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ファミリアコネクト!  作者: AtoZ
第三章 避けられない戦い/魔術世界
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③-1

第三章 避けられない戦い(テスト)/魔術世界



028

季節はすっかり夏になっていた。日本の学校はどこも夏休みに期待を膨らましている頃であろう。


 そして、その前に控える大きな艱難に怯えている頃でもあった。


 それは天下の月島学園であろうと変わりない。



 冷房完備の教室は暑いはずがない、が生徒たちは一様にうっすらと汗をかいている。

 普段うるさい桐島やダンジが黙して教師の話を聞いている。いつも口数少ない綾部や風間が教師の問いにハッキリと答えている。

 生徒たちは熱心に授業を受けていた。その真剣さが熱となり玉のような汗をつくるのだ。


 教師である古海もその様子に満足気だった。


「………」



 一人かいてる汗の意味が違う男がいた。


 井藤甚六であった。


 この男、どうにか月島学園に残れたものの、一年の夏から今までの一年ほど


 ほとんど勉強をしてこなかったのだ。


――――何を言ってるか一個もわかんねぇ…!


月島学園は名門校である。やる気を出したあとも筋トレにかまけていた甚六にとって勉学は大きな艱難となっていた。


『ちょっと心臓の音がうるさいんだけど!』


冷や汗の止まらない甚六は日本語とは思えない板書をとりあえず写していく。


『勉学というのは日々の積み重ねだからな、今頃焦ってもどうにもならんぞ』


使い魔たちの声を聞きながら甚六はペンを放り投げ、窓の向こうの空を仰いだ。


―――――無理だ。


甚六は蝉の音を聞きながら椅子にもたれかかった。昼前の授業は終盤に差し掛かっていた。


 古海は板書を終えると放心の甚六を見てため息を吐いた。


「前にも説明したし配布した資料にも記載していたが、念のために言っておく。今回の期末で赤点を出した者は夏休みの間補習を受けてもらうが、その間の魔術演習、及び鍛錬場の使用は出来ないからな」


「え゛ッ!!?!」


甚六の出した素っ頓狂な声にクラスメイトたちは全員ビクッとしたのち血の気の失せた甚六の顔を見た。


『…アンタまさか』

『甚六よ…』


クラスメイトは何も言わなかったが言いたいことは使い魔と大体同じであっただろう。


「それは…本当(マジ)ですか」


甚六の消え入りそうな声、それが弱々しすぎて彼を見ていたクラスメイトたちはみな視線を逸らした。

そして古海だけが呆れ顔で甚六を見ていた。


本当(マジ)だ」


夏休みが見えてくるこの季節、学生たちには艱難が待ち受けている。


その艱難には名前がある。悪魔だとか宿敵だとか、戦場だとかと呼ばれるそれの正式名称は、期末試験、学生の本分である。




緊急事態(エマージェンシー)だ」


昼休み、甚六は今までで一番深刻な顔をしていた。そしてそれと顔を突き合わせているのはオレンジ髪のサイドテール、派手という言葉が似合う出で立ちの少女、桐島涼香であった。


「勉強教えてくれ」

「…………」

「ていうか赤点を回避させてくれ」

「なんで私に頼むワケ?」

「お前、俺の奴隷だろ?」

「はい、もう教えない」

「えぇ!?」


甚六と桐島が無用な問答をしている中、他のクラスメイトたちは昼飯を食べ進めていた。


「頼むよ、ダンジも綾部もそこまで頭良い訳じゃないし風間には頼りたくないしお前しかいないんだよ!」


「あのね、言っておくけど甚六くんよりは頭良いからね」


ダンジがそう言うと綾部も振り返り、何度も頷いていた。


「…知ってる」


 トドメを刺された甚六は机に突っ伏した。そして思った。この世に神はいないのか、と。


「…教科書出して」

「…え」

「教えてあげっから教科書出せって言ってんの!」


 しかして、神は存在した。神はオレンジの髪をした少女であった。


「桐島ぁ…」

「とりあえずアンタがどこ分かってないか探すよ」




昼休みももう終わる頃、神の顔色は優れなかった。そして甚六の顔色は青ざめていた。


「アンタしばらく勉強してなかったでしょ?」


「一年間ほどサボっとりました」


 甚六の言葉に桐島は深く溜息を吐いた。


「…やっぱ無理か」

「無理ではないわ」


甚六の言葉に桐島は立ち上がった。


「いい、アンタのバカはほっといた油汚れみたいに頑固なの、だからこんな10分20分教えたところで効果はないの、もっとみっちりやんないとダメ!」


「みっちりか…」

「そう、みっちり。だから」


「放課後勉強会すんの!?」


ダンジがギュルリと回転し、話に入ってきた。


「っ、まだするって言って」

「あの、勉強会なら、私も教えてもらいたいな、なんて」


綾部もこっそりと話に入ってきた。


「お前、俺より頭よかったんじゃないのか?」

「甚六くんより頭いいけど、テストはヤバいんですぅ」


男二人が不毛な争いをしている中、まだ教えると言ってない桐島は綾部からの期待の視線に耐えきれずため息をついた。


「わかった、じゃあやろうか勉強会」


 そう言いながら桐島は道連れを作るべく標的を見据えた。


「風間!アンタも来て、私より頭いいっしょ?」


 先ほどまで話を聞きながら弁当を片付けていた風間は急に話しかけられびっくりしながらも振り返った。


「…それはいいが、場所はどうするんだ?」


「あー、図書室じゃ喋れないしね」

「ふぁ、ファミレスとか」

「確かこの辺はファミレスないぞ」

 

  会話の流れから皆一様に思った、これは誰かの家になる流れだろうと。


「あ、ちょい待ち、僕と風間くんは家近いけど、甚六くんちと真反対よ」


 皆一様に思った、これは不成立の流れだろうと。が、しかし


「…うちでやる?」


 発言したのは、桐島だった。


「マジで!?」

「うち寮だからすぐ行けるし、寝て食ってるだけだから別に上がってもいいよ」


「桐島さんがいいならお邪魔しちゃうけど…」


 ダンジが遠慮気味に言う、風間も口にしないが気まずそうであった。


「あゆみも居るしいいって、それに変なことしたらぶっ殺せばいいだけだし」


 桐島がそう言い、清々しい笑顔を見せるとダンジと風間も納得顔となった。


「あ、でも8時には解散ね、学校の門閉まっちゃうし、他の学生泊めんのも禁止だし」


 こうして急遽、勉強会が開かれることとなった。午前中はテスト前でどこか重々しい雰囲気があったが、午後からはどこかしらそわそわした雰囲気が漂っていた。


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