草原に現る
一度鏡を越えて部屋に戻り休憩をする。
一時間ほど休むと体調が戻ったので八坂くんに許可をもらい、鯛を持って河童のところへ向かった。
「絶対に無理はするな」
八坂くんはすっかり母親の様になってきた。
屋敷を出ると米を炊こうと精米に来ていた河童たちに出会った。
「あっちょっと待って、間に合って良かった。今日は炊き込みご飯にしようと思って、具材を持ってきたんです」
荷物の中から昨夜、捌いた鯛二匹を取り出すと河童に渡す。調味料を加えて、あとは普通に炊くだけだ。
「そうだ、九太郎に用事があった。田んぼの方を見てきます」
『炊けたら呼びに行くべ』
河童たちは手をふって応える。
棚田では午前中に市場で交換してもらった山羊たちが、美味しそうに草を食んでいた。その背中には童河童が一匹ずつ乗っている。サイズ感が丁度いい。
田んぼの中で雑草を抜いていた九太郎が、こちらに気づきドッポンドッポンと歩いてきた。
足の水かきが派手な水音を立てている。
『紅実子様、ようおいでなすった。さっき預かった山羊たちも元気に草食べてくれてるべ』
「こんにちは、山羊たちもお腹すかせてたみたいだから沢山食べてほしいですね。それから相談したいことがあるんですが、昼食の時にでも聞いてもらえますか?」
『もちろんだぁ。オラたちにできる事なら、何でもいってくれ』
快諾されたので、伝え忘れの無いようにそっとメモを確認する。
そうだ、山羊たちに小屋もいる。下の方は鶏小屋や倉庫もあるので棚田より上に建てようか。
土門に電話が繋がれば、すぐに相談できるのに。
無意識にゆびが空を撫でる。
リーン。リリーン。
足もとで黒電話が鳴った。
「これが例の?」
八坂くんは初めて見る黒電話に興味津々だ。
「本も無いのに、掛かった」
リーン。リーン。
電話はなおも鳴り続ける。
「もしもし」
『…お電話、ありがとう…ございます。いてて、モグラ商会の土門です。ご用件をお伺いします』
どうやら鈴の予測は当たっていたようだ。
「土門さん、昨日はありがとうございます。筋肉痛は大丈夫ですか?」
『紅実子様、お気遣いありがとうございます。これしきのこと、いてて…』
筋肉痛に苦しむ土門に仕事の依頼をするのは気が引けたが、回復したあと仕事を始めてもらう事にした。
依頼したのは、山羊の住む小屋と町で空き家になっている店たちだ。
優先順位を決めて、八百屋と牧場を先に修理してもらう事にした。
店の修理があれば暫くは土小人たちが仕事に困ることもないだろう。
私の貯金が尽きる前に、収入を得られるのかは賭けだが。
それから湿原に架ける橋についても持ち掛けた。
『湿原に橋…ですか。やった事がないですねぇ。通常は無理だと断るところでしょうが、設計図があるなら請け負いましょう。但し、儂らは泳ぎが苦手なので水際で働ける作業員も必要になります』
土小人はやはり水が苦手なようだ。
今日も一日ありがとうございます。




