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ファミリアコネクト!  作者: AtoZ
第三章 避けられない戦い/魔術世界
33/40

③-5

032

 その小柄な少女は黒づくめの甚六を凝視していた。


「不審者、あなた不審者ね」


 そして、また甚六も少女を凝視していた。月島学園の制服ではなかった、そして。


「忠告、私の眉を凝視することは死に値します」


 太ましい、としか形容できない眉をひそませ、少女は声を上げた。


「部外者、貴方はこの学園の生徒ではないですね」

「俺はここの関係者だ、お前こそ制服が違うぞ」


 甚六はフードを深くかぶり、逃走経路を探る。そして、少女はそれに気づいたようだ。


「確保、抵抗しなければ手荒にはしません」


 少女の背後に淡い光が現れた、その光は見慣れた光であった、そう使い魔が発する魔力光であった。それを放つのは少女の周りを飛ぶように旋回する人魚であった。


「なっ――――ッ」


 驚きは二つ、即戦闘状態に移行した少女の判断、それと起動魔術を詠唱せずに使い魔を召喚する、


『熟達だな』


 その力量。人魚の手から泡、がふわりと放たれる、1秒か2秒それは空中を揺蕩い、虚をつくように加速、甚六の顔面目掛けて飛来した。


「リリィ!!」


 その水泡が甚六の顔面に炸裂する寸前、雷撃が走り、水泡が弾け消えた。リリィの起動魔術であった。


『悪いことしようとするから絡まれんのよ』


「…魔術師!?魔術師の不審者なのね」


 太眉女はやや警戒を強め、頭上の人魚を旋回させた。


「存外、やるわね、でも日本の魔術師に遅れは取らない」


 人魚が水泡を連続で発生させ、女の周りを回転していた。それは、桐島の魔術を彷彿とさせた。


「…リリィ」

『…全く、任せなさい』


 リリィの不満げな応答に甚六は少し口角を上げ、

 

「―――雷行!」


 水泡の連射とともに呪文を唱えた。


 闇夜に甚六の足元が激しく光った。空を駆ける魔術“雷行”が放たれた。


 小さな稲妻が甚六を引っ張るように空に軌道を描く。その軌道は使い魔であるリリィの思いのままだ。


 向かってくる水泡を全て躱しきる。前で甚六を先導するリリィは得意げな顔で振り返った、目が合った甚六は笑みを返し。


「じゃあな、ノーコン太眉女!」


 捨て台詞を吐きグンと加速し、少女を振り切った。


『で!どうやって入るの!?』

「昼間のあれを使う」

『…最低』

「しょうがねえだろ!?正面玄関は変な女が陣取ってるし!」


 リリィは露骨に嫌な顔をしたが。


『貸しだかんね』


 そう言うと、雷行の軌道はジグザグながら校舎へと向かっていった。




「………………」


 男―――――甚六が逃げていくのを少女は苦渋と屈辱とともに見ていた。


 地団駄を踏みそうであったが、現在の自分の状況を鑑みれば、それは良い行いではない。


 少女は深呼吸をし、平常に戻ろうとしていた。そこにさきほどの戦闘音を聞きつけて古海がやってきた。


「…何があった?」

「不審者、不審な人物を発見し、魔術で交戦しました」


 少女の言葉に古海は眉をひそめた。


「で、その不審者はどこだ?」

「…不覚、逃しました」

「魔術を使ったのにか?」

「魔術師、その不審者も魔術師だった」


 少女の言葉に古海はさらに顔をしかめた。


「真実!私は本当のことしか言ってません!」

「そうか、だが校内で無断で魔術を使うのは禁止されている、説明したな」


 その言葉に少女は太い眉をハの字にした。


「不覚!先生には言わないで!」

「報告は正確に行う、それでその不審者はどんな魔術を使ったんだ?」

「雷、いかづちみたいな力で素早く動いていた」


 その言葉に古海は眉を逆ハの字にした。


「なん、だとぉ…」



 本校舎5階、そこは資料室やPC室等の設備がある階である、そして人通りの少ない階でもある。

 人通りが少ないからこそ、甚六と桐島はここを選んだ。仮にトイレの窓が開いてようとも気づかれない可能性が高い5階を。


 黒づくめの甚六が音もなく、女子用トイレに降り立った。


『ジロジロ見ないの!』

「見てないって!視界に入ってるだけだ!」


 甚六は昼間桐島が開けた女子トイレから本校舎への侵入を成功していた。そそくさとトイレの外に出る、いつもと同じ校舎の廊下であった。しかし、照明のないほぼ真っ暗な校舎はいつもと違うように見え、甚六の男心を揺さぶった。


『なにウキウキしてんのよ?』

「大丈夫、大丈夫、冷静だって」


 リリィのため息を聞きながらも甚六は足音を殺し、下の階を目指す。


 下の階には鬼が待ち受けているとも知らずに。




 甚六が音を殺し、一階の踊り場にたどり着いた。物陰から職員室の扉を伺う。人の気配は感じないが。


「…ジーク」

『あいつもう寝てるよ』

「…」

『ちなみに私は気配とかわかんないからね』

「……まあ、大丈夫だろ?」


 甚六はフードをかぶり直し、そろりと職員室のドア前まで進む。扉に耳を当ててみるが、室内からの物音は聞こえない。


「……」


 意を決し、ゆっくりと扉を開ける。電気はついているが、人影は全くない、異質な雰囲気の職員室。


 甚六は唾を飲み込み、古海の席のPCを起動した。そして甚六の予想通り古海はPCにパスワードを掛けておらず、そのままデスクトップの画面となった。


「やっぱあいつ機械には弱いな」


 甚六はポツリとそう言った。


「…機械音痴で悪かったな」

 

 その発言が地雷を踏んでいるということに気づかず。


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