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酔芙蓉

「いい事、ですか?」


さっきの虫眼鏡みたいに、何かを見分けるコツでも教えてもらえるのだろうか。土門さんの言葉を待った。


『尾上の若様は、そりゃ随分と前から鏡守りの家にお嬢さんが生まれる度、しつこくしつこく求婚してきたんですよ。もういい歳になって焦ってるんでしょうな』


あの狐、何歳なんだ。


『それも鏡守りのお嬢さんが力を持てば敵わなくなるんで、必死なんです。面倒くさかったら、さっさと力をつけて丸焼きにしてやんなさい』


私が思い当たるのは水の腕輪だけだった。


「力と言うのは、こういった腕輪の事ですか?」

『もう“綿津見(わたつみ)”は持ってましたか。早いところ“倶利伽羅(くりから)”も揃えてしまいなさい。儂らから贈った“産土(うぶすな)”も少しは役に立ちましょう』


たくさんの名前が出てきて頭が混乱する。

花礫さんがニヤニヤと笑いながら、口を開いた。


『後はさっさと別の男を選んじまうかだな』

『そうだな、尾上の若様よりゃ八坂の旦那の方が良い』

『なんだ、まだ選んでなかったのかい。さっさと(つがい)になっちまえよ』


こんな昼間から居酒屋の親父たちに絡まれた気分だ。ビールを飲ませた私が悪いけど。

八坂くんと私なんかでは釣り合わないのに、無茶振りにも程がある。


こんな時は笑って流さなければ、と思うのに上手く流せない。何かちくちくと引っかかりを覚えた。


「食事が終わったようでしたら、他の設計図も見ますか?」

八坂くんがカバンから分厚いフォルダーを取り出して、土門さんに見せた。


『勿論です!』

土小人たちの好奇心はそちらに移ったようだ。


八坂くんに助け舟を出されるとは。横顔を覗き見てみるが涼しい顔をしている。それが何だか悔しかった。


図面の話で五人は盛り上がっていたので、そっと片付けをしてから作りかけの鶏小屋を見に行った。

土台は粘土土(ねんどつち)の上に高さ五十センチ程の平らな石を敷き詰めてあって隙間は殆ど見当たらない。石を削る技術もあるのか。


ログハウス風の壁はきちんと皮を剥かれた丸太が並び、屋根には瓦に似たものがならんでいる。


こんなにしっかりとした建物が一升瓶とはいえ日本酒二本なんて、原価割れしているのでは。


人の気配がして振り向くと八坂くんが立っていた。おじさん達に設計図を取り上げられたらしい。


「あの小さい人たちが四人で、これだけの物を作るなんて凄いな」

「みんな凄い力持ちでしたよ。でもおじさん達からしたら、設計図が凄いって言ってました」

「あれくらい、学校行ってたら誰でも出来る」


「私も出来ないから、凄いと思います。八坂くんが美砂ちゃんと鹿島くんと話していると、専門用語が一杯で何だかすごいなあって。皆お勉強したことがきちんと身になっていると言うか」

自分のコンプレックスが出てしまった。褒めることさえ上手く出来ない。


「ありがと」

八坂くんはまた、柔らかく笑った。

急いで視線を逸したが、目に焼き付いている。

幸いにもコントロールがついてきたのか、今回は水を降らさずに済んだ。

評価とブクマありがとうございます。

ここのところ、アクセス数も急に増えて驚いています。

いつも読んでくださる皆様、ありがとうございます。

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