風呂上がりとの遭遇
夕飯のアクアパッツァには平たいパスタを茹でて添える。
今日の食卓を囲んだのは赤槌と桂兎、私の三人だった。
桂兎は基本食べなくても問題ないが、料理に使う香辛料や味付けに興味があるようだった。
「それで庭に植える植物についてなんですが、さっきまで精霊の丘に行っていたんです。ハーブの苗や種を売っているお店があったので庭に植えるものはそこで買えたら良いんですが、私はあまりハーブに詳しくなくて」
さっきの思いつきを赤槌に相談してみる。
赤槌の顔が少し曇る。何か問題があったのだろうか。
『精霊の丘というと、シルフの市ですよね。土小人の一族とは昔から仲が悪いようで…いや、儂は会ったこともないんですが、ハーブに関わる儂の家族も敬遠されるくらいなので根が深いようです』
赤槌は苦笑いでそう言った。
「民族間の問題は難しいですよね。苗をそこから買うのは問題ありますか?」
『いいえ、先程も言ったように儂は会った事もないので好きも嫌いもないですよ』
それが聞ければ充分だ。
「それじゃ、私が苗を買ってきますのでオススメのハーブ教えてください」
赤槌は腕を組むとうーん、と唸る。
『おすすめと言うのは難しいので、ハーブを売っている店の者と相談して下さい。この庭は日当たりが良いところ、半日陰になるところ、完全な日陰になるところがあります。そう言えば、きっと分かるでしょう』
「…もう一度お願いします」
メモを用意してから、もう一度言ってもらった。
ハーブはそれなりの数が欲しい。交換には何を持っていけば良いだろう。
ふと、棚に並んだ蜂蜜が目に入った。
お土産などで貰うものの、一向に減らない。
「とりあえず持っていこう」
赤槌に教えられたメモを持って、上着をはおり荷物を背負う。鏡の部屋に向かおうとして思い立った。
「ここからも移動できるかな?」
前の転移からは時間が経っているし、問題はなさそうだ。日に二往復も河の上を走る元気はなかった。
尻餅をつかないように念の為、座ってから精霊の丘を思い描く。
そもそも八坂くんが背負うとか言うから、走る羽目になったのだ。あんなに全力で追いかけなくても良いのに。
ぐにゃりと景色が歪むと目の前には、風呂上がりの八坂くんがいた。
無言で硬直して見つめ合う。
イメージが定まっていなかったせいか、到着地点を間違えたらしい。
慌ててガジュマルの大木を思い浮かべる。
「え、何で、ちょっと…」
八坂くんが何かを言いかけたが、聞き終わる前に世界は回り今度はきちんと精霊の丘へ到着した。
あちこちでランプの炎が煌めいている。
足が立たなくなったわけではないが、しばらく座ったままぼんやりと考えた。
行ったことのある場所限定だと思っていたのに。これからは気を付けないと、考えた人のところへ移動してしまう。
「帰るのが怖いな」
“産土”を使ったのが今頃バレているだろう。
まあ、考えても仕方がないと頭を切り替えると、立ち上がり賑わう市へ入っていった。
今日も一日、おつき合いありがとうございます。
もう少しタイミングが早かったら、お風呂場に移動していたのでしょうか。
誰得な場面になるところでした。




