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ファミリアコネクト!  作者: AtoZ
第三章 避けられない戦い/魔術世界
40/40

③-11

039

 フードの少年は何も語らず、ただマムたちを睨みつけていた。その背中に煌々と6枚の翼を携えて。


  マムたちは、誰しも、炎も、傷も、塔も、誰しもがあの時の感覚を思い出していた。スーリア紛争、そこで不運にも遭遇したウィッチャー、“井藤奈桐”と遭遇したときの感覚を。


  ジメリと熱い室温とは関係なくマムたちは冷たい汗を流していた。


「何故、一介のカルテルごときがこれほどまでの魔術師を持っているんだい?」


 マムの疑問は当たり前であった。魔術が武力として世界に知られて始めたのはほんの数週間前からである、そこからこれほどの質の魔術師をカルテルが手に入れているのは異常であった。

 

「カルテルではない、この依頼はマスタ・ジャンク個人によるものだ」


 ジャンクはそう言い、煙草を取り出し、魔術によって発生している光翼で火を点けた。少年は無表情であったが、僅かに眉をひそませたようにも見えた。


「さて、仕事の話に戻るがな…」


 ジャンクがそう言った、直後。マムの背後の扉が勢いよく開かれた。ドアの取っ手にそのまま寄りかかって、その人物はよろりと出てきた。


 ブロンドの髪と無精髭。遮光の薄いサングラスの奥には気力の見えない垂れた目があった。


 先ほどまで奥で吐瀉音を響かせていた、チームから団長と呼ばれる男、“サウロ”の登場であった。


「…おっと、客人か」

「……」


 光翼を見ても全く動じずサウロは少年に微笑んだ。


「…おい、ジャンク。こいつも倒せってんなら勝てるかどうかわからないぞ」


 少年は全く表情を変えない、逆に彼の言葉を聞いたジャンクの表情は苦かった。


「お前なぁ、そういうのは相手に聞こえないように言うもんだろ?」


 ジャンクは紫煙を吐き出し、部屋にいるすべての人間を一瞥した。


「いやいや、どうも買い被ってもらっちゃって悪いね、少年」


 サウロがグラス越しに笑う。そして、未だ緊張が切れないマムの肩に両手を置き、飛び切りの笑みを見せた。


「実はドアの向こうで話は聞いてた。こいつらには三下の仕事は受けるなって言ってたのよ、それであんたがたをちょっと見くびっていたみたいだ、悪いね」


「…気にしないさ、見下されるのは慣れてる」


 サウロとジャンクの笑みが交じり合う。


「…俺らは仕事の内容と、報酬が釣り合えばしっかり働くことを約束する」

「同じくだ、労働にはそれ相応の対価が必要だ」


 ジャンクが懐からタブレットを出すと、それを渡した。


「簡単ではない、だが困難でもない」


 サウロと、その隣に塔と炎が張り付き、仕事の内容を検めている、その様子を見てジャンクはそう付け足した。


「…日本」


 塔が小さくそう言った。


「そうだ、仕事の場は日本だ」


「…月島学園」


 炎がそう呟く。


「そうだ、お前たちも縁があればそこにいたかもしれない」


「………アンタ」


 サウロがタブレットから顔を上げ、ジャンクを見た。


「この仕事は受けれないよ」


 サウロはそう告げた。そこには幾つかの思惑があった。そしてその考えはジャンクと同じものであった。


 交渉の席が出来たということは、天秤は釣り合わなければならない。サウロ達が請け負う仕事のリスクは大きなものであった。


 “月島学園” “ウィッチャー”


 これらが絡む可能性を考慮すればサウロの言葉はおかしなものではない。だからこそジャンクは天秤に新たな対価を置く。


 煙草をもみ消し、ジャンクは立ち上がった。そして、ゆっくりとサウロに近づき。


「―――――――――――」


 新たな対価を見せた。


「――――――――――!」


 天秤はリスクと対価の重みで軋み、それでも釣り合った。


「何故、お前がそれを知っている?」


 サウロの問いにジャンクは笑みで答えた。






 表通りに止めてあったワゴン車にジャンクと少年が乗り込む。行きとは違い、ジャンクが運転席に着いた。


「よかったのか?あんなこと教えて」


 車は静かに走り出し、少年は頬杖をついて、そう聞いた。


「あー?どうだろうな、あのボスは賢しい顔してたからな、大小含めて幾通りかの結果が考えられる」

「……??」


 ジャンクの言葉の真意を少年は理解できなかった。そして、ジャンクはその様子が面白かったのかグラスの奥で笑った。


「丁半ってことさ、俺たちにとって毒か薬か分かるのは随分先になるだろうよ」

「いいのかよ、それで」

「そのために俺らがいるんじゃねえか、もうすでに組織はどうなったか分からんし、向こうも俺の動向を完全には把握してないだろうよ」


 車は静かに道を往く、新車同然だったワゴン車が砂埃を浴びて、煤けていく。


「そういうもんんだ、カットアウトとしての仕事はよ」


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