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スギナの店

スギナの店は市の少し外れにあった。


幾つもの木箱が店の外にはみ出し、植木鉢が乗っている。置ききれないものは地面に置かれていた。

広い場所が必要になったので、必然的にそこへ落ち着いたのだろう。

陶器の鉢が不規則に並び、何種ものハーブがワサワサと繁っている様子は園芸店とは少し趣きが違って見えた。


「今晩は、こちらのお店では物々交換してもらえますか?」

『おや鏡守り様、お帰りになったのでは』


店主と話していたのか、シルフの長ミムラがお茶を啜りながらこちらへ向き直った。


『鏡守り様?今代の鏡守り様がお生まれになっていたので?』

コップを置き、あたふたと出てきたのは店主のスギナだ。


『初めまして、ハーブの店をしております店主のスギナです。鏡守り様には昔、お世話になったことがございます。どうぞ、よしなに』


人の良さそうな中年男性がエプロンをはたきながら店の前へと出てくる。


「初めまして、笹木 紅実子です。スギナさんと面識があったのは祖父かも知れませんが、何も聞いていなくて…すみません」


スギナは大きく手を振るとニコニコと笑いながら答えた。

『いえいえいえ!お気になさらず。それにお世話になったのは女性でしたし、確かお名前は…ミキ?ユキ?』


祖父の前の代だろうか。


『サキ、そうサキ様です。もう、歳を取ると記憶があやふやで駄目ですね。あッ、お買い物でしたね。何と交換させてもらいましょう』


サキ、どこかで聞いたことのある名前だった。


「えっと、蜂蜜と交換をしてもらえますか?」

鞄から蜂蜜の瓶を三個ほど取り出す。


『ハチミツ!おお、何て純度の高い。高級品ですね。ぜひ交換して下さい。うちの商品はどれも丹精込めて育てていますよ』


交換は問題なく進んだ。

赤槌に言われたとおりに、庭の日照時間と風通しを伝えると幾つものハーブ苗や種を並べてくれる。

『日当たり良く風通しの良い庭におすすめなのが、ラベンダー。こちらの鉢は大株で蕾も沢山付いていますよ』


苗で購入したのがラベンダー、ローズマリー、ローリエ、レモングラス、タイム、セージ、マートル、ジギタリス、ドックローズ、ホスタ


種を購入したのはバジル、チャイブ、ジャーマンカモミール、ベルガモット


同じ種でも香りの違うものもあるので、すごい量の荷物になった。


『大丈夫ですか、持って帰れますか?』

スギナは心配そうに聞いた。


「大丈夫です。“産土”を使って転移が出来るので、この風呂敷の上に置いて下さい」


一瞬ミムラの眉毛がピクリと動いた気がしたが、気のせいだ。


スギナはせっせと風呂敷の上に鉢を纏めると風呂敷の端を括った。もちろん上部ははみ出しまくっている。


『こんな状態で大丈夫でしょうか』

「大丈夫です。こんなに沢山、交換していただいてありがとうございます」


お礼を言って頭をペコッと下げた。

思っていたよりも沢山のハーブを手に入れてワクワクする。


「それでは、また」

挨拶を済ませると、頭の中に居間を思い浮かべる。計算上、足が立たなくなるのが三回目なのだ。


景色が回り反転する感覚のあと居間に座り込んでいた。荷物もきっちり持ち帰っている。


「良かった」

時計を見ればそれなりに遅い。回復したらさっさとお風呂に入って休もう。


ふいにちゃぶ台の上に置いていたスマホが震えた。嫌な予感がする。


そっと履歴を見ると着信一件、メール二件。

「見なかったことにしよう」


疲れを理由に、そっと画面を閉じた。

おはようございます。今日もお読みいただき、ありがとうございます。

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