表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/366

それぞれの事情

「ご覧のとおり、祖父の家を直しながら住んでいますが庭の方まで手が回らなくて。勿論、お支払できるお給与を相談させていただいた上でですけど。次のお仕事が見つかるまでの間でも良いです」


突然の申し出に土門と赤槌はぽかんと口を開けた。要らぬお節介と思われたかもしれないが、赤槌の創る庭の美しさを知っているので本心からだった。


『儂からしたら、渡りに船です。会長が許可を下さればですが』

赤槌は土門の表情をうかがった。


『紅実子様、庭というのは一朝一夕に出来るもんじゃありません。土をつくり基礎を作り、植物を育て風景と調和させていく。たとえ十年掛かったとしても対価を支払い続けられますか?』


十年か、その頃私は三十路を越えている。

将来(さき)がどうなるか分からないが私が生きている限り、この家に住むことを決めたのだ。

「私の生命(いのち)が続く限り、この家に住むと決めています。毎月私にお支払できる額ならば、お願いします」


そして植物の知識を教えてもらおう。

知識を増やすことは、将来の選択肢を増やすことにも繋がるはずだ。


『紅実子様のお覚悟、受け止めました。対価契約につきましては赤槌と相談して決めてもらえば結構です』

土門さんが懐からそっと、白いハンカチのようなものを取り出すと目尻を拭う。ハンカチは総レースに見えた。


『紅実子様、どうぞ今日から宜しくお願い致します』

赤槌はテーブルの下で居住まいを正すと頭を下げる。

「こちらこそ宜しくお願いします。長期の契約は初めてなので対価についてご相談させて下さい。でもその前に夕飯の時間なので、一緒にお食事いかがですか?」


『かたじけない、ご相伴に預かります』


今日の夕飯は、手早く作りたかったので親子丼に決めた。

土鍋にお米を五合炊き、その間に鶏もも肉と玉ねぎを切ってお出汁と煮込む。

小さなフライパンに一人前ずつ取り分けてから、溶いた卵をふわりと混ぜて三つ葉をのせる。


出来上がる頃には鹿島くんも帰ってきた。

「ただいまぁ。あれ、オッサン増えてる」


土小人二人には、身長の都合から少し平らなお椀で出した。

『初めて食べました。目玉焼きより美味しいです』

『日本酒に合いそうですな』

土門は山椒の粉も気に入ったようだった。

ティースプーンを器用に使いあっという間に平らげていく。定期的に食事に訪れるなら、彼らの身長に合わせた机や食器を揃えなければ。


相談の結果、赤槌に支払う対価は現物支給となった。

毎月、米を五キロと畑で採れる野菜、酒一升瓶を一本。あとは時々夕飯を食べに来る。


それくらいならば、何とかなりそうだ。そうだ、河童が作る水田の範囲を増やしてもらって、お米を作ってもらおうか。


河童は精米機を使い、こちらから持っていった鍋でお米を炊くのも慣れたようだった。

畑も今のところ順調に育っているようだった。


思いを馳せていると、土門が小声でこっそりと話しかけてきた。

『紅実子様、赤槌のこと、有難うございます。あいつの家は子どもが生まれたとこで、露頭に迷わず済んで助かりました』


子ども…そうか家族がいたのか。


土小人の住む村も仕事がなく大変だと言っていた。思えば日常の慌ただしさに流されて、彼らのことも充分に知らない。


自分の仕事も考えなくてはならないが、知ってしまった以上土小人や河童たちの生活も放ってはおけない。私に出来ることは、何があるだろう。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

熱帯低気圧の湿り気でバテています。皆様も暑い日つづきですが、体調を崩されませんようご自愛ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ