湿原の測量
『紅実子様、昨夜はご馳走様でした。お陰様で皆、英気を養いました。本日は湿原の計測を見に来てくださったんですか?』
土門自身も泥で汚れながら、充実感に溢れた笑顔でハキハキと挨拶をした。
どうやら河童たちに長い竹を使わせて実測させていたようだ。
『河童たちは身が軽いので、泥に足をとられることもなく進めました。ここから向こうの正面までは深いところでも四メートル程で、設計図の通り長い杭を打ち込みながら進めば、完成も難しくないと思います』
そう言って土門は設計図を片手に興奮気味に語っている。
「お疲れ様でした。今日、行って帰って来たのですか?」
あんな時間まで呑んでいたのに?と胸の内で付け加えた。
『儂らは人間と比べると睡眠時間も短いですからね。また八坂の旦那に会えたなら、一度経過を見に来て貰えるように頼んでもらえますか』
土門にとって八坂くんは完全に師匠の位置づけになっている。
「分かりました、伝えますね。ところで途中、八百屋さんらしきお店を見たのですが」
『店を見にいらしてたのですね。ご依頼を受けていた店は粗方修理が出来とりますので、案内いたしましょう』
粗方と言うと、ほぼ全部じゃないだろうか。
疑問を持ちながらも土門について行くと、土門は店の立ち並ぶ通りから逸れて、通りの北にある斜面の方へ向かった。
『紅実子様、先にこちらの牧場をご覧いただけますか?』
案内されたのは斜面に位置する柵で囲われた広い草原だった。点々と生えた木が木陰を作り出して、休憩場所にも良さそうだ。
中程には立派な牛舎も建っている。
「こんな広い所で牛を飼うんですね」
牧場へ来たのは初めてだった。
『柵は傷んだ部分を取り替えました。牛舎は少し増築しているので、全体的に新しくなっています。この広さなら牧草を仕入れることで、それなりの数を飼育できるでしょう。近くに井戸もあったので整備しておきました』
先日の市で牛を三頭予約したが、次回はもっと数を殖やしても大丈夫そうだ。
『宿屋と食堂に関しては、現在進行中です』
一応現場を見ておこうと足を向けると宿屋と食堂は町の中心部に近く、隣り合って建っていた。
『修繕の予定だったんですが、昨夜紅実子様のご友人方に相談しましたら改築することになりましてね』
「初耳です」
『ご報告が前後してしまって申し訳ありません。なんせ新しい設備の提案をされてしまっては、もういても立っても居られませんで』
そう言うと土門は懐から大事に畳まれた設計図を取り出した。
最近あの三人と仲がいいと思っていたが、私抜きでどこまで話が進んでいるのだろうか。
お読みいただき、ありがとうございます。
湿原に橋をかける作業が始まりましたね。隣町が近くなるので、楽しみです。




