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ファミリアコネクト!  作者: AtoZ
第一章 刃と魔術師の章
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①-2

002

「使い魔の使役はまず契約から始まる。誰とも契約を成していないフリーの使い魔に対して魔力を注ぐわけだな、これによって使い魔の名を知り、契約は完了、使い魔は身に宿るわけだ」

 

 同日、日が暮れてくる時間帯であるが月島学園での授業はまだ続いている。近日に控えた行事が理由であった。

 教鞭を振るうのは古海(ふるみ)(かつ)(よし)、茶の短髪で、堀の深い顔立ちである、体躯はしっかりとしており、身長は180cm代後半程度である。


「では、綾部、逆に契約を解除される場合は何がある?」

 

古海に当てられ、黒髪のおかっぱの少女がおどおどと立ち上がる。小柄な見た目も相まってまさしく日本人形のような少女であった。


「は、はい。契約がなくなるパターンは2つ。契約をした魔術師がリリースの魔術を唱えること、それと使い魔が魔術的攻撃を受け、消滅することです」


「そうだ、契約とリリース、これは我々魔術師が独立して唱えられる数少ない魔術だ。知っている通り魔術師は使い魔を経由して魔術を発動することが主だ。力量を上げ、呪文を手に入れ、それを詠唱し、自らの魔力を起爆剤に使い魔がそれぞれの力を振るう」

 

 古海の話は以前も聞いたことのあるような話ばかりではあるが、聞く側の生徒たちの目は明るい。


「そして今日、君たちは初めて魔術を使う」

 

古海がちらりと時計を見る。終業まで残り10分ほど、古海が珍しく穏和に笑った。


「時間も少ないことだ、そろそろ発表しよう」

 

古海がファイルを取り出した。それに生徒たちは騒ぎはしないが、少し浮つく。


『なあ、主人はもう魔術を使ってしまったがいいのか?』

 

 一人、冷め気味でその様子を見ていた甚六の頭の中に声が響く。声の主は探せど見つからない。それは自身の体内に納められているもの----使い魔の発する声であった。


「良いわけない、見つかったらぶっ殺されるぞ」

 

 自分以外に聞こえないほど小さな声でそう答えると、使い魔のジークは愉快そうに笑った。クラスがざわめく中、自分だけがよくわからないことをしている。


「どうなってんだか」

『さっき教師が言っていたことか?』

「…ああ」

 

 椅子を引き、大きくもたれる。教壇の上で古海はファイルから紙束を取り出した。それに反応し、生徒たちは少しずつ静かになる。


『普通は喋れないもんなのか』

 

 教室が静かになり、返答しにくくなる。ジークもそれを察してはいるようだった。


『まあ悪いことじゃないだろう?寧ろ良いと思うぞ』


 ジークの言葉に目を細める。それと同じくして古海が紙束の一枚目を捲り


風間(かざま)廉太郎(れんたろう)

 

 古海が名前を呼ぶ。名前を呼ばれた者、風間がざわめきとともに立ち上がる。

 

 精悍な男であった。甘さを感じさせない鋭い目線と一文字の口、長躯の甚六とあまり変わらない身長。歩くその姿だけでその鋭い性格が感じられる。

 教室の視線を一身に受け、風間が教壇の元で止まる。古海と視線を合わせても風間の顔色は変わらない。


「よく頑張った」

 

 短い言葉ではあったが、古海の性格を考えればそれは大きな賛辞であっただろう。風間が一枚の紙を受け取ると自然にクラスから拍手が沸いた。それでも風間は態度を崩さず、粛々と席に戻る。

 

 古海がファイルから紙を取り出し、また一人名前を呼んでいく。


『なあなあなあ、これはなにをやっとるんだ?』

 

 クラスにざわめきが戻り、聞こえないはずの使い魔の声を聞こえた。


「成績発表だよ」

 

 これから起こることはきっとやなことばかりだろうに、さらに聞こえない声が聞こえるとなると参りそうだ。


『となるとさっきの奴が一番か、んでご主人は何番目の予定なんだ?』

「最後だろ」

 

 自分の答えにジークはようやく状況が掴めてきたらしい。


『なるほど、使い魔と喋れるというのは才能云々の話とは違うのか』

 

 ジークの歯に衣着せぬ言い方に少し笑みがこぼれた。


「いやんなったら言えよ、契約解除ぐらいなら唱えられる」

『んん、今のところ不満はないぞ』

「そうか」 


 頬杖をつき、教壇に目を向ける。このクラスにいる18人のうちすでに大半は呼ばれていた。


「綾部あゆみ」

 

 古海の呼びかけに先ほどの日本人形のような少女が立ち上がる。

 よかったな、と思った。綾部はたぶんこの学校で一番話してくれた相手だと思う。相手にとってはそうでなくとも友人関係の薄い自分からすれば大変助かるものであった。


 綾部は古海の眼光にビクつきながらも成績表を受け取り、そそくさと振り返る。ふと目が合うと綾部は照れたように笑った。

 そして、綾部の次の人間、そしてまた次の人間が呼ばれた。これで合計17人だ。呼ばれた二人もまだ後ろに人が控えていることに安堵しているようであった。

 古海の目つきが一層険しくなる。


「最後に、井藤------甚六」


 一トーン低い声で呼ばれ、せめて動揺しないようにとしっかり動く。自分が立ち上がると周りの視線が突き刺さる。主席の風間とは真逆の感情の込められた視線。羞恥に膝が笑わないよう、力を入れて立つ。

 

 ここは名門校、劣る者は見下されて当然、自分の怠惰が招いた結果だ。だが、だからこそ堂々と振る舞わなくてはいけない。こうなると知って怠けていたのにそれに臆するのは間違っている。つまらない意地かもしれないが、ここだけは譲れない。

 風間のときか、もしくはそれ以上にゆったりと堂々と歩く。実際は震えを隠すための減速であったのだが。

 

 どうにか平常を保ち、古海の、古海教員の元にたどり着く。


「伸び悩み、壁に詰まることもあるだろう、だがそこで腐らずに努力した者だけが成功するんだ」

 

 顔をしかめてしまったかもしれない。古海から突き付けられた成績表を受け取る。中身は改めずに努めてゆっくりと振り返り、席に戻る。周りの目線に目をつぶりそうになる。綾部の心配するような目線ですら、風間の意に介しないといった表情にも、教室を覆う全てが自分の想いを統一した。


         

               もう魔術師なんてたくさんだ。

 



 ひどく長く感じた道のりを終え、席へ着く。すぐさま古海が注目を促した。


「全員起立」


 全員がすぐさま立ち上がる。自分も例外ではない。


「それでは降魔の階へ向かう、全員ついてくるように」

 

 それだけ告げ、古海は教室を出る。生徒たちは古海の態度に憤ることもなく、これから起こることに色めきながら古海に続いた。

 

 ほぼ全員の生徒が廊下へ出たのを見て、自分も立ち上がる。


「い、井藤君」

 

 自分が立ち上がるのを見計らって綾部が声をかけてきた。


「その…」

「おめでとう、ビリ2じゃなかったな」

 

 自分にどう言葉をかけるべきか迷っているように見えた。だから綾部の言葉を遮るようにそう言った。


「うん、ありがとう」

 

 消え入りそうな声だった。


「ざ、残念…だったね」

 

 綾部は目を伏せてそういった。綾部は小柄で20cm以上も背が離れている。そのため見えはしなかったが、声色から彼女の感情は読み取れた。


「気にしてないよ」

 

 自分の言葉に綾部は顔を上げた。


「気にしてない、だから大丈夫」

 

 短く、それだけ伝える。

「それより置いてかれる。急ごう」

 

 廊下側に振り返ると綾部の友人が呼んでいるが見えた。綾部は心配そうにこちらを見るが、自分が大きく頷くと、小走りで友人の元へ向かっていった。


『女は泣かせるものじゃないぞ』

 

 綾部が十分に離れるとすぐさまジークの声が響いた。その声色は色恋に浮ついているそれだった。


「泣いてはないだろ?それにどうすりゃよかったんだ」

 

 そう言い、先にいった集団を追いかける。


『こんな学校にいたんだ、まじめに魔術師を目指しゃよかったんじゃないか?』

「目指したさ」

『…壁というやつか?』


「俺の親は有名な魔術師でさ、俺だってそれに憧れたさ」


 早歩きで歩くが、先頭の古海が速いのか集団はかなり先を歩いていた。


「成績表見たか?」

『お前ん中に納まってるときはお前の見たもんしか見えんぞ』

「そうか、俺がドンケツなのは授業をサボってたってだけじゃないんだ」

 

 足を早める、前を行く生徒たちの喋り声が廊下に響いている。


「魔力量、魔術師の生命線とも言えるそれがホント笑えるぐらい少ないのさ」

 

 階段を下りていく生徒たち、なんだか追うのが面倒臭くなり、足が遅まる。


『魔力量というのは増やすことはできんのか?』

「出来るさ」

 

 歩み足は亀の如く鈍くなる。


「けど、最初の数値が伸び代を決める」

 

 追いつこうと動いていた足が止まってしまった。


「奮起させるつもりか知らんが古海のやつに、この学校を卒業した母親の成績を見せられた、見たら驚くぜ」

 

 上を、天井を見上げた。理由はよくわからない。


「自分が憧れてた親の背中には一生届かないって、結構辛いもんだぜ」


 遠くで生徒たちの声が聞こえた。

 

 自分の母親は高名な魔術師だ。WWU(World Witcher Union)と呼ばれる世界の魔術的パワーバランスを整える組織の一員でもある。世界中で活躍する母の姿に憧れていた。母の卒業したこの高校にも身を粉にして滑り込んだ。

 

 しかし、夢の終わりというのはあっさりと告げられた。月島学園に入ってからも努力は怠らなかった。だがそれでも-----------遠くでクラスメイトの声がする。

 それでも、自分の体内の才能----魔力は芽吹かず、クラスメイトたちの背中はどんどん遠くなっていった。


『---------甚六』

 

名前を呼ばれた。下の名前で呼ばれるなんて親以外では久しぶりだった。


『あいつらは歩いている、走れば間に合うぞ』

「……」


 その言葉の意味を少し思巡し、そして少し微笑んでしまった。


「そうだな」


 もうしばらくそういうことはしてこなかった。だから思った。柄にもないと。

柄にもなく、自分は前を行く学友に向けて駆け出した。



最後まで読んでいただきありがとうございました。ご指摘ご感想等あれば全部が励みになりますのでよろしければコメント等にお願いします。

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