湯けむりの向こう
五右衛門風呂は完成まであと一歩と言う所まで進んだ。
洗い場はタイルを貼り直し脱衣所の床には無垢の板を使った。
屋根の修理も終わったので、あとは乾燥を待つばかりだ。
つまり今日はまだ使えないのである。
私は今、窮地に立たされていた。
「汗かいたでしょ?今日は一緒に銭湯行こうよ」
美砂ちゃんの言う通り、今日はどうしてもお風呂に入りたい。朝は河童を井戸から引き上げたし、骨董市では人混みにもまれた。
かと言って、知り合って間もない年下の女の子とお風呂というのは、ハードルが高い。私のコンプレックスだらけの身体なんて、見せられたもんじゃない。
でも断り続けるのも、辛いものだ。
「この間、教えてもらった銭湯の回数券買ってたんだ。四人で行けたら丁度使い切れるんだけどな」
「う…」
それ以上、抗うことなど出来なかった。
仕方なく美砂ちゃんに手を引かれ、車に乗った。
湖畔の湯はこの家から一番近い銭湯であり、祖父が元気な頃は二人で通ったものだ。
明治の終わりごろに建てられ、少しずつ補修しながら今に至る。
久しぶりに訪れた銭湯では、番台に座っていたおばあちゃんも代替わりしていた。
番台で回数券を渡し、男湯と女湯に別れる。
「恥ずかしいから、話しかけてこないでよ」
男湯の暖簾をくぐりかけて、ふと振り返った鹿島くんが美砂ちゃんに釘を差す。
前回なにがあったのかは、想像に難くない。
美砂ちゃんは横目で鹿島くんを睨むと、こちらに向きを変えてニコッと笑った。
「さっさと入ろう。湯上がりのコーヒー牛乳も美味しいんだよね。楽しみ〜」
二人で暖簾をくぐると、美砂ちゃんは脱衣所でぽんぽんと衣服を丸かごに突っ込み、タオル一枚肩にかけ湯けむりの中へ消えて行く。
やっぱり男前だ、美砂ちゃん。
ここまで来て渋っても仕方がない。服をたたみ、丸かごにしまうと長い髪を纏めて意を決した。
ガラス戸をカラカラと開けると、むわっと湯気が顔に当たる。
空いてる洗い場をきょろきょろと探していると左奥の方で美砂ちゃんが手をあげた。
「紅実ちゃん、こっち空いてるよ!」
真横に座るのはちょっとためらわれた。
「紅実ちゃーん!」
もはや無視できない。周りの目線も痛い。
「ありがとう、ここのお風呂に来るのも久しぶりで懐かしくて」
と言うことにしておこう。嘘は言っていない。
「あっ、クレンジングいるならコレ使ってみて」
美砂ちゃんはビニールバッグから小さな小瓶を取り出した。
お化粧そもそもしてなくて、日焼け止めクリームだけなんだ。
「お化粧ちゃんとしてなくて、ここの石鹸だけで充分だよ」
「お化粧してなかったの?紅実ちゃん、肌きれいだね」
「え、そうかな。無頓着なだけだよ。そばかすだってあるし」
「そんなことないよ!紅実ちゃん白くて肌きれい…」
ガランガランカラーン!
男湯のほうで誰かがたらいの山に躓いたようだ。
男湯と女湯は真ん中を高い壁で仕切ってあり、上が空いているので音が聞こえてくる。
「しかも結構グラマーだよねぇ。体型隠すような服着てちゃもったいないよ」
美砂ちゃんがなんの恥じらいもなく続けた。褒め殺しなのか。こっちが赤面してしまう。
「ぶわっ、それ水!こっちかけんな!」
鹿島くんが水をかけられたらしい。向こうは楽しそうだな。八坂くんは、お風呂ではしゃぐタイプに見えなかったが。
さっさと湯船に入って、上がってしまおう。
髪の泡を濯ぐと、きゅっと絞ってタオルを巻いた。
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