。ま、見られちゃったしこれからは堂々と読める』


こう言うのを何と言ったっけ。

最近少しのことでは動じなくなって来たと思ったが、思考停止するほどには動揺していた。


しかし、あの本が薬の本だとすれば今までのようにネットで調べるのも限界があるだろう。

もしこの本の文字が読めると言うなら、彼に手伝いを頼めないだろうか。


部屋の隅で黙々と本を読む少年に視線を送る。

『嫌だからね』

まだ何も言っていないうちから、察しの良いことだ。

『せっかく読める文字が載ってるのに、読めなくする手伝いなんてするわけ無いでしょ』

ごもっとも。


どうしたものかと悩んでいると、玄関から宅配便の人が声をかけてきた。

近ごろ色んな物を頼みすぎて、配達のおじさんと顔見知りになっている。


「こちらに受け取りの判子をお願いします」

「ご苦労様でした」

少し萎んだ気持ちが浮上するモノが届いた。

さっそく朝のうちにセットしていた孵卵器を、段ボールに入れて部屋の隅に置いた。


『何それ』

薬棚は本から顔を上げると、好奇心に目を輝かせて覗きこんできた。


「見たことないですか?孵卵器です。この機械を使ってひよこを孵すんですよ」

『へえ、親鳥が暖めなくても雛が孵るの?どれくらいの日数で?』

好奇心旺盛だ。


「一緒にやってみましょうか」

『手伝ってやってもいいよ』


どうやら薬棚は素直ではないようだった。

ちょっとツンデレな子が出てきました。

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