選挙演説
湿原に架ける橋については図面を自分たちで用意する必要があった。
「また大学の図書館で調べてくる」
八坂くんが黒電話を切る。
建設方法について土門としばらく話し合っていたようだが、細かな所や技巧については調べない事には解らない部分もある。
途中、小声で話をしていた事もあって、話が脱線していたようだった。
「さっき、何か小声で相談していませんでした?」
疑問をぶつけてみる。
「気になる?」
「…別に、そこまでは」
「プライベートなこと」
そう言われたら、これ以上聞けない。
いつの間にプライベートなことを相談するほど、土門と仲良くなっていたのか。
『飯炊けべや~』
棚田の下から前掛けをつけた河童が叫ぶと、作業をしていた河童たちは我先にと道を下っていった。
「私たちも行きましょうか」
山羊に食べられ、幾分か歩きやすくなった畦道をゆっくり歩いてゆく。
先日植え付けた稲は、きちんと根付いたようで青々とした葉が水面で風に揺れている。
街中で育った紅実子には馴染みがない風景なのに、なぜか心休まる風景だった。
炊き出し所へ着くと、前掛けをした河童たちがそれぞれのお皿に鯛めしをよそっているところだった。紅実子たちの為なのか、鯛のお頭は残してある。
『紅実子様の作ったご飯さ食べたら、ほっぺた落ちるべ』
近くにいた河童が皿のご飯をスプーンで頬張りながら、口々に料理を讃えてくれた。
思えば、いつの間にか屋敷の前が炊き出し場所として定着している。
最初に八坂くん達が作ってくれた簡易的な石窯を大事に使っているのだ。河童たちにもきちんと食事を食べられる、食堂のような場所が必要かもしれない。
それも《やることリスト》に追加しておいた。
河童たちの食事が終わり、また作業場へ散り散りになる前に相談事をいくつかしておかなければならない。
「皆さん!少しご相談したいことがあります、お時間少しいただけますか?」
河童たちは何を思ったのか、拍手で応える。
選挙演説ではないのだ。
八坂くんまで流れで一緒に拍手をしている。
「三つほど、ご相談したいことがあります。一つは野菜の販売について。今作っているお野菜の一部を売ることで、魚や調味料、通貨を貯めて生活の向上に充ててはいかがでしょう。」
また拍手が起こる。なんだかやり辛い。
「二つめは売る場所です。今の段階では向こうの世界にあるカフェと町に作る八百屋の二箇所を予定していますが、将来的にはもっと増やしていきたいと思います」
河童たちは目を丸くして感嘆の声をあげてた。
「三つめは、町の向こうにある湿原に橋を渡す工事をします。水に強い者が居れば手伝って貰いたいのですが」
これにはどよめきが広がる。
『紅実子様、湿原に橋なんざ渡せるだすか?』
「向こうの世界では可能ですが、こちらでは多分初めての試みになります。私一人の力では、成しえないことなので皆さんのお力を貸して貰えないでしょうか?」
言い終わると、少しの静寂のあと耳が割れんばかりの拍手が巻き起こった。スタンディングオベーションか。
拍手に乗せられて、最終的には選挙演説のようになっていた。
おはようございます。今日も宜しくお願いします。




