地産地消
金曜日の朝、ついにあれが届いた。
玄関先で段ボールの梱包を解いていく。
中から一部透明な、大きな四角いプラスチック製のケースが現れた。
「ふふふ、これが買えるなんて夢みたい」
孵卵器、二十四個を入卵可能。
中にはまだ何も入っていないが、ついニヤニヤしながら眺めていまう。有精卵が届くのは夕方か。
はやる気持ちを抑えながら、説明書を読みセッティングだけは万端になった。
「…買い物に行こう」
昨日の夜、みんなが帰宅したあとも自分にできる事を考えていたが答えは出なかった。
なんせ生活を豊かにするために必要なものは人によって違う。
こちら側だとお金だったり、時間だったり生き方の目標を持つことが豊かな生活につながるだろうが。
そもそも彼らの世界に貨幣はあるのだろうか。
「でも最近、出費ばかりだからバイトまた始めようかな。食費がかかる」
スーパーで安くなったお肉をまとめ買いしては冷凍したり、道の駅で旬の野菜を安く買ってはいるが何せ一人で食事をする日がほとんど無い。
今日も野菜を買いに道の駅へ立ち寄った。
「あら〜紅実ちゃん、いらっしゃい。今日は絹さやと春キャベツが安いよ!」
にっこりと笑って会釈で返す。安い野菜目当てで通っていたので、すっかり顔を覚えられてしまった。
今夜のメニューを考えながら野菜ブースを見て回る。
そう言えば、最近魚を食べていない。鶏肉や豚肉と比べると高いからだ。
この辺りは湖はあっても海が遠く、新鮮な魚が手に入らない。スーパーも小さく干物が中心だった。
「たまにはお刺身とか煮付けとか食べたいな」
ぽつりと呟く。
「それでは私とお寿司でもどうですか?」
振り返ると銀狐が立っていた。
貼り付けたような笑顔に鳥肌が立つ。一人で買い物に出かけたのは軽率だったか。
しかし警戒とは裏腹に、銀狐の手元のカゴには春キャベツが山積みになっていた。
「…お店の買い出しですか?」
「あ、そうです。今日はいつもより春キャベツのパスタが出たので」
「お店って卸業者から買うんだと思っていました」
「なかなか良いところが見つからないのですよ。出来るだけ地元の物を使いたいけれど、うちの規模では了承してくれる農家も少ないものですから。かと言って無駄遣いすると怒られますし」
そう言って尾上は頭をクシャクシャとかき上げて苦笑いをする。
そっちの笑い方のほうがなぜか親近感を持てた。
そこにバタバタとさっきのおばさんが走り寄ってきた。
「お話中悪いんだけど、これさっき渡しそびれててね。フリーマーケットみたいなもんだけど、良かったらお友だちと出さないかい?」
そう言ってチラシを手渡す。
それは水彩で描かれた、のどかな風景と手書きの文字だった。
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今日も一日ありがとうございました。




