嵐の予感
『河童?』
昼下がり、トイレ休憩に出たとき鈴さんを見かけたので質問をした。
「さっき五右衛門風呂の後ろから、緑色の生き物が走り抜けたんです。祖父の日記にも書いていたので、もしかしたら庭に居るのかと思って」
『そう言えば、おったなぁ。最近見てへんから向こうへ帰ったか、野垂れ死んだか思てたわ』
「野垂れ死に…」
鈴さんはいつもの調子で答える。
『庭で見かけたんなら、そのうち会えるわ。そろそろ戻りや、可愛いお姉ちゃんが探してはるえ』
猫は鼻をスンっと鳴らして、竹藪の中に消えて行った。
「あ、紅実ちゃん見つけた〜。これから土間のコンクリの上にタイル貼ろうと思うんだけど、一緒に貼ろうよ」
入れ違いに美砂ちゃんが顔を覗かせた。
「ごめんね。猫を見かけて寄り道してました」
「あっ猫がいたんだね。紅実ちゃんが、独り言いってると思ってた」
それじゃ、私が危ない人だ。
そうか、周りに人がいる時は気を付けないと危ない人に認定されてしまうんだ。気をつけよう。
午後の作業も順調に進み、この様子で行けば来週にも待ち望んだお風呂が完成するそうだ。
「お疲れ様でした。また来週も宜しくお願いします」
今日もまた仕事終わりの銭湯に誘われたが、実家に帰るからと無理やりかわした。
年下のモデル体型と銭湯なんて、ハードルが高すぎる。
「えーっそしたらね、次の土曜日はお泊りさせてほしいな。その方が作業も進みが早いから!ね?お願いっ」
美砂ちゃんが顔の前で手を合わせ、拝んでくる。
いたたまれない。
「分かりました。でもご覧の通りお客様用のお布団もないので、寝袋は持参でお願いします」
苦笑いで許可を出すと、美砂ちゃんの後ろから男の子二人も片手を上げた。
「僕も泊まります」
決定事項か、鹿島くん。
「俺も泊まって良いですか」
珍しく意思表示をしたね、八坂くん。
「一人泊まるのも、三人泊まるのも同じなので良いですよ」
なかば投げやりに承諾した。
それが、こんな窮地に立たされることになるなんて。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




