謎の絵文字
あまりの急展開に足元がふわふわする。
部屋に戻ると、ベットに倒れこんで今日を振り返った。
あれから帰りの車内で、母と少し話をした。
母曰く私は、かなり煮詰まって見えていたようだ。世間体を気にしていたのは私の方か。
また心配をかけてしまったと、心がちくりと痛む。
暫く天井を眺めていたが、ふと足元に視線を移す。
あれは、祖父の家から回収してきたブックカバーをつけた本の一群だ。
「安請け合いしてしまったかなぁ、売れる本があるとは限らないのに。」
段ボール二箱分もある本を見てため息が出た。しかし放っておいても片付かない。
一冊、手に取るとブックカバーを外した。サイズ的に文庫本かと思ったが意外にもハードカバーだった。
「このサイズでハードカバーって珍しい…」
表紙や背表紙には植物のような絵文字が刻まれている。パラパラと捲ってみると中まで絵文字のようだ。似たような文字がエジプトにある。
「…ヒエログリフ?」
祖父がエジプト文明に熱中していたなんて覚えはない。ふと、嫌な予感がする。
段ボールに入ったカバー付きの本を次々と開けていく。色違いもあるが、どれもさっきと同じ本に見えた。はたして、この本は売れるのだろうか?
似た本を探そうにも、タイトルも著者もジャンルさえ分からない。と言うか、読めない。
二箱目に手をつけた辺りで、一冊だけ辞書のように分厚い本があった。
それは見慣れた祖父の字で、何頁も綴られている。
「日記だ。」
そう気がついた瞬間、無意識に本を閉じた。
人の日記はプライベートの最たるものだからだ。それと同時に好奇心が騒いで見てしまいたいと葛藤する。
(だめだめ!…でも)
本を捲ってみたときに、自分の名前らしきものがあった。私について、何を思い記したのか…祖父が亡くなった今、それは永遠に答えのないものだった。
(最後の時間に、会いに行かなかった。薄情な孫だと書かれていたら…)
身体が強張り、本を持つ手が震える。
結局、その日は日記を読む勇気も度胸もなく、もやもやとした気持ちのまま、眠りについた。
なかなか動かない主人公…!
今日もお読みいただき、ありがとうございます。