9.あとの祭り。
突発的にはじまり、ぐだぐだっと終わったカレー対決。
しかしながら、こういうイベント。後片づけも大事である。
広間にセットされた審査員席やら、なにやらを片づけたあと、九十九たちはカレーも処理することにした。
「うーん……小夜子ちゃんのスープカレーも美味しい!」
厨房で、従業員一同、お互いのカレーを少しずつ食べていた。まかない扱いなので、対決に参加していないコマや碧、八雲たちにも注ぎわける。というより、そうしないと量が多くて食べきれなかった。
九十九はカマンベールチーズがとろとろのスープカレーを口に入れ、身を震わせる。審査のときから、みんなのカレーは気になっていたのだ。
「ありがとう。九十九ちゃんのオムカレーも美味しいよ」
「そんな。オムライスっぽくしてみただけで、わたしのが一番普通のカレーだもん」
小夜子は眼鏡の下で笑ってくれるが、九十九は口を尖らせる。やっぱり、こうやって食べ比べると、九十九のカレーは数段落ちるような気がした。
「そのようなことはないぞ。儂は九十九のカレーがすぐにわかったからな!」
どっからわいてきたのやら。いつの間にか、従業員にまざってシロまでいた。平然と、九十九の作ったオムカレーを食べている。あれだけ食べても、まだ入るなんて。さすがは、神様だ。
「シロ様、全部わたしのカレーに違いないって言ってたじゃないですか……」
シロの堂々とした口調、九十九は忘れていない。
「なにを言っておる。最終的には、気がついたからいいのだ」
「松山あげのおかげですけどね」
「儂への愛を感じたぞ」
「たぶん、それは勘違いです。シロ様の、松山あげへの愛が深いんです」
あんな量の松山あげ、普通気がつかない。本当に、少ししか入れていなかったのだ。なのに、シロはカレーに松山あげが入っていると気がついた。
すごい愛。主に、松山あげへの。
「拗ねておるのか?」
九十九はプイッと顔をそらすが、シロはニマニマとしながらのぞき込んできた。
「そ、そんなわけないですよ……」
「愛いではないか」
シロは九十九の肩を捕まえるように抱き寄せた。
しかし、ここは厨房。みんなでカレーを食べていて……視線が集まるのを感じた。
「九十九ちゃん」
小夜子がにこにこしながら、スッと九十九から離れる素振りをした。あ、これ「ごゆっくり」とか言われるパターンだ。小夜子のこういう意地悪は、そろそろパターンが読めてきた。
「さ、小夜子ちゃん。た、助け……」
九十九は小夜子にすがろうとするが、シロにがっしりと捕まえられてしまった。
「う……」
小夜子だけではない。碧や八雲、幸一も、九十九たちを見ていた。将崇は顔を真っ赤にして、コマはなぜか両手を叩いている。
「は、恥ずかし……」
自分の顔が赤くなるのを感じた。
だから、ついつい……いつもの癖で……。
「この! 駄目神様ぁ!」
と、シロの脳天に肘打ちを叩き込んでしまったのだった。
あとから考えれば、このとき。
もっと、シロと話をしておけばよかったかもしれない――。




