最速の引越便
あっという間に日が暮れた。
私は今、夕食作りに慌ただしい。
あれから一時間も経たないうちに、永島先生が男子学生を連れてトラックで乗り付けて、あっという間に冷蔵庫と私の部屋の荷物を運び込んでくれたのだ。
なんと言う行動力。
永島先生に徴収されて働かされた男子学生は鹿島くんと八坂くんだったので、お礼とご褒美を兼ねて夕食を振る舞うことになった。
永島先生のお礼は、大叔母に聞いたらはぐらかされた。
きっとお中元を豪華にするんだろう。きっとそうだ。
「あの、紅実ちゃん」
後ろから鹿島くんが話しかけて来た。
「は、はい!?なんですかっ」
動揺からキレ気味な返事になった。ああもう。
「今日さ、八坂と二人でこの家に来たこと。できたら美砂には内緒にして欲しいんだ」
「え、内緒ですか?」
「あいつ、仲間外れだとか言ってすぐキレるから面倒で。まあ、内緒は無理でも、できるだけ隠す方向でお願い!」
鹿島くんが必死に拝んでくるので、努力はすると返事をした。
過去こんなに男の子と話をしたのは初めてじゃないだろうか。
いや、去年面接官のおじさんと話したのが最多かな。男の子とは言えないけれど。
夕飯はお礼を兼ねたので、品数豊富になっていた。
豚の角煮、大根とカブの煮物、絹さやとタケノコの炒めもの、鶏唐揚げ、土鍋ご飯。
さすがに作りすぎたかと思ったが杞憂だった。
いつもの昼食では足りてなかったのでは、と心配になる食べっぷりだ。
途中、大叔母が酒を出し始めたところから雲行きが怪しくなってきた。
次々とグラスを空ける永島先生と鹿島くん。
帰れるのか心配になって、八坂くんに運転できるのかと聞いてみたら首を横に振られた。
時計が零時を回る頃には大叔母は疲れたとタクシーを呼んで帰宅し、後に残されたのは酔い潰れた男二人だった。
美砂ちゃんに知られたくなかったのでは…明日の朝ここへ来るのに。
今さら鹿島くんの身を案じても仕方がないので、運び込まれたばかりの段ボールの中からタオルケットをひっぱり出した。
四月下旬といえ夜は冷え込む。
台所から音が聞こえてきた。パタパタと台所へ向かうと八坂くんが一人で洗い物をしている。
「ごめんね、お客様に洗い物なんて。気を遣わせてしまって」
「大丈夫。こちらこそ押し掛けて騒がしくしてごめん」
洗い終わった食器を拭きながら片付ける。
「ううん、助かった、です。冷蔵庫や段ボールをどうやって運ぶか困ってたので」
「夏休みに入ったらクルマの免許を取るから、必要なら呼んで良いよ。荷物くらいなら運べるから」
おお、八坂くんが長いセリフを喋った!
「ありがとう。でも私も車の免許は生活に必要かな、と思ってて。家の事が落ち着いたら取りに行くつもりなの」
買い物のたびに呼び出すなんて出来ないし。
第一、買い物の荷物運んで下さいなんて申し訳なくて言えない。
「どこの教習所へ行くの?」
「一番ここから近いところに行くつもりだよ」
「そっか」
八坂くんは何か考え込んでしまった。
沈黙が辛い。
いつも、ありがとうございます。




