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黒電話

その晩、三人は二十二時頃に鹿島くんの車で帰宅した。

明日はみんな授業がバラバラなので、来れる人だけ手伝いに来ると言っていた。


あんな事があったので当分の間この家を避けられるかと思ったが、返って心配された様で八坂くんは下宿したいとまで言い出した。

さすがにそれは甘え過ぎだし、実家の両親には説明が難しいので辞退したが。


美砂ちゃんの周囲は鹿島くんが気をつけて見張っていてくれると言っていたので、少し安堵する。


人気(ひとけ)の無くなった居間でぼんやりとお茶を飲みながら、野菜の図鑑をめくってみる。

今日も一日慌ただしかった。


和ハーブ図鑑のときには気が付かなかったが、書き換わった頁の一番下に記号のような図形のようなマークが描かれていた。


「何だろうこれ、可愛いマーク」


リーン。リーン、リリーン。

ベルに似たマークを指でなぞると、どこからともなくハンドベルの様な音が聞こえてくる。


これが木魚とかならホラーだった。

音は真下から聞こえてくる。ちゃぶ台の下を覗いてみると、いつの間に出てきたのかひと回りもふた回りも小さな黒電話がハンドベルの音を鳴らして座していた。

「電話が鳴ってる」


反射的に受話器を取ってしまったので、恐る恐る耳に当ててみた。音声ガイダンスがおじさんの声で繰り返し流れる。


『…ご利用の番号を回してください。当店を初めてご利用の方は一を。二回目の方は二を。ご契約の方は三を。植物のご利用は四を。その他ご利用の方は五を…』


律儀に一を回した。ジーーーコロコロ・・・


『お電話ありがとうございます。こちらはモグラ商会です』


バリトンボイスのおじさんが出た。

こんな時間に繋がるとは思っていなかったので焦る。また余計な事をしてしまっただろうか。


「あの、初めてなんですが…」

『このお電話はご登録されています。前回ご利用は、ササキ様ですね。いつもありがとうございます。今回、初めてと言うことは登録者の変更でしょうか』


ササキが登録されていた。

「前回の利用は、笹木 幸人でしょうか」

『いえ、違うようです。お名前は申し上げられませんが、今後ご利用になられる場合は説明を受けてもらってご登録後に対価のお支払についてご相談させて頂きます』


モグラ商会の説明は簡単だった。

一つの仕事につき、それに見合った対価を相談して支払う。

最初の数回は前払いで、簡単な仕事のみ。

信用がつけば、定期的な仕事から大掛かりな仕事まで頼むことが出来る。

対価はお金であったり物資だったり、その時々で変わるようだった。


試しに鶏小屋の建築を交渉してみた。


『普通でしたら建築は初回でお引き受けできませんが、ササキ様とは代々のお付き合いがありますので前払いいただければお引き受けします。対価は酒一升瓶二本もしくは菓子五キロになります』


思いもよらない人手だった。

「お酒とお菓子、どちらでも用意しますのでお願いします」


電話口のバリトンボイスは上機嫌で酒を指定すると、顔合わせに職人を連れて明朝参りますと告げて電話を切った。

いつも、ありがとうございます。

本日中にもう一話更新出来たら、と思っています。

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