不穏な薬棚
初めて見る骨董市の会場は、想像した以上に活気に溢れていた。
普段は静かな神社の境内に所狭しと店が並び、年代物の家具や様々な道具が、ずらりと買い手を待っていた。
「すごい…」
あまりの賑わいに、ぽつりと声が漏れた。
「紅実ちゃん、骨董市は初めて?」
美砂ちゃんが入り口で配っていたマップを一つ、渡してくれた。
「すごい人だから、もしはぐれたら入り口に戻ってきてね。後、こういう所は買い物する時に値切るのも忘れないように!」
「え、値切らないと駄目?」
知らない人相手に値切ったことなどなかったので、自信がない。
「貴重な資金には限りがあるでしょ?」
「…はい。」
確かにその通りだ。家の修復もリフォームもまだまだお金がかかる。
「一緒に見ていくから、大丈夫。多少なら俺でも値切れるし」
こんなに口数少ない八坂くんでも値切れるのか。
私も負けてはいられない。
それにしても、八坂くんまで荷物持ちに来なくても良かったのに。律儀な人だ。
美砂ちゃんの言った通り、幾ばくも歩かないうちに二人とはぐれてしまった。幸い八坂くんが一緒にいたので、連絡を取ってもらい待ち合わせ場所を決める事ができた。
最近は八坂くんと行動することが多かったせいか、八坂くんがあまり喋らなくても慣れてきてしまった。
待ち合わせ場所へ行く途中、いくつかのお店を眺めて歩くと小さな引き出しが沢山ついた変わった箪笥を見つけた。
足を止めて正面、横と観察する。丈は胸ほどで木製だ。引き出しの金具部分は蓮の意匠をしており、元は黒い金具が光沢を帯びて木の風合いと馴染んでいた。
「可愛い。小物入れかな」
店主が愛想よく答える。
「これはね、薬棚ですよ。年代の割に状態もいいので掘り出し物ですよ」
ちらりと値段を見る。四万円…
欲しいけど、いいお値段だ。交渉すべきかどうか悩むところだ。
隣を見ると八坂くんが一つずつ、薬棚の引き出しを開けては引き出しの後ろを確認してる。
そんなに見ていいものか、ちらっと店主の顔を見ると先ほどと打って変わって落ち着きがなく、目を逸らしていた。
どうしたのだろう。
「あ、これ…」
八坂くんの言葉を遮るかのように、店主が慌てて値札を取り上げた。
「値段置き間違えてたみたいです!すみません」
四万円ではないのか、なら買えるかもしれない。
「お幾らですか?」
おずおずと尋ねた時、薬棚全体がガタっと振動した。八坂くんが変な顔をして固まっている。
店主は更に青ざめていた。
「さ、三千円でいいです!」
何が起こったか分からないうちに、薬棚を三千円で購入してしまった。
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