先手必勝?
朝から曇っていた空は、午後から雨になるという。
昨夜大量に交換してきた苗を見て、赤槌はとても興奮していた。一族のことがなければスギナの店に行きたいくらい興味を持ったようだ。
ひと鉢、ひと鉢を丁寧に確認して午前中に植え付けを終わらせるのだと張り切っている。
私も良い機会なので、ハーブ図鑑を引っ張りだし購入したハーブについて赤槌の講義を聞きながら休み休み書き換えた。
何度目かの休憩で昼の献立を考えながら赤槌の作業を見ていると、ポケットが震える。
何かを忘れている気がする。
こわごわと画面を開くと八坂くんからメールが届いていた。
[今から行きます]
昨日から見なかった事にしていたメールをすっかり忘れていたのだ。今日は大学があったはず。
慌てて昨日からのメールを読み返すと、心配が募っていく様子が分かった。急いで返事を返す。
[大丈夫です。疲れて寝ていました。ご心配をおかけして、すみません]
間を置かずメールが届いた。
[昼過ぎに行きます。話したいことがあるから]
文面が怖すぎる。最近の八坂くんは心配ばかりさせたせいか、とても口煩い。
脳裏に昨夜ちらっと垣間見えた八坂くんの部屋が蘇った。移動が始まった時に意識が逸れたので、到着場所を間違えたのだろうか。
あれは向こうも驚いただろうから謝らなくては。
[分かりました。昨夜のことでしたら、勝手にお邪魔してごめんなさい]
先手必勝、先に謝っておく作戦だ。
画面を閉じて庭に視線を戻すと赤槌が家の南側へ移動して植え込みを始めている。
昨夜のハーブたちは大部分が南側へ植え込まれるようだ。
ハーブ図鑑の厚さを見るに、種類はとても多そうなので少しずつ揃えていきたい。
目指すのはカフェ・フォックスグローブのような庭だ。
作業をする赤槌の横へしゃがみ込み今後、買い足す植物について相談をする。
『植物には一年草と多年草があって、カフェで植えていたのは、宿根草をメインとした多年草と彩りの為の一年草です。割合は七対三くらいでしょうか。冬場は地上部が無くなるものも多いので見栄えを考えなければいけませんが』
園芸初心者の私にわかりやすく丁寧に教えてくれる。
外玄関の先でキキッと自転車のブレーキ音がして、八坂くんが入ってきた。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
気まずさから顔が引きつるが、頑張って笑顔を心がける。
「ハーブ、買ったんだ?」
「はい」
「昨日の市で?」
「そうです」
「“産土”使って行った?」
「…はい」
気分は取調室だった。そう言えば以前にもこんな事があった。あれは、隠し部屋が見つかった時だ。
「俺の部屋に来たことなかったけど、来れたんだ?」
「何故か分からないですが、突然お邪魔してすみません」
なぜ八坂くんのところへ行ったか、理由は口がさけても言えない。
「行ったことのない所でも、移動できるんですね」
「残念、俺も“産土”使えたら良かったのに」
「何に使うんですか?」
そもそも、試していたのか。
「秘密、でも紅実ちゃんが多用するなら【誓約】で分けてもらおうかな」
それは牽制だろうか、そう思って視線を返すと八坂くんはニヤッと笑った。
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