カイトとルミ
生まれて初めて書く小説です。至らないところ多々あると思いますが、読んでいただければ幸いです。
今日は僕の彼女が来る日だ。僕の彼女は少し変わっている。どう変わっているかというと......。
ピンポーン
お、早速来たらしい。
「はーい、今開けるよー」
ドアを開けると彼女は水色のワンピースを着て麦わら帽子をかぶり、リンゴの形をしたバッグを肩にかけていた。
「やっほー!カイト」
「うん、おはようルミ」
「あー、疲れたー」
「お疲れ様、でもまだ午前九時だし、君と僕の家の距離は歩いて十分ほどの距離なのになんで疲れたの?」
「うん、えっとねー。昨日徹夜してこれ作ってたから、まだその疲れが残ってるんだよー」
そう言って彼女がリンゴの形をしたバッグから取り出したのは、鬼の面だった。
「......そっか。どうしてそんなものを?」
僕は不思議な彼女の行動には慣れてるから、さして驚かない。
「うーんとねー、カイトが喜ぶかと思ってー、作った!」
「......うん、ありがとう、嬉しいよ」
「ほんとー?よかったー!徹夜した甲斐があったよー」
さて、別に僕は鬼の面が好きではないし、今は十月で節分の日が近いわけでもない。なぜ彼女が鬼の面を作ったのか......ほんとに僕が喜ぶと思って?考えてもわからない。彼女はそういう謎の性質を持っていて、僕をよく驚かせてくれる。僕はその刺激が嫌いじゃない。
「ねー、今日は何するー?そうだ、しりとりしよっか。リンゴ!」
「いいよ。ゴリラ」
「ララバイ!」
「......ララバイって何?」
僕は語彙力があまりない、読書が得意ではないからだ。読んでいると、落ち着かなくなって、集中できなくなる。恐怖を感じることもある。呼吸をすることに恐怖を感じてしまうような感覚といえば伝わるだろうか。だから頑張って読みはするがあまりたくさんは読めない。
彼女は読書が好きだから僕より言葉を知っている。そういうところは彼女の魅力の一つだ。彼女は純粋性と知性を兼ね備えている、僕からすれば理想的な女性なのだ。
「んーとね、子守唄って意味だよー」
「そうなんだ、オッケー。イノシシ」
「シカ」
「カナダ」
「ダチョウ」
「ウサギ」
「ギンギツネ」
「ネコ」
「コウモリ」
「リス」
「スイカ」
「カマキリ」
「リンドウ」
「......ウシ」
「シマウマ」
「マラソン」
「あ!ん、ついたー!カイトの負けー(笑)」
「あー、負けちゃったー」
「じゃ、罰ゲームね。このお面を被って、私は閻魔大王様である!といいなさい」
そういって彼女は鬼の面を僕に渡す。
「うーん、わかったよ......私は閻魔大王様である!」
「ぷっ、あはははは!ただの鬼なのに閻魔大王様!あはははは」
......僕には彼女のツボが正直よくわからないが、よろこんでくれるならそれでいいだろう。もう一度やってあげよう。
「......私は閻魔大王様である!」
「ふっふふふふ、面白い、面白いよカイト(笑)」
「ならよかったよ」
「いやー、こんなに笑ったのは久しぶり......ありがとう」
「どういたしまして」
「それ、あなたにあげる。大事に取っといて。また笑わせてよ」
「いいの?ありがとう。大事にするよ。もちろん、笑わせてあげるよ」
「ふふふ、じゃ、次は散歩しましょ」
「大丈夫なの?徹夜して疲れてるんだろ?」
「大丈夫、今ので疲れ吹き飛んだから!」
「そう、ならいこっか」
「うん!」
「どこへ行く?」
「もちろん、ネコの村よ!」
ネコの村というのは、僕の家から五分ほど離れたところにあるのだが、畑の密集した空間で野良猫が何十匹も住んでいるのだ。だからネコの村。野良猫と言っても畑の人たちが世話をしてあげていて、ネコが住む小屋まである。
彼女は動物が大好きだから、二人で散歩するときはたいていネコの村へ行く。僕も動物は好きな方だから喜んでついていくというわけだ。
「構わないよ」
僕がこういうと彼女はとてもうれしそうにはしゃいだ。
「やったー!じゃ、早速行きましょう」
「うん、行こうか。」
外へ出ると清々しい空気が身を包む、それを吸い込むのは何とも気持ちがいい。僕の住んでいるところは岐阜県の田舎だ。自然がきれいで、僕は好きだ。都会にあこがれたことはない。人ごみも苦手な方だし、空気が全然違うから。もちろん都会には都会の良さがあるのだろうが、僕にとっては、田舎の落ち着いた空気が一番なのだ。
「ふーん、ふん、ふーん」
「ずいぶんご機嫌だね」
「そりゃそうよ、三日間勉強漬けで、飼っている犬ともろくに触れ合えなかったんだから!」
彼女は高校のテストがあったらしい。僕は学校に行ってないのでやってないけど。僕には社交不安障害という精神の障害があり、学校に行くと緊張してしまって不安になりすごくしんどくなる。だから行けない。いわゆる不登校だ。
「大変だったね」
「ええ、そうね」
「それなのに、鬼のお面を作ってくれるなんて......本当にありがとう」
「いいのよ、カイトのためならなんでもできちゃうもの」
......こんな彼女を持ててなんて幸せなんだろう。唯一心を許せる相手が、素晴らしい性格の持ち主であることはとても幸福なことだ。僕はその幸せを噛み締めた。畑道に着くと、僕達は早速ネコを見つけた。
「着いたわ!あ、あそこにミミがいる!ミミー、おいでー」
ミミは黒いブチ模様の大人の雌のネコだ。畑の人たちがよほど可愛がっているのだろう。ここのネコは人間に対して警戒心が薄い。それに、僕らはしょっちゅうここに来るので、もうほとんどのネコは僕たちになついてくれる。ミミは僕たちに気づくと、すぐによってきた。
ミャーオ
ミミはルミの方へすり寄る。
「いい子ねー、よしよし」
ルミはそう言ってミミの身体をなでる。
僕もミミに近づき、なでる。
ミャー
ミミは気持ちよさそうに鳴いた。