真夜中の光彩
買い物を済ませて寅次の魚屋に戻り、服を着替えたあと先程の失踪事件について説明した。
「頭で行きたい場所を思い描くと、地面がぐにゃっとなって移動していたんです」
猫又たちは考え込んでから、私の足下を見た。
「紅実子、足に何かついてへん?」
『指輪とか足輪とか、最近変わったことは?』
そう言われて思い出すのは昨夜まで続いた変な儀式だ。
それを事細かに説明すると鈴と寅次は真剣に聞いていたが、八坂くんは震えながら途中で席を立った。
モグラ商会で出会う人々の風貌をよく知るだけに、我慢の限界を超えたのだろう。
それも無理もない話だ。誰だって土門の頭にリボン付きの電飾がキラキラと輝いて、フリルを翻して盆踊りの様なものを踊っていただなんて、なんの冗談かと思う。
それが儀式だと言うなら、他には方法がなかったのかと聞きたいくらいだ。
鈴は足の指にはまったトゥリングを見て断定する。
「それは“産土”の門やな。土門のおっさんが用意してたんやろ。説明に来はらへんのは、筋肉痛で寝てるん違うか。同時に仕事もしてたみたいやし、過重労働や」
それは悪いことをした。
「踊ると筋肉痛になるんですか?」
普段、あんな仕事をこなす人たちなのに踊ったくらいで筋肉痛になるものだろうか。
「儀式は三日間続くさかい、かなりの体力使うで。紅実子も産土つこて移動すんのに、それなりの力をつこてるはずや。乱用はしたらあかんで」
「気をつけます」
しかし便利な力に浮かれないわけが無い。
今日も寅次の店で魚を交換してもらうと、持参していた保冷ボックスに入れた。
「それじゃあ、屋敷に戻ります。今日はありがとうございました」
鈴と寅次にお辞儀をした。
片手に自転車を持ち荷物を肩に下げ、もう片手で八坂くんの服の裾を掴むと屋敷を思い描く。
ぐにゃっと世界が回ったかと思うと、あっという間に屋敷の前に出た。
「…おい、今のは」
八坂くんはバランスを崩さなかったようで、尻餅をついたのは私だけだった。
「八坂くんにも、体験してもらいたくて」
迫る八坂くんに目を逸らしながら、精一杯の笑顔で答えた。嘘は言っていない。
帰りの道が憂鬱だったのも本当だが。
しかし、逃げようにも尻餅をつき続けたせいか足に力が入らない。
立てずにいると、自分の自転車を置いた八坂くんが戻ってきて私を背負った。
「ひっ、下ろしてください。自分で歩けますし、重いですよ!水が降りますよ!」
焦って思いつくかぎり必死の抵抗をしたが、虚しく一蹴される。
「産土を使い過ぎて力が抜けたんだろ。鈴さんにも注意された所なのに。一度部屋に戻って休まないと、おんぶで移動するぞ」
ぐうの音も出ない。
使用頻度には気をつけようと、強く心に誓った。
ブクマと評価をありがとうございます。
土小人たちの服はどこで調達されているのか、それもどこかで書けたらと思います。




