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お客様が「神様」でして ~道後の若女将は女子高生!~(web版)  作者: 田井ノエル
十二.神様からの助言は、わかりにくい!
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6.企みの真相

 

 

 

 まったく。

 張り切って客の要望に応える九十九の姿を、シロはながめていることにした。だのに、あまり気分が優れない。酷い矛盾だと思う。

 九十九がシロを頼ろうとしないのが面白くないのだと気づく。

 否、それだけではない。

 それは、いつもの話だ。


「いやあ、奥方は実に素直な人間ですね。私には及ばぬ凡人ですが、魅力がある」


 こっそりと見ていたシロの存在を察していたのだろう。九十九が行ったのを確認したあとで、道真が声をかけてきた。

 食えない類の男である。


「お前もか……否、お前だな?」


 シロはもう一人、陰で見守っていた人物に声をかけた。

 すると、申し訳なさそうな表情で小夜子が出てくる。


「すみません……私が道真様に、九十九ちゃんのことを相談しました」


 どうして、儂ではなかったのか。そう問おうとしたが、答えは見えていた。


「九十九ちゃん、最近無理をしているので……」


 九十九が真面目なのは、シロもよくわかっている。

 大学を受験すると決めてから、一日も欠かさず勉強していた。旅館業務のあとなので、時間は限られていたが、その努力は充分に認められるものだ。こっそりと模擬試験の成績も盗み見たが、志望校の合格ラインとやらは余裕で超えていた。流石、我が妻。偉い。

 しかし、九十九の不安は消えなかった。

 夜も寝ずに勉強することで、受験の重圧から逃れようとしているのだ。結果、最近の不調に繋がっている。この状態では試験でいい結果が出るわけもなく、先日の小テストは奮わなかったらしい。その点数が余計に九十九の心を圧迫して、悪循環を起こしている。

 よくない兆候だった。なんとかしなくてはならない。

 そこでいち早く動いたのは、シロではなく小夜子だった。その点は評価すべきだ。


「だが、どうして儂に相談せぬのだ」


 一度は黙っていようと思ったが、口で発してしまう。やはり、これは不満だ。九十九に関する相談は、夫であるシロを通すべきである。


「すみません……」


 小夜子が申し訳なさそうに頭をさげた。


「あまり責めないでくれたまえよ。この件は、私が適任なのは主上しゅじょうも承知しておりましょう?」


 主上(・・)という言い回しに反応しそうになりつつ、シロは黙るほかなかった。たしかに、シロよりも道真のほうがいい。

 単純な話だ。

 客として泊まりに来た道真が九十九に難題を与える。九十九は全力で応えようとするだろう。そういう娘だ。

 きっと、疲れて眠ってしまう。

 九十九の学力には問題がないのだ。もう土壇場のこの時期にすることは、猛勉強ではなく適度な知識の再確認と、体調を整えることだ。万全の状態ではない現状では、いくら勉強しても全力を尽くせない。

 それに小夜子は気づいていたし、道真も同意したという形だ。そして、シロもそれがいいと思っている。

 菅原道真は学問の神様だ。全国の受験生が加護を欲しがる。この時期、最も信仰される神であった。

 その道真から努力を評価され、加護を受ける。これは、大いに自信へ繋がるだろう。この点においては、シロよりも効果がある。

 そこは理解していた。

 理解しているが。


「やはり、儂に相談すべきであろうに!」


 九十九が見たら「またそういうことを……残念です!」などと言われそうだ。しかしながら、これが本音なので仕方がない。

 シロは頬をふくらませて、ブスッとした表情を作った。


「だから、それは本当にすみません」


 小夜子は頭をさげつつ苦笑いしている。ううむ、解せぬ。


「まあまあ」


 シロをなだめているつもりなのか、道真が肩に手を置いた。気に入らぬので、ピッと払っておく。


「問題は、そう上手くいくかですかね」


 言いながら、道真は踵を返した。小夜子も、自分の仕事に戻っていく。

 

 

 

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