因縁
時刻は二十時を過ぎたところだった。
「どちら様ですか」
鹿島くんが持ち前のフレンドリーな笑顔で問いかけた。
「これは失礼しました、私は尾上 晃と申します。この近くでカフェを経営しておりまして、幸人さんとは仲良くお付き合いさせて頂いておりました。お孫さんがこちらに住まわれると聞いて一度ご挨拶に伺った次第で。店を閉めてから出たので、夜分になったことをお詫びします」
祖父の知り合いか、それにしては若く見えるがどこで知り合ったのだろう。そんな事を考えていると尾上と目があった。
「おや、他にもお孫さんがおいででしたか」
尾上はにっこりと微笑ったが、どこか冷たい瞳に背筋が寒くなる。孫は私一人だと訂正しようとした時だった。
「兄さん久々やなあ、幸人の葬式以来やろか」
声の主にギョッとした。人型の鈴さんが私を押しのけ前へ出てきた。
「少し黙っとき」
小声で私に釘を刺しながら、鈴さんの視線は玄関から離れない。
「ご無沙汰していました、鈴姉さんもお元気そうで何よりです。葬式以来ずっとこの家に居られたとか。ああ、猫は家につくと言いますからね」
そう言って微笑う尾上の瞳は人のそれではない。瞳孔は縦に鋭く虹彩は白銀に変わっていった。
銀狐、まさしく銀の瞳を持つ狐。
「幸人さんにはずっと打診していたんですよ。幸人さんに娘が生まれたら、我が一族とご縁を結べないかと」
「色よい返事が貰えた試しもあらへんのに」
「生まれたのは息子でしたからね。でも今は違う。孫娘が二人もいたとは、幸人さんも最期までつれない方だ」
尾上は私と美砂ちゃんを孫娘だと勘違いしているようだった。美人な美砂ちゃんと私では顔立ちや背丈、声も似ている所などないのに。
「なにか勘違いをしてるんじゃ…」
「思わせておこう」
私の声を八坂くんが遮った。
「うちの従業員たちが騒いでいる”目が合った”お嬢さんはどちらでしょうね。まあ今日はご挨拶だけと思ってたので、これで失礼します。正式なご挨拶にまた近々伺いますね」
尾上はそう言うと一礼して煙のように掻き消えた。
「次、来はったら箒立てときますわ」
鈴さんはいつの間に持ってきたのか、塩をまきながら言った。
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