祖父の日記
翌朝キッチンでお茶を淹れる母に、昨夜見つけた本について訊ねてみた。
二冊ほどテーブルの上に並べて見せる。
「何これ?」
本を手に取り、パラパラと捲りながら首を傾げる。
「変わった本でしょ?同じような本が何冊もあったの、お祖父ちゃんが集めていたのかな。内容は分からないけど…」
母は、私の言葉で更に首を傾げた。
「内容?これってノートじゃないの」
ノート?祖父の日記を間違えて持ってきたのだろうか。慌てて母から本を受け取ると最初の頁から捲っていく。そこには昨日と同じようにヒエログリフの様な文字がビッシリと並んでいた。まさか、この文字を私が落書きしたと思われたのだろうか。
母はさらに言葉を続けた。
「真っさらだし、メモ帳か何かに使ったら?」
私は二階の自室で、祖父の日記を前に唸っていた。
信じられないが、母には謎のヒエログリフは読めなかった…もとい、見えなかったらしい。
「なに、この不思議体験。まさか宇宙人の字?」
祖父が宇宙人と交信している姿を想像する。そんな馬鹿な!頭をぶんぶんと振った。
昨日の夜、踏ん切りのつかなかった祖父の日記…もしかして、ここに何かしら答えがあるのではないか。
むしろあってほしい。何も手がかりがないまま、こんなに大量の本をどうしろと。
意を決して、日記の表紙を開いた。
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9月28日
今日から日記をつける。
中々継続しないが、覚え書きとする。
昼頃から伊音と紅実子が遊びに来た。
裏の井戸で冷した西瓜の大きさに、紅実子が目を丸くする。
一つ丸ごと切ったら、伊音に腹を壊すだろうと怒られた。
腹を温めるドクダミ茶を淹れたが二人には不評。扉の向こうでは好まれたが。
夕餉に出したエンコダスの煮付けは好評。
紅実子にまた食べたいと言われた。忘れないうちに記しておく。
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最初の頁から私が登場していた。
それにしても、一体いつの話だろう。
母と二人で遊びに来ていたのなら、私が十歳になる前くらい。
西瓜を怒られるほど、食べたっけ?全然覚えていない。
祖父の日記は読んでも思い出せない事ばかりだった。
そして気になるキーワードも二つ…
エンコダスとはこの辺りでよく採れる魚ではないし、扉の向こうとは一体、どこを指すのだろう?
ちょっとずつ不思議要素が出てまいりました。
誤字報告とブクマ、ありがとうございます!