二重
「八坂くん、河童の言葉は分からないですよね?」
「うん、キーキーとしか」
なぜだ。こんな時に鈴さんが居てくれたら聞けるのに、と思っていたら屋敷から出てくる鈴さんと目があった。
「なんや、えらい大所帯やな。誓約はかけられたんかいな」
「大丈夫でした。それで、あの…」
さっき発覚した言語理解の違いを相談した。
「そら妙やなぁ。後から来た二人と最初の違いといなんて…もしかしたら術者の効果かも知れん」
「なにか違いがありましたか?」
「前に私が術をつこた後に疲れてたやろ」
そう言えば【誓約】をかけた後は鈴さんが猫に戻るほど疲れていた。それなのに二人分の術をかけたのに、私は疲れた実感がなかった。ちゃんとかけられているのか、不安になって鈴さんを見た。
「大丈夫やと思うで。【鳥獣耳】が使えるんは紅実子の影響やわ」
「影響があるんですか?」
「術を使うとき、術者から一定量のエネルギーを送って相手と自分を繋げるんや。だから紅実子の術が生きとる間は、影響が出る。ま、河童の言葉が解るくらいやろ」
それでも大事だと思うのだが。あ、八坂くんが羨ましそうにこちらを見てくる。
「鈴さん、誓約のかけ直しって…」
八坂くんが切実に鈴さんへ問うた。
「紅実子が出来るんやったら、したらええと思うわ」
視線がこちらに移る。仕方ない。
「今後、私に確認なく物事を決めないと約束して下さい」
勝手に美砂ちゃんたちを呼んだことを、まだ少し根に持っていた。
「了解」
パキッと音がして静電気のような光が八坂くんの小指に走る。【誓約】は無事に成された。
「小指から痛そうな音がしましたけど、大丈夫でした?」
「大丈夫、河童の話を聞けるか試してくる」
そう言うと八坂くんは一目散に河童の群れを目指した。
少し呆れた顔でそれを見送ると、鈴さんが真面目な顔でそっと近づいてきて耳打ちする。
「近ごろ、何や変わったがことあったか?」
「変わったこと…かは分かりませんが、新しい図鑑が増えました。少しずつ頁を増やしています」
「それや」
鈴さんは大きく目を見開いた。
「そん中に茶色い表装した本があるやろ」
「はい、茶色は野菜の図鑑でした」
鈴さんが頭を抱えてよろめいた。
「それできっとバレたんや。アイツはしつこいさかい関わりとうなかったのに。まあでも…しゃあないな、遅かれ早かれ図鑑は作らなあかんし」
自問自答を繰り返しているが何を示しているのか、全く意味が分からない。
「何か不味いことがありました?」
「銀狐がくるで。気ぃつけや」
ウチはアイツ苦手やし、と言い捨てると鈴さんは猫の姿になって山の方へフラフラと去っていった。
「銀狐…前にも聞いた事があったような」
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