覆水盆に反らず
「こんなの書いたっけ」
覚えはない。それでも筆跡を見れば、よく知っている自分の字だ。
内容はさっき読み上げたドクダミの内容が端的に書かれている。
パラパラと前後の頁を見ても、相変わらずヒエログリフの様な文字があるだけだ。
「白い頁なんて無かったよね…」
目の前で起きたことが信じられず、文字の上を指でなぞる。
《ドクダミ半日陰地に群生する多年草 開花時期は五月から七月…》
指先で触った文字を読み上げるように、頭の中に私の声が響いた。
何これ、気持ち悪い!
指をぱっと離す。声は途切れた。
もう一度なぞってみる。《ドクダミ 半日陰地に群生する…》
完全に私の声だ。いつ録音したのだろう。
ふと思い付いて、ネットを開くとドクダミについての解説を探した。声に出して読む。
「ドクダミは繁殖能力が高く、ちぎれた地下茎から繁殖する」
声にエコーがかかったと思うと、私の体からふわり、と文字が浮き上がっては紙面へ吸い込まれた。
「音声入力と録音機能付き…いや、私の身体から文字が浮かび上がったよね」
ドクダミの頁を確認すると、やはり私の字で書かれており内容まで増えていた。
「嘘を言えば、どうなるんだろう」
試してみた。
「ドクダミは丈の高いもので、3mにもなる」
本は反応しなかった。
本にスルーされるとは、地味に恥ずかしい。
しかし、よく見てみると頁の端に
〈ドクダミの丈は、高いもので3m?要検討〉と走り書きのようなものがふえていた。
「嘘!嘘だからっ」
慌てて訂正してみたが、時すでに遅し。
走り書きは消える事なく残ってしまった。
好奇心から他の植物についても検証してみる。
「ヨモギ、キク科の多年草。葉は、艾葉という生薬で止血作用がある」
ドクダミの書かれた頁から数枚捲れたと思うと、見えないペンで書かれたように私の筆跡が浮かび出してくる。
「なんで隣の頁じゃないんだろ」
訳がわからないまま他にも数種類、思い付いた名前を言えば反応するもの、しないものがあった。
どうやら、この本は和ハーブ専門らしい。
気がつけば頁の数枚分が、私の筆跡に書き換わっていた。
何だかパズルのようで面白い。
調子に乗った私は、書き換わった植物の名前をネットで調べながら、育て方や薬効を次々読み上げる。
「ゲンノショウコ、フウロソウ科の多年草……」
突然、視界がぐにゃりと歪み床に崩れ落ちた。
なかなか話が進みませんが、見に来てくださってありがとうございます!
お祖父ちゃんの家の間取りをアップしたいと考えていますが、図面を引いたことがなく苦戦中です。
近日中にはアップしたいと思います。