夜更けに響く
※ホラー注意
零時を回る頃には、私が恋の上級者ということで話が落ち着き話題はいつしか恐怖体験へと移っていた。明日、起きられるのだろうか。
語り手は、珍しく饒舌な八坂くんだった。
「…肝試しを終えて家に帰ると、みんなお酒を呑んで寝てしまった。すると家の周りをザッザッ、と誰かが歩く音がする。誰だろう、友達の一人が遅れてやってきたのかな。こんな時間にくるなんて、と思っていても音は止まない。考えている間も、ザッザッザッザッ…と」
「ねえ、何か音が聞こえない?」
ふと、美砂ちゃんが口を開く。
「やめろよ!怖がらせよう、なんて質が悪るいぞ」
いつの間にか、鹿島くんが部屋の隅に丸まっていた。
何故か、この人のギャップには残念感がある。
耳を済ませると、確かにどこからか物音がする。
少し考えてから、宥めるように言った。
「山の中だから、野生動物が来てるのかも知れませんね」
この家は山の中にあるせいで鹿や猿、タヌキなどが畑を荒らしに来ることがあった。
でも音は規則的に聞こえくる。
「この音は、土を掘っているような…」
八坂くんは心なしか嬉しそうだ。
「やーめた。もう寝よう。明日も早いんだし」
美砂ちゃんはそう言うと寝袋に潜り込み、転がった。
「…なあ、そっちで寝ていいかな」
鹿島くんが恐る恐る美砂ちゃんに聞く。
「来んな」
しばらく経つと、怖がっていた鹿島くんも含めて寝息が聞こえてきた。
寝られないのは私だけか、早く寝なければと思うほど寝られないものだ。
さっきの物音が気になってきて、そっと寝袋を抜け出すとスマホを片手に廊下へと出た。
廊下の窓から外を見ると、月明かりに照らされた小さなシルエットが一心不乱に畑を耕している。
野生動物には違いなかった。
ふと脳裏に祖父の日記が浮かんだ。
【彼ら水の生きものは、陽の下へ出ればたちまち渇く―】
同じような光景を、祖父の日記で読んだ気がする。
そこでは一匹や二匹では無かったはずだ。井戸に落ちても仲間が助けに来なかったことを考えると、いつからあの河童は一匹になったのだろう。
確認せずにいられなくなった私は、三人がよく寝ているのを確かめると隠し部屋の図書室へ向かった。
人目につくと説明に困るので、図書室に祖父の日記を置いていた。
階段の軋む音に注意しながら、一段ずつゆっくりと降りていった。降りきったところで、耳を澄ませる。二階から音は聞こえて来ない。
大丈夫、みんな寝ていた。
素早く隠し部屋へ入り、図書室へ移動する。
祖父の日記は一番手前に置いてあった。
パラパラと頁を捲ると、月夜に河童たちが胡瓜を植え付けた話に行き当たった。
「正確な数は書いていないけど、かなりの数だ」
祖父が元気なころ、毎年畑には何十本と胡瓜の苗が植えられていた。
何故こんなに胡瓜ばかり、と尋ねると近くへ出荷しているのだと祖父は言った。
近く、それは鏡の向こうだったのではないか。
祖父の日記を読み返しながら感じたそれは、確信に近かった。
ホラーと言うほどでもなかったかも知れません。
河童が畑を耕していただけです。すみません。




