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お客様が「神様」でして ~道後の若女将は女子高生!~(web版)  作者: 田井ノエル
四.神様主催のダンスバトルですか!?
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3.結界の先に

 

 

 

 その日、京の様子がおかしいと、九十九はすぐに気づいた。


「え? スタバ? ……ごめんけど、うち今日は帰るけん」


 道後駅前のスタバに寄って帰ろうと提案したところ、京の反応が芳しくなかったのだ。平生であれば、すぐに「行く!」と即答するところである。


「どうしたの? 京ちゃん、熱でも……あるの?」


 流石の小夜子もおかしいと思ったのか、ひかえめに京の顔を覗いている。

 京は言い難そうに視線を外しながら、ベリーショートの髪を掻いた。


「いや、師匠が……ううん、なんでもない。ちょっと寄るとこあるけん、今日は辞めとこうわい」


 歯切れ悪く言うと、京は「じゃ!」とその場をあとにしてしまう。

 若女将の仕事を理由に、九十九が京の誘いを断ることはあるが……逆の立場になると、結構寂しいものだ。と、今更ながら思ってしまう。

 それくらい、京に誘いを断られたことがショックだったのか。九十九は自分が落ち込んでいることを自覚していた。


「九十九ちゃん、追いかける?」


 小夜子の提案は、九十九の頭になかったものだった。どうして思いつかなかったのだろう。九十九はハッとして、急いでうなずいた。


「う、うん」


 最初は小夜子のことを引っ込み思案で臆病だと思っていたが、最近、つきあっていてわかったことがある。彼女は思ったよりも大胆で、行動的だった。

 考えてみれば、友人の鬼を助けるために九十九をけしかけたくらいだ。元々は行動的なのかもしれない。

 同時に、どうして小夜子があんなに自分に対して劣等感を持っていたのかも気になる。蝶姫は、小夜子に鬼使いとしての力がほとんどないからだと言っていたが……。


「京ちゃん、どうして大学なんかに……?」


 京を追った先は、大学のキャンパスであった。

 九十九たちの通う高校は幼稚園から大学まで密集する、いわゆる文教地区である。すぐ近くに大学があり、比較的いつでも出入りすることができた。九十九も京に誘われて、何度か大学の食堂を利用してみたことがある。

 しかし、高校生が独りで大学へ行く用事などあるだろうか?

 不審に思っていると、九十九は違和感を覚えてハッと息を呑む。


「神気? ……お客様の気配がする」

「九十九ちゃん、お客様って……?」


 九十九の示すお客様とは、もちろん、神様のことである。

 宗教系ではない普通の大学から、どうして、強い神気を感じるのだろうか。しかも、京は強い神気に向かって歩いているように思える。

 広いキャンパスの端を通って京を追いかけた。

 私服の大学生たちが行き来するキャンパスを、制服姿の女子高生が歩くには目立ちすぎる。逆に、京のことも見失わずに済みそうだ。


「あれ?」


 ずっと京を追っていたはずなのに、気がついたら姿が消えていた。

 小夜子も不思議に思ったようで、見落としていないか周囲をキョロキョロと見まわしている。

 京が気づいて撒いたのだろうか。それにしても、その素振りもなければ走ったり、角を曲がったりする様子もなかった。

 本当に気がつけば、こつ然と消えていたのである。強い神気の気配も、薄くなっていた。


「結界の類かも」


 人間を寄りつけない類の結界である可能性が高い。

 神やあかやしなどが結界を用いて人を閉じ込め、迷わせることがある。そのまま結界に囚われると、いわゆる、神隠しと呼ばれることもあった。


「なんとかならないの!?」


 小夜子が焦って九十九をふり返る。流石に目の前で友人が消えたとあっては、穏やかではいられないようだ。

 そうは言っても、


「放っておけ」


 言葉が発せられたのは、九十九の足元からであった。

 見下ろすと、真っ白な毛並みの犬が前足をチョンと揃えて座っている。いつの間に、そこにいたのか。白い犬は九十九たちを見あげて、もふりと尻尾を揺らす。


「シロ様?」

「如何にも」


 どうやら、シロの使い魔のようだ。「シロ様」というよりは、「シロ」と呼んだほうが似合いそうな風貌なのは、おくとして。

 犬と喋る奇異な人間だと思われても困るので、九十九は膝を折って使い魔をなでる。もふもふと、ふっかふかの毛並みが気持ちよい。


「放っておくって、薄情です……!」


 小夜子も抗議をしながら、シロの隣に座り込む。

 使い魔は「はあっ」と息を一つ。九十九のほうに顔を向けた。意図を読むに「面倒だから、お前から説明しろ」と言いたいらしい。

 だが、九十九は首を横にふる。


「言いたいことはわかっていますけど、わたしもどういうことか把握しておきたいので、助力いただけないでしょうか?」

「……どうせ、ろくでもないとは思うがな」


 使い魔は雪のように真っ白な尻尾を揺らし、揃えていた前足で踏み出す。おそらく、意識はしていないだろうが、うしろから見ると、もふもふの尻尾がいっそう強調されていた。実にキュートである。

 ついて来いということで、いいのだろう。九十九と小夜子は顔を見合わせて、シロの使い魔について歩く。

 使い魔について歩くと、神気の裂け目のようなものを感じた。おそらく、結界の内部へ入ることができたのだろう。結界自体に害はなく、九十九たちを追い出そうという動きもなかった。

 いや、招き入れられた? シロがいるから?


「九十九ちゃん、どういうこと? シロ様は放っておけって言っていたけれど……」

「まあ、なんというか……この神気の持ち主のことを、シロ様が無害って判断した結果?」


 神様によって神気の強弱は存在する。そして、微妙だが神気の気配にも違いがあるのだ。

 神気を上手く扱えない小夜子にはわからないだろうが、九十九にはこれが誰の神気かわかっていた。もちろん、シロは九十九などより、よほど理解しているだろう。もしかすると、事の顛末までわかった上で「放っておけ」と言ったのかもしれない。

 それでも、九十九が請えば案内してくれる辺り、やはり「甘やかされている」と思う。


「あれだ」


 使い魔が鼻で方向を示した。視線を向けた途端、小夜子が口と両目を見開いている。たぶん、九十九も似たような顔をしていると思う。

 神気から、だいたい誰の仕業か予測はついていたが……目的など、想像もできなかった。


「わん……つー、すりー、ふ、ふぉー」

「違いんす。やり直し」


 ぎこちなく刻まれるリズムを訂正する声。

 罵声にも似ているが、どちらかというと、喝だろう。


「う、うぅ……すみません。もう一回、お願いします……師匠!」


 肩で大きく息をしているのは、他でもない京であった。いつの間にか着替えたのだろうか。制服ではなく、ゼッケンに「麻生」と書かれた体操服。

 仁王立ちしているのは、派手な紫のコートを羽織った女性――天宇受売命であった。

 

 

 

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