赤槌の報告
アオイの店を出たあとも幾つか店を回ったが、時間も遅くなってきたので精霊の丘を後にした。
帰りも河の上を走ったのは言うまでもない。
家に帰り着くと疲労のあまり、畳の上に崩れ落ちた。
明日は私も筋肉痛で動けなくなるかも知れない。
八坂くんはあんなに動き回った上で、明日は大学の外せない授業があるので帰宅した。
たった二歳差でこんなに体力が違うのかとつくづく思う。
「明日は家でゆっくりとしよう。外に出たくない」
独り言を呟くと、足もとに桂兎が立っていた。
『若い娘がごろごろとだらしない。湿布を貼るなら、さっさと貼りなよ』
そう言うと、いつの間に買ったのか照亀印の湿布が机の上に置かれていた。
『研究のために買ったんだからね。僕には必要ないし使えば?』
「ありがとう、少し貰うね」
ふくらはぎに湿布を貼ると、熱を吸い上げるように怠さが引いていく。すごい効き目だ。次に市で見つけたら常備用に買っておこう。
台所へ行って棚の上から薬箱を降ろす。
使わなかった水中息を仕舞っておいた。
いずれどこかで使ってみたいが、あの河はやはり深くて泳ぐには怖い。しかし普通の市民プールで水中息を使うのは、溺れてると勘違いされてもおかしくない。
考え事をしていると、台所の窓辺に座る赤槌と目が合った。
「あっ、夕飯すぐに作りますから待ってて下さいね」
現在、朝昼晩と自分の食事を作るついでに赤槌に出している。出掛けるときには、おにぎりやサンドイッチを置いていくが夏場になったら保冷の効く箱を買ってお弁当形式にしようか。
『すみません、食事もなんですが今日はご報告に上がりまして』
「報告?」
今日はご飯を炊くのが待てなかったので、昼に寅次の店で買った魚を使いアクアパッツァにする。
『はい儂の息子が無事に登録終わりまして、尾上の店で働く事となりました』
その事か。野菜の納品のこともあるし、尾上の店に一度様子を見に行こう。
行くとなれば、八坂くんにも連絡しなければならない。勝手に尾上の店に行けば、後で危ない真似をするなと怒られるに違いない。
『それと庭のことですが』
「あ、はい」
すぐに、ぼーっと考え事をするのは悪い癖だ。
『土の改良が進んだので、そろそろ苗を植え付けようと思います。儂がお世話できるのはハーブや園芸品種が主になりますが、お好みの苗を買ってきて頂ければと思います』
そう言って一礼すると、赤槌は窓から外へぴょんと飛び降りた。
急に言われても、ガーデニング初心者には植物の名前すら簡単に思い浮かばない。ハーブの名前だって片手で足りるくらいしか知らなかった。
こんなことならさっきの市でハーブを買っておけば良かった。月が沈むまで開いているのだから、後で行ってみようか。
あともう一話、夜に更新します。




