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決着はついた、風間廉太郎はそう確信していた。が、決着の合図は鳴らなかった。そしてあいつがこちらを見る。すぐに理解した、まだやる気だ。すでに攻防の優劣はついたし、魔力の残量にも余裕はある。だが、油断はしない。最後の最後まで詰めを誤らない。
「反応魔壁------ 魔術浮遊」
先述詠唱と浮遊魔術を掛ける。そして、先ほどの攻防を思い出す。実体化した使い魔を強化する術。あれは危険である。だが、対策もある。反応魔壁の防御力なら一瞬攻撃を止めれる、ならばその隙に簡易斥力で弾いてしまえば盤石である。あとは遠距離でじわじわと攻めればじきにあいつは動けなくなるだろう。
隠している他の呪文がある可能性もあるが、あそこまでぼろぼろになってまで隠す必要性は薄いためその考えを放棄する。
教員から評価も考え、自分から攻めようとする。が------------
「……!?」
それを相手の奇怪な行動が押し留めた。
ジークと甚六、二人は風間に向けて、走り出していた。だが、それは別々にであった。
ジークが右回り、甚六が左回りに走る。その行動に風間は一瞬動揺するが、すぐに落ち着く。簡単な話である。甚六が倒れればジークは消える、そして甚六は魔術の一発で倒せる。甚六を狙わない理由はなかった。
「螺旋魔撃ッ!」
容赦はしなかった。使い魔の速度ではなく人間に当てるのであれば螺旋魔撃のスピードで十分、そしてこちらの方が威力は上、すべで合理的判断であった。
ジークが向かっているのが分かっていた、それに意識は向けるが、視線は甚六にある。魔撃が当たることが大事であったからだ。
見ていた、睨んでいたと言ってもいい。それは捻じれながら綺麗な蒼の螺旋を描き、向かってくる。当たることは避けられないスピードだった、当たることは避けられないがそれでも直撃だけは避けようと、必死で夢中で床を蹴り、跳ぶ。それと同時に。
「--------鬼斬」
唯一使える魔術を唱える。呪文を唱えるのは好きだ、自分が魔術師になれたんだと実感できるから。
魔術が自分の近くの床に当たり弾けた、そしてその衝撃を一身に受ける。その想像を超えるインパクトにやっぱりジークは凄いなと呑気に思っていた。
甚六の朦朧とした瞳にはジークの姿が写っていた。
すでに風間の真下にいた。フッと笑ってしまった、そんなことをする余裕がないほど痛く、熱いのに。
螺旋魔撃に吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。肺にまで魔術の熱風が入り込み禄に空気も吸えなかった。でも、それを唱えなければならない。
古海の授業内容をふと思い出した。魔術師とは肉体と精神、双方とも強靭でなければならない、何故ならどちらかが潰えたとき、もう片方がそれを支えるために必要だからだ。
成る程、いまさら納得できたよ。身体を鍛えたことなんてほとんどなかった、自分の身体を自由自在に操れるなんて思ってなかった。でも、夢が諦められない、あいつに勝ちたい。精神が肉体を支えていた。
「-----き、ざん」
小さな声、だが魔力を込めた発声。体内の魔力がジークの実体化の分を除き、空になったのを感じた。
風間廉太郎はジークが来ることを分かっていた。鬼斬によって強化されていることもわかった。故に用意した対処法でよいと思った。
要因があった、切れた額から出た血が目に入りそうになり目を瞑っていた、故にジークの姿をしっかりと見れなかった、鬼斬を重ね掛けされ、大量の白い闘気を放つジークの姿を。
剣は腰だめに構えられ、突きが放たれた。反応魔壁が発動し、突きが止まり、簡易斥力で弾き返す、そのはずだった。
強化魔術の重ね掛けにより強化されたジークの刃が、井藤甚六の執念によりここまで運ばれた刃が、反応魔壁という脆い盾を一瞬で突き破った。
一閃、それが風間の胸を貫いた、その一閃は恐ろしく正確に心臓へと届いていた。
要因があった、最後の鬼斬の重ね掛け、それももう少し勝負が長引いていれば、もう少し甚六が早く起動魔術を唱えていれば、最後の鬼斬は撃てなかった。
差を埋めるためにしたこと、それがこの勝負を大きく変えた。魔力の温存もそう、そして自ら囮としたことも。
甚六の狂気に近い覚悟がこの勝負を大きく変えた。
『…?』
-----------------だが
最初に異変に気付いたのはジークであった。それは刀を刺したのち、重力に引っ張られ、落ちるはずがそのまま滞空していたのだ。まるで実体のない使い魔のように。
異変の正体に感づき、ジークが刃を引き抜き、主に振り返る。
そして、風間が気づく、胸部、刃に刺された箇所の衣服が破れていた、そして胸の部分に浅い刺し傷ができていた。
ジークが光の靄となって、倒れている甚六の元に還る。
決着のブザーが鳴る。
未だ呼吸整わぬ風間は全てを理解した。学校医が演習場に駆け込み、甚六を担架に乗せ、運んでいく。ここには日本最高位の回復魔術の使い手、月島源之助がいる、あいつが死ぬことはないだろう。
魔術浮遊の効力が消え、ゆっくりと地面に降りる、教員たちが駆け寄り、賛辞の言葉をかけてくるが、全く耳に残らなかった。
もし、あいつが、井藤甚六が気絶するのが数秒、いや一秒でも遅かったら。
胸元を抑え、歯噛みする。
抑えた手に血がついていた。額から流れた血が襟元を汚していた。
「っく」
抑えられないものがあった。溶けた鉄が体内に流し込まれるようであった。
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