月夜の市場
妖精たちはレンガの台に布をかけ、木組みの屋根にランプと花を飾り付けたお洒落な店で品物を並べていた。
「きれい、頑張って来た甲斐があった」
「そうだね、頑張って走ってた」
好き好んで走っていた訳ではない。
店には木の苗や草花、ドライハーブやドライフラワーが並んでいる。
妖精たちは蝶やトンボのような羽を羽ばたかせ、木の上で気ままに会話を愉しむ者もいた。
これだけ見れば絵本の挿絵のような景色だ。
違和感は頭の上にカゴを担いだ河童が店の前で立ち止まったり、買い物をしているところにあった。
『紅実子様、オラ達そこの店で食器を買うべ』
キョロキョロとあたりを見渡していると、九太郎が教えてくれた。
その店は店先にずらりと壺を飾り、スープカップやマグカップに平皿や小皿まで所狭しと並べてある。
「可愛い」
河童たちが大事にしているだけあって、とても手触りのいい手にしっくりと馴染む陶器である。
手前の平皿は白地に青い花の絵が描かれて、シンプルだが飽きのこないデザインだ。
「いいな、お皿とかマグカップとか」
値段を見てもまだ解読できない。河童たちはトマトと蜜のようなものを交換したりしている。
「ここのお店でも交換してもらえますか?」
『何と交換したいんじゃ?』
店の中にちょこんと座った初老の店主が応えた。
サンタクロースのような風貌にモンシロチョウの様な羽が生えている。
「持ってきた物を見てもらえますか?」
そう言って鞄の中からビニール袋に入れたチョコレートやパイ菓子、一番小さな瓶入りの梅酒を取り出す。
『初めて見る物ばかりだ』
店主は訝しげに匂いを嗅ぐと、目を見張る。
『香りは良いな。これは一体なんじゃ?』
「お菓子とお酒です。これは木の実と砂糖で出来たチョコレート。これは小麦粉とバターと砂糖で出来たパイと言うお菓子、こっちの小瓶には梅の実と氷砂糖をブランデーで漬けたお酒が入っています」
『ブランデーは知ってるぞ、好物だ。一口いいかね?』
店主は懐から小さな陶器のコップを取り出すと、梅酒を試飲した。
こちらの小人たちも酒好きなのだろうか。
『これは美味い!よし、この酒で取引に応じよう。この店の中から好きな物を選んでくれ』
店主は梅酒を気に入ったようで、コップに残った一雫まで飲み干した。
この梅酒一本でマグカップとお皿は交換できるだろうか。
「お皿とマグカップ、お願いしたいのですが」
ポピーの描かれたマグカップとお皿を指差す。
『どうせならその瓶ごと交換したいのぅ。隣の兄さんとペアで使えるように二つセットで譲ってやろう』
余計なお世話だった。
しかし、八坂くんにも一応聞いておく。
「ペアじゃなくて良いから、下宿するときに使いたいコップとお皿があったら選んで下さい」
「このままで」
即答されたので、八坂くんもポピーが良かったのだろう。それ以上は何も言えず、交換してもらったお皿をタオルに包むと鞄にしまう。
『また来ておくれ、毎回満月の夜には店を出しとるよ。皿の絵も毎回変わるでな』
「絵付けもおじさんが?」
『わしが描いとる。他に誰が描くんじゃ』
店主の名前はセッコクといい、市のない日は焼き物を焼き、野原や山で花を模写して過ごしているそうだ。
「また来ます」
ここの陶器は集めたくなる。
後ろ髪を引かれる思いで、セッコクの店を後にした。
おはようございます。今日もお読みいただき、ありがとうございます。




