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ファミリアコネクト!  作者: AtoZ
第二章 雷乙女と鋼の女王の章
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 ふとした拍子に思い出すことがある。それは私の前の記憶だ。


 目の前には敵とその使い魔、私はそれらに向かって雷撃を放つ。契約主は私の後ろ、いつもの形だった。


 契約主の声はいつも呪文しか聞こえず、ほかの声は一切合切が聞こえなかった、興味もなかった。



 戦うときはいつも私が前、それが一番楽だった。




 使い魔と契約主の関係は淡白な利害関係である。契約主は魔術師であろうとするために使い魔を身に宿し、使い魔は生きるために魔術を振るう。


 使い魔は循環する、現界に呼ばれ消滅するまで戦い、時を経てまた現界に召喚される。

そのサイクルの中で苦痛を伴わないようにと使い魔は躍起となって戦うのだ。


 使い魔が現界し、消えるまでのプロセスはいくらかある。この世に召喚され、そのまま契約をなさずにいると使い魔の存在は自然消滅する。そしてそのときの苦痛は尋常のものではなく、耐え難く恐ろしいものである。野良として生き残るためには魔力に満たされた空間に居続けるしかないが、そんな都合の良い場所などそうそうありはしない。


 苦痛を避けるため使い魔は契約を結ぶ、そしてそこから戦いが始まる。まず一つに契約主が魔術的闘争で死亡した場合、契約主の体内の魔力が急激に萎み、野良として消えるのと同等の苦痛を味わうこととなる。


 では苦痛を伴わずに役目を全うするにはどうすればいいのか?それは契約主が寿命で死ぬまで守り抜くことである。寿命で魔術師が死ぬとき体内の魔力はゆったりと消えていき、それは使い魔に供給される魔力もゆっくりと減っていくことを表す。そうすれば使い魔は魔術師と同じくして安らかに消えることができる。全ての使い魔はそれを目指すこととなる。


 そして最後に戦闘を旨としている使い魔にとって最も屈辱と苦痛を伴う去り方がある。


 契約解除である。


 契約解除、契約主が単体で行える数少ない魔術。一方的に契約を切るその行為が行われるのはひとえに魔術師と使い魔の間の齟齬である。


 魔術師は力を求める、ときに自分の無力に外因を求めてしまう。そういったとき魔術師は使い魔との契約を解き、使い魔を消し去る。使い魔に感情や痛みがあるとは知らずに。




 戦うときはいつも私が前、それが楽だった。


 放たれる雷撃が相手に届くことは少なかった、撃ち落とされ、防がれ、跳ね返される。それが常だった。

 

 戦う使い魔にとって弱いことは価値がないということであった。


 私が一番前、それが楽。だって落胆した顔を見るのは怖いもの。振り返らずに戦う、戦火は怖くない、恐ろしいのは苦痛とともに消え失せてしまうこと。


 恐れていた瞬間はすぐに訪れた。私は契約主に捨てられた。誰もいない山奥、そこで捨てられた。そのときの契約主の顔を覚えている。用済みの道具を捨てるとき、そんななんでもない顔をしていた。痛みと虚無が身体中にへばりついて私は消えた。昏くて重い感情だけが体内を巡り、ただ暗い世界で新たな召喚に怯えていた。


 ときは来た、窓もない打ちっぱなしのコンクリートの部屋に召喚された、周りには多くの使い魔がいる、彼らが選ばれていく中、私だけが余っている。どうでもよかった、残ってしまって痛みとともに消えることとなってもそれでもいいと思えていた。捨てられるときのあんな思いをするならよっぽどましだと思っていた。


 そしてあいつに出会った。


 初対面から変なやつだと思った。なんか声が聞こえるし、ほかの使い魔と喋ってるし、ちょっと喋ってみたかったけど、やめた。いいやつそうだったし、仲良くなってから捨てられるのなんて想像するだけ辛かったから。それで先に自分の力を見せてやった。ただそれだけじゃ伝わんなかったし、それがあいつを落ち込ませる原因になってて少し悪いと思った。

 

 関わる気はなかった、情が移ってしまえばそれだけ別れは辛いから。


 関わる気はなかった。


 それでも声が聞こえた、姿が見えた。死にもの狂いで戦う彼を見た。彼の激情を感じ、いつしか夢想してしまった。


 彼に自分を重ねていた。


 弱かった私、捨てられた私、諦めた私、再起したあいつ。


 願ってしまった。あいつと一緒に強くなりたいと。


 決心とともにあいつに話しかけた。喧嘩腰になってしまった私を受け入れてくれた。


そしてあいつとの鍛錬の日々は悪くなかった。その場所は居心地が良かった。

 

 楽園なんて言うつもりはないけど、それでもあいつともに切磋する日々は夏の陽光のように眩しかった。


 私はこの場所を気に入ってしまったようだった。


 それこそ、同じ使い魔であるジークに対して昏い感情を抱えてしまうほどに。


 恐れていたことであった、想いが募るほどに別れは辛いものになってしまう。なんでもなかった前の契約主でさえあれだったのだ、きっと私はこの場所を失えば


 失えば、二度と…




「……リリィ、起きてるか?」

 

 ハッとした。甚六の視界が共有され、朝の光に目を細めた。朝の陽光から目が慣れると、目の前に自転車があるのが分かった。あいつの家の前であった。


『今日は、あの趣味の悪い自転車じゃないの?』

「そりゃ今日は桐島と戦うしな、できるだけ体力は温存させてくれよ」


 そうか、そうだった。今日が彼の決戦の日だった。


『負けるんじゃないわよ』

「お前だって俺と一緒に戦うんだからな、しくじんなよ」


 そうか、今日が私の決戦の日。自転車が軽快に走り出す。


 夏の陽光が眩しかった。


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