タケノコの妄想
金曜日
朝の通勤ラッシュも落ち着いた頃に、電車からバスに乗り換え祖父の家へと向かう。
ついでに食材の買い出しもしていくつもりだ。
スーパーと道を挟んで反対方向に道の駅があり、旬の野菜ならこちらの方が安いときがある。
二泊三日その内の一泊は四人分の食事だ。
出来るだけお金は節約したい。
メモを手に、野菜を選びながらカゴへと入れていく。ここで見つからなかったものは、向かいのスーパーで探す。
ふと、物産販売の一角に目がとまる。タケノコだ。丈三十センチほどのタケノコが一本千円で売られていた。
「タケノコって高いんだ」
いつも裏の竹藪で採っていたから値段を知らなかった。
掘り慣れているから時給に換算すればかなり稼げる。でも、たくさん掘って売れるのか心配だ。
一つ千円だがカゴに残った数が少ない。タケノコはかなり売れているようだった。
「でも、春だけしか採れないから他の季節が困るよね」
竹林や山だけなら祖父の所有している土地は広い。タケノコで一攫千金と思ったが、他の季節は何を売るのか思いつかずに諦める。
でも…
道の駅に並ぶ野菜たち、手作りの作品、植物を売って生計を立てている人がいる。
そんな働き方もあるのだと、目から鱗が落ちた気分だ。
一つの選択肢として、覚えておこう。
ぼんやりと考え事をしながら、買い物をしていたらすでにお昼前になっていた。家路を急ぐ。
重い買い物袋を下げて坂道を登る。
ああ、やっぱり免許がほしい。
家の前に人影が立っている。この前のことを思い出して、緊張が走る。
家に近づくと人影はこちらを見てニッコリと笑った。
「あら、大きな荷物持って。ご苦労様」
大叔母は同じくらいの荷物を持って、前庭の雑草を抜いていた。
「えっ家の鍵は?」
「持っているんだけどね、ここはもう紅実ちゃんのお家だから勝手に入れなくて。待ってたの」
なんと律儀な。
「着くのが遅くなってごめんなさい。鍵開けるので、中で休んでください」
慌てて鍵を取り出すと、玄関を開け放った。
「ありがとう。お邪魔します」
「いや、まだ全然片付けも進んでいないんです。家具も揃ってなくて」
大叔母は玄関を上がると、スリッパを鞄から取りだして履いた。
「そんなことないわよ、家の中がずいぶん綺麗になってる。スリッパも新しくしてくるんだったわ」
雑巾しかないので、ひたすら拭いていたからか。
大叔母が来ると分かっていたら、もっときれいにしておいたのに。褒められたのに安心できない。
大叔母の家には、チリ一つ落ちていないと母が常々言っていた。
そのくらい綺麗好きと言うよりは、家事全般が完璧なのだ。
だから家に来られるときは、無意識に比べられるのではと戦々恐々としてしまう。母のように自分が大雑把だと公言できるなら別だが。
「台所にお野菜、置かせてね」
台所と聞いて、冷蔵庫の話を思い出した。
「この前、冷蔵庫いただけるって母から聞いたのですが運び方がまだ…」
「あら、大丈夫よ。永島先生に聞いてみたら、学生さんとトラック貸してくれるらしいわ。ついでに紅実ちゃんの実家へ寄って段ボールも積んでもらいましょうか」
そう言うと、大叔母はスマホを取り出して電話をかけた。相手はきっと永島先生だろう。
電話口から「喜んで!」と聞こえてきたのは、きっと気のせいだ。
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