モグラ商会
翌朝、まだ空も白み始めた頃だった。
裏の戸口の方から小さなノックの音が聞こえてくる。寝ぼけた頭で昨夜のことを思い出す。
「昨日の人、かな」
時計を見るとまだ五時だった。早すぎる。
かすむ目を擦りつつ、上着を一枚引っ掛けて戸口へ向かった。
戸を叩く音はリズミカルに続いていた。
『おはようございます!モグラ商会でございます』
「はい、今開けます」
戸を開けるが、人の姿はない。
そもそも電話からして怪しい登場だったので、今更透明人間でも驚かない。
『ササキ様、おはようございます!ご要望の鶏小屋はどちらに建てましょうか』
昨夜のバリトンボイスが地上十センチから響いてきた。
なるほど、彼らは祖父の日記には登場しなかった土小人だった。
先日のカフェで見かけたのも、きっと仕事中の土小人だろう。
玄関先では何なので、居間に通してお茶とお菓子を出した。
料理の味見用に使っているお猪口にお茶を入れ、大叔母から貰っていた和三盆を小さな皿に盛り付けた。
気分はおままごとだ。
「どうぞ外でお待たせしてて、すみません」
『いえ、ご丁寧に』
昨夜、電話口で会話した男性の他に三名ほど連立って来たようだ。
ちゃぶ台では高すぎるので、花台に並べてお茶を勧める。
今度、人形用のテーブルかちゃぶ台を買ってこよう。そこに座るのが職人風のミニチュアおじさん達であったとしても。
『いつの間にか鏡守り様が代替わりされたんですな。どうぞ、これからもご贔屓に。私はモグラ商会の取締役を努めます土門と申す者です』
「はじめまして、笹木 紅実子です」
『花礫です』
『土紗です』
『礫だ』
見事に土を連想させる名前ばかりだ。
「あっ、先にお約束の一升瓶二本です。日本酒で良かったですか?種類まで確認するの忘れてしまって」
お酒を出した瞬間、四人が一斉にそちらを振り向き恍惚とした表情で酒を見つめる。
今にもよだれを垂らしそうだ。
良かった、日本酒で問題なければありがたい。料理に使うため、先日買い溜めたところだった。
『報酬を確認しました。では、建築予定地を拝見しても?』
「鏡を越えますが大丈夫ですか?」
『問題ありません。こちらの鏡を通らせていただけますかな?』
四人を連れて鏡を越える。屋敷の中は掃除が出来ておらず床にはホコリが積っている。
申し訳なかったので、カゴに入って移動してもらった。
屋敷を出て棚田のある東の山、その麓へ案内した。丸太がごろごろと転がっている。
「この丸太を使ってここに鶏小屋を作りたいんです」
身振り手振りで説明をした。
途中説明しながら、思ったより大きかっただろうか、追加にお菓子も必要かと不安になって振り返ると、四人の土小人たちは八坂くんたちが相談するのに描いた地面の設計図を真剣に見ていた。
『…これは神の啓示か』
いえ、建築学科学生の試し描きです。
バリトンボイス、もとい土門さんは連れてきた三人と相談すると此方へ向き直った。
『今、我々にはインスピレーションが降りてきている。この素晴らしい砂絵が消える前に、作業を始めたいと意見が一致しました。場所は把握したので帰りは別ルートを使います。ササキ様はご帰宅されて大丈夫ですよ。酒は夜に取りに行くので置いていて下さい』
そう言うと、四人の土小人たちは目にも止まらぬ速さで丸太を整列させていった。
実際、目には見えない。この速度で移動していたら普段見ていても気が付かないだろうと思った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
おじさんの可愛い一面。




