②-12
更新遅れました申し訳ない
022
グラウンドほどの大きさに白タイルを敷き詰めた部屋、天井は高くライトが強く室内を照らしている。実戦演習室。
自分の対岸には目立つ女、髪色も顔立ちもスタイルも、どれも派手という印象を持たせる。
「クレイ&フープ」
女--------桐島涼香が静かに起動魔術を唱える。現れる二体の使い魔。小さな人間の頭ほどの大きさの使い魔が二体。一体は例えるなら二頭身の石の人形----------クレイ。もう一体は薄く若草色に発光するまるきり妖精のような姿の少年-----------フープ。
一体を学校にて、もう一体を親族からの相続にて手に入れていた。
クレイは現界だけに留まっているが、フープはそのまま起動魔術を発動する。フープが両手を目一杯に広げると、桐島を中心に風が集まった。耳に届く風音がその風がハリケーンの如き強度であることを伝えてきた。それは留まることなく桐島の周りを吹き抜ける。
伝わる魔力からフープと呼ばれた使い魔の強さが伝わる、が甚六は耐える。魔力は伸びたが、まだ温存が必要なレベルである。ゆえに吹く突風に目を細めながらも起動魔術を唱えない。
『…下着が見えとるのぉ』
「……」
例の如く緊張感のないジークの声が聞こえた。
確かに戦闘に際して甚六も桐島も着替えることなく制服のまま戦う。それはズボラというわけではなく月島学園の制服には微々たるものだが対魔力の効果がある。それは月島学園からインターンや交流演習を行うときに月島学園のネームを宣伝するため、制服の着用を促進させるためのものであった。だから月島学園の制服は運動性を損なわない作りになている、そして破損した場合は学校側が保障してくれるという待遇であった。
『色気のない下着だなぁ』
「……」
故に実戦演習は制服のまま桐島は戦う、短いスカートはひらひらと舞っている。
『覗くんじゃないの!!』
「覗いてない!視界に入るだけだ!」
「オーバーラージ!アイアンヘッド!」
「…!リリィ!」
桐島の詠唱とともに起動魔術を唱える、そしてそのまま次の魔術に移行する手筈だったが、ギリギリで止まる。
桐島の魔術の正体が想定外であったからだ。
巨大な、鉄の球であった。軽自動車ほどの大きさのそれは放たれることなくその場で浮遊している。
そして、浮遊させているのはもう一体の使い魔、フープの起動魔術であった。
強烈な風が巨大な鉄を下から支えているのである、そしてそれは飛んでくる気配はない。
甚六は考える。桐島の戦術を。そして、桐島がかざした手によってそれを理解した。桐島の魔術戦術はコンボによるものだ。
「豪・旋風」
瞬間、フープを通して桐島の手に巨大な大気が集まる、圧縮されたそれは小さく巨大な台風であった。一瞬の収縮ののち、それが爆ぜた。
「雷行!!」
空気が悲鳴を上げ、鉄球が押し出される、迫り来るそれを叩き落とせる術を持っていなかった、だが。
“雷行”を唱える。同時に自分の両足が眩い電光で包まれる。痛みはない、この術は攻撃の術ではない。
「リリィ!」
この術は。
『行くよ!』
足元でバチリと音が立つ、すでに目の前に迫る鉄球。瞬間、自身の身体が一瞬で加速する。空を駆け、風を切り正面に迫る鉄球を迂回して避けた、その速度は風間の“魔術浮遊”を大きく上回っていた。“雷行”とは移動補助の魔術であった。
空中にてふとリリィと目が合う、どちらともなしに微笑んでしまう。ここまでの展開が理想的であったからだ。度重なる挑発と遺恨、桐島は頭にきていたと思う、そして頭にきてしまうとやってしまうこと、大技のぶっ放しだ。
それを誘発させる、そしてそれを魔力消費の少ない移動魔術で回避する。
そして作戦は魔力差を埋めることだけに留まらない。強い呪文を撃たせる、強い呪文は強く大きい、大きいということは甚六にとって、そして桐島にとっても視界を塞ぐこととなる。
桐島は俺を見失っている…!
空に浮かび、両足に雷を滞留させている甚六は空中でターンし、桐島目掛け一直線に飛び掛かる。
リリィが甚六の前を行き、甚六を引っ張るように先導する。
甚六は魔力差を埋める方法と並行しつつ、他の勝法も狙いをつけていた。
見えない攻撃は防げない。
甚六とリリィがまさに雷のように桐島と距離を詰める。まだ桐島は気づかない。
リリィが桐島のすぐ横で火花を散らし、急停止する。3mほどの距離だ。そしてその距離はリリィの起動魔術の射程であった。
桐島が気づく。が遅すぎる。術の発動前にリリィの指から雷撃が走る。
見えない攻撃は防げない。が、備えることは出来る。リリィから放たれた雷撃は桐島に届くことはなく弾かれた。桐島を中心として発生した爆風によって。
それは起動魔術の威力ではなかった。雷を弾き、そして甚六を吹き飛ばした。その勢いはそのまま壁に叩きつけられる勢いであったが。
『-----------ッ!!!!』
雷行を操るリリィの手腕でギリギリで体勢を立て直し、壁に足をつく。
「ナイス、リリィ」
『来るよ!!』
雷行の継続時間にはまだ余裕があった、桐島の攻撃は避けれる速度であった。
桐島の周りで風が唸っていた。
「マスオーダー・リトルサイズ!アイアンヘッド!」
桐島の周りでピンポン玉サイズの鉄球が数十個生成された。それが惑星のように桐島を中心に公転している。
「---------!!? ジーク!!」
甚六はすぐに桐島の意図に気づいた。多量の鉄球それをさきほどの風の魔術で射出すればどうなるのか。雷行ですら避けれない範囲への攻撃、面による攻撃であった。それはリリィの魔術だけは対処しきれないもの、だから。
「鬼斬!」
「豪・旋風!」
ジークを目の前に召喚するや否、強化の魔術を使う。それと同時に桐島は鉄球を射出した。
多くの鉄球が風を切り裂く音。その威力と攻撃範囲はまさしく散弾銃のごとしであった。
ジークは召喚された状況に苦笑いしながらも、すぐに両腕で首と顔面を防御した。
肉と鉄がぶつかる嫌な音が4~5回甚六の耳に届いた、続けざまに標的を外れ、壁にぶつかる鉄が落ちる音。
『やれやれ、だな』
ジークは振り返り笑った、その額には生々しい裂傷が出来ていた。
甚六、桐島、両者が持てるすべての使い魔を召喚し終えた。後は二人がどのように戦い、何に力を注ぐか、どれほどの信念があるか、それらがこの戦いを左右するのだろう。




