湿原の橋
食料品と乾物の店“豊瓶”は三店舗並ぶ中で一際賑わっていた。
布袋がずらりと並び、日よけの端には乾燥した葉や枝、ニンニクのような物が所狭しとぶら下がっている。
私たちの世界と同じような野菜といえば、じゃが芋、玉ねぎ、人参、冬瓜、南瓜、長芋、干し椎茸、干しブドウ、唐辛子。全粒粉の様な粉も売っていた。
見たことのない物もある。黒い塊や紅色のかたまり、巨大な卵まである。
「すごい。値段の見方がわからないけど活気があるね」
この町の人々だろうか、手には沢山の野菜と乾物を抱えて帰って行く。
『満月と新月にしか市が開かへんから、買い溜めしとるんや。昔は八百屋もあってんけど、なくなってもうたからなぁ』
寅次はしみじみと言って、自分の買い物も始めた。
「昔はどんなお店があったんですか?」
隣りに居た鈴に質問をしてみる。
「せやなぁ、寅の魚屋と八姫の雑貨屋は今もあるさかい。無うなったんは、八百屋と食堂と牧場と宿屋と…」
結構な数だった。
「こんなに感じのいい所なのに、勿体無いですね」
「交通の便が悪いねん。この先に湿原があるさかい、山沿いを迂回しなあかん。隣の町から半日かかりよる」
こちらの主な交通手段は徒歩だ。皆、歩き慣れてはいるが半日は長い。
『その上、こないだの雨で山沿いで数カ所土砂崩れが起こったみたいや』
買い物を済ませた寅次が会話に参加する。
「それで馬車が通れへんなってんね。今日は特に店が少ないと思たわ」
「湿原の中を通れないでしょうか」
「あんなとこ、通るなんて自殺行為やで」
『せや、真ん中なんて三メートル以上も深さがあるさかい。泥に足を取られたらお陀仏や』
しかし、一つ心当たりがあった。
「私の知ってる湿原には、杭を打って橋を渡している所がありますよ」
「俺も一度、見に行ったことがある」
八坂くんは見たことがあるのか。建て方を知っていたら助かるのに。
「杭やて?」
『そんなもん、誰が作れんねん』
モグラ商会でも無理だろうか。
『まあ、ホンマに湿原の上を馬車で通れたら山道を歩かんでええから、便利にはなるやろけど』
「確かに、遊歩道の建設はあまり詳しくないけど出来ない事はない。ただ…」
八坂くんが少し考えながら言った。
「ただ?」
「土小人たちは水中の作業が出来るのか?」
そうだ、湿原はとても泥濘んでいる。
「それは聞いてみないと、何とも」
「それからだな」
まずは聞いてみよう。
確認ついでに鈴にも確認する。
「さっき言ってたお店の建物自体は残っているんですか?」
「そんまんま残ってたと思うわ。でも長いこと放ったらかしで、酷いもんやで」
「所有者って決まってますか?」
鈴は少し間を置いて答えた。
「そんなもん、あらへん。店を切り盛りして、きちんと商売してるもんが所有者やで」
『今は鈴ちゃんが、町長代わりみたいなもんやな』
横から寅次が茶々を入れた。
「余計な事いいなや」
シャーッと鈴が威嚇する。
鈴は姉御肌ゆえに頼られて、なし崩しに町長になっていたようだった。
何故それを隠すのだろうか。
おはようございます。誤字報告いただいた箇所修正しました。
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