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暫定八百屋

八俣の町は、以前訪れた時よりも心なしか整備されているように見える。


河で河童に畑の拡張を頼んだあと、寅次の店まで“産土”を使って移動した。なぜ寅次の店かというと、一番イメージがしやすかったからだ。


町中へと歩を勧めていくと、中心部よりは寅次の店に近い場所に真新しい木の香りがする店があった。ここだろうか。

「お邪魔します」

一言断って中を覗くと、店の中には木のカウンターが両脇に並び、真ん中には長い石でできた階段状のものがある。

ここに野菜を並べていたのだろうか。


奥へ進むと左側には六畳ほどの畳の部屋が小上がりで作ってあった。

「ここは休憩室かな」


右奥には裏庭へ続く扉と二階へ上がる階段がある。二階はきっと生活スペースになっているのだろう。

リフォームとは言え、とてもセンスが良い建物だ。ここならきっとお洒落な八百屋が出来そうだ。

『それにしても、人が居ないな』

桂兎は辺りを見渡して言った。

「もしかしたら湿原の方かも。行ってみようか」

店を出て道なりに歩いていくと、十分ほどで前の景色が変わってきた。

『あそこにいるのは魚屋だよ』


桂兎の指差す先には、豆粒のような人影が見える。

「目がいいね」

『人よりはね』


小走りで近づくと向こうもこちらに気が付いたようだった。

『よお、嬢ちゃん。来とったんかいな』

寅次が大袈裟に手をふる。


「誰もいなかったので探しましたよ」

周りを見れば町の住人総出で野次馬に来ているのだと分かった。


『そら悪かったな。モグラ商会が湿原に橋かける言うさかい皆、興味持ってしもてなぁ』

「紅実子がこの前言うてた話やんか。どないして橋渡すんやろって話になったんよ」


鈴も見に来ていたようだ。

「せや、この前は紹介できひんかったから八芽を紹介しとくわ。雑貨屋してはるから、この先行くこともあるやろ」


鈴が隣りに居た女性の紹介を始める。

長いウェーブのかかった亜麻色の髪に黒目がちな瞳はどこかのお姫様のようだ。


『鏡守り様、お初目にかかりまする。八芽(やつめ)と申します。どうぞ、よろしゅうおたの申します』

「そのうち分かることやから言うとくけど、八芽は日が暮れると姿が変わるから気ぃつけなはれ」

鈴が悪戯な笑顔を浮かべた。


「姿が変わるって、鈴さんもじゃないですか」

「うちの比やないで。でっかい蜘蛛さんにならはるし」


蜘蛛…あの儚げな美少女が蜘蛛になるなんて想像もつかない。

「ま、そのうち分かるやろ」

鈴が話を切り上げると、湿原の中へ行っていた河童たちが泥だらけになって戻ってきた。


『あぁ〜大変だべさ』

『計量いうやつじゃろ?これで測り終わったんか』


河童の頭の上から土門が飛び降りてきて、労をねぎらう。


『お陰様で思ったよりも順調に測れましたよ。これで設計図が完成します。いや、これも河童さん方のお力添えあってのことです』

河童たちは満更でもない様子だ。


『まあ、紅実子様の為だべ。いつでも声さかけてけろ』

土門はこちらに気が付き、こちらに向かって大きく手を振ってみせた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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