ぬか床襲来
玄関に立っていたのは大叔母だった。
「朝ご飯は済んだ?」
大叔母は大きな荷物を玄関に置くと、上り框に腰掛けた。
「朝ご飯、これから作るところでした」
「丁度よかった。これね、若い人には不評かもしれないと思って渡せなかったんだけど。昨日テレビを見てたら流行ってるみたいだったから、持ってきたの」
「何ですか?」
「ぬか床よ」
最近テレビに限らず、メディアでも腸活とかでぬか床が取り上げられていた。
「私はあまり手入れとか詳しくないです」
「何でもインターネットで調べられるでしょ。そうだ、この前きた時にお野菜を忘れていったの。気付いてもらえたかしら?冷蔵庫が来る前だったから井戸で冷やしてたのだけど…」
「えっと、井戸の中に何を?」
「胡瓜よ」
なるほど、図らずも胡瓜トラップを仕掛けたのは大叔母だった。
「胡瓜なら大丈夫だったよ。ありがとう」
お礼を言うと、大叔母はにっこりと笑って大きな包をこちらに向ける。
ぬか床だ。
「…やってみるけど、失敗したらごめんね」
「一昨日、お野菜漬けてあるの。朝ご飯に使って」
そう言うと、大叔母はすくっと立ち上がりあっという間に帰ってしまった。
「今のはユキコさん?」
振り返ると鹿島くんがひょこっと顔を出した。
「はい、ぬか床もらいました。私は作るの初めてですけどね」
「僕、ぬか漬け好きなんだ。楽しみにしてるね」
「プレッシャーかけないでください」
ぬか床の入った壺を抱えると、かなり重かった。
「持つよ。美味しいぬか漬けのために」
「プレッシャーかけると失敗しますよ」
台所を見渡して、どこへ置くか思案する。
とりあえず棚の一番下に置いておく。
「さっき、美砂と相談してたんだけど台所の床も張り替えたほうが良さそうだよね」
「そうですね場所によっては、たわんだりする所もありますから」
台所の床をじっと見つめる。それなりに広さのある場所だ。材料費だけといってもお金がかかるだろう。
五右衛門風呂と屋根の修理も終わり、次は台所かトイレを手がけるらしい。
母屋にユニットバスがほしいと伝えたところ、一番後回しにされていた。
場所的に増築扱いになるので、手続きが複雑らしい。
話をしていたら、いつの間にか朝食の支度が終わっていた。
大叔母からもらったぬか床には、胡瓜と蕪が埋まっていたので早速使わせてもらう。
大きなお盆に味噌汁を並べて、パソコンを前に話し込んでいる二人にも声をかけた。
「朝ご飯ですよ〜」




