トルティーヤを持って
ずっと玄関に張り付いていた影が、ゆらっと動いた。
「おはようございます。尾上さんでしたっけ。何かご用ですか?」
八坂くんの声だ。
「…おはようございます。昨夜は色々とあったので改めてご挨拶に伺ったんですよ」
尾上はそう言うと愛想よく笑って、花束とケーキを見せた。
「今日は家人がほとんど、外出していまして」
「そうでしたか、ではまた改めてお揃いの時にでも」
尾上はすっとお辞儀をすると八坂くんに手土産を渡し、家の坂下に停めてあった車に乗り込んだ。
「姉上お二人に宜しくお伝え下さい」
こちらに向かって手を振ると車は音を立てて走り去った、ようやく嵐は過ぎたようだった。
「紅実ちゃん、大丈夫?」
玄関を開けてへたり込んでいる私に八坂くんが聞いてくる。
「怖かった…です」
まさか昨日の今日で来るなんて。
「もらった花とケーキ、どうする?」
どうしよう。食べ物を粗末にするのは気が引けるが、昨日の呪文を見ていたので食べるのも怖い。
どうしたものかと考えていたら思い出した。
「甘い物好きなおじさん達がいるので、差し上げましょうか」
「誰それ」
八坂くんに昨日の夜からのことを説明する。
みんなが相談していた図面を見て感動していたことも話した。
「それってノーム?」
「サイズ感さえ違わなければ、工事現場にいそうな人たちですよ」
八坂くんはきっと絵本に出てくるようなノームを想像してるに違いない。
「その人たちは、向こうにまだ居る?」
「まだ作業していていると思います。差し入れにお昼ご飯とさっきのケーキを持っていこうと思って」
「一緒に行っていいか?」
「はい、良かったらおじさん達に図面とか見せてあげて下さい」
最近、お米ばかり使っていて残り少なかったので少し趣向を変えた。
普段あまり使う機会のない強力粉を引っ張りだし、塩とオリーブオイルにぬるま湯を少しずつ加えてこねていく。
「これは何?」
八坂くんがこねながら尋ねた。
「トルティーヤの生地です。ラップサンドにして、持っていくんです。私たちも向こうで食べましょう」
八坂くんがこねてる間に、挽肉を解凍して炒めて味付けをする。レタスを刻んで、準備は万端だ。
こねた生地を麺棒でのばして、フライパンで焼く。
「八枚分出来そう。おじさん達は一つあれば足りそうかな」
焼き上がった生地の上に具を均等に盛り付けて、巻いたら出来上がりだ。
「ちょっとピリ辛なので、飲み物を持っていきましょう」
おじさん達には一人一本、ビールを保冷バックに持った。
「さて、お待たせしました。行きましょうか」
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