思い立ったが吉日
次の頁を読もうとした所で、階下の母から呼ばれた。
「朝ご飯にしましょ」
「…昨日の話だけど」
リビングに戻り朝食をとっていると、母が思い出したように話し始めた。
「あの話はね、お祖父ちゃんの希望もあったの」
「初めて聞いた」
「初めて言ったからね。山の家は代々お祖父ちゃん達が守ってきた家だから。でも今どき、家を守ってほしいなんて言えないでしょ。跡取りでもないのに…」
女の子は嫁ぐものだ、と暗にプレッシャーをかけてくる。
母は少し言い淀んで、私を見据えた。
「あなたが、嫌なら断りなさい」
母の危惧も分かる。
祖父の子は父一人でユキさん、もとい大叔母は祖父の妹にあたる。そして嫁いでいるので、本来ならば祖父の家の管理は我が家の仕事だ。
今までは大叔母の好意に甘えていたが、大叔母も傘寿が近い。これを機に一番若い孫娘へ管理を委ねたいのだろう。
少し考えてから、私は口を開いた。
「お祖父ちゃんの家を修理するなら、部分的に作り替えても良い?」
「作り替える…リフォームするってこと?」
「ちゃんと専門的な所は大工さんにお願いするけど、トイレとかあのままだとお母さんもユキおばさんも大変だから」
実際、私も使いづらい。
祖父の家は昭和初期に改築された。
それ以前は茅葺き屋根に木造平屋で、周りに畑と田んぼがあったらしい。その頃は離れにある五右衛門風呂も現役だった。
トイレはその後、水洗へ改修されたらしいが、和式で床は玉タイルというレトロな仕様になっている。
普段から洋式を使い慣れている母と私、高齢の大叔母には使い勝手が悪い。
今回のことがなくても、大叔母に押し付けたままではいられない。
あの家は私にとっても、祖父との思い出がつまった大切な場所なのだ。その存続が私に委ねられるなら後悔はしたくない。
それに、自分の人生設計がまだイメージ出来なくても、結婚できなかった時に備えて一人で住む所は必要だと思う。
それならば、祖父の家を直すときに少しでも住みやすく作り替えて老後に備えたい。
「大丈夫、人件費を安くするために私も手伝うから」
唖然とする母に、決意を伝えた。
大工仕事は、学校へ行かなくなる前の夏休みの工作以来だ。不安はあるが専門の人が来てくれるなら指導してもらおう。
唐突なDIYデビューだった。
正午に更新したいと思っておりましたが、遅くなってしまいました。
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