事情聴取
私は何となく知っていた。
鏡を越えた世界。
猫又や河童がいて、不思議なことが起こる世界。
でも、いざはっきりと示されると膝が震えた。
「八坂くん、帰ろう」
もし、ここから帰れなくなったらと思うと、気が気じゃない。指先から血の気が引いていく。
「分かった」
八坂くんは辺りを一周見渡し、足元から何かを拾うとこちらへ向き直した。
「…ただし、戻ってから話をさせて」
私は黙って頷く。
抱えたままになっていたパーカーを私にかぶせると、手を引いて戻っていく。
隠し部屋には無事に戻れた。
無事じゃないのは、私のメンタルだった。
約束はしていたが隠し部屋に戻るなり、正座での事情聴取が始まった。
正座は問題ない、だけど距離が近かった。耐えきれずに俯むくと目を見て話すように言われた。
未だかつて、こんなに男性と近づいたことなどない。早くこの状況から開放されるために、洗いざらい話してしまった。
鈴さんにも、きっと叱られる。
「あの、この事を二人には」
「それを決めるのは紅実ちゃんだから、俺からは言わない」
時間はすでに三時を過ぎている。
こっそり二階へ戻ると、美砂ちゃんも鹿島くんも夢の中にいた。八坂くんも寝袋に戻ると、あっという間に寝息が聞こえてくる。
私はさっき八坂くんが言った台詞が胸のあたりにつかえて、眠れなかった。
翌朝は爽やかな晴天だった。
私はすっかり寝不足だった。
ぼんやりした頭を覚ますために冷たい水で顔を洗う。後ろから、美砂ちゃんが忍び寄ってきた。
「おっはよ!あれ、紅実ちゃん寝不足?」
美砂ちゃんが勢い良く背中を叩いたので、洗面器に顔が沈みかけた。少し鼻に入って痛かった。
「あっごめん!タイミングが悪かったね」
美砂ちゃんが慌ててタオルを差し出した。
「ありがとう、ちょっと考え事してたら寝られなくて」
タオルを受け取ると、苦笑いをした。
まさか、出かけてたことに加え、美砂ちゃんと鹿島くんのことを考えていたなんて言えない。
「もしかして八坂のこと?あいつさ、前から…」
美砂ちゃんが言い終わる前に、八坂くんが美砂ちゃんの腕を持って引きずって行った。
「確認したい事があるから、ちょっと高倉借りる」
高倉?あ、美砂ちゃんのことか。
悩んでも、すぐに結論は出ない。
まずは朝ご飯を作ろう。頭を切り替えて台所に向かう。
冷蔵庫が来てから便利になった。野菜室を開けて、いくつか野菜を選んでいると玄関を開ける音がした。
「ごめんください」
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