②-7
更新が遅れて申し訳ないです。
017
「…風間」
鍛錬場の受付では風間が待っていた。風間は自分を確認すると、こちらに歩いてきた。
「よう」
やはり風間の目的は自分らしくぶっきらぼうに挨拶された。
「…え、待ち伏せ?」
思ったことを口に出してしまうと、風間は明らかに不機嫌そうな顔になった。
「待ち伏せなんてしてない!ただお前を待ってただけだ…」
「…」
『それって待ち伏せと言わんのか?』
『言うでしょ?』
使い魔の意見に完全同意であったが
「それよりもちょっと面を貸せ」
風間の表情は依然真剣であった。
校内緑園内は鍛錬場と校舎を繋ぐ整備路があり、そこを利用するのは使い魔を持つ2年、3年のみであった。それゆえ人通りは少なく、甚六と風間は肩を並べ、ゆっくりと歩いていた。
『なにこの状況?』
と言っているリリィであるが、それを言いたいのはどう考えても自分であった。話があるというのに風間は一向に喋らず、ただ野郎二人で歩く、それをひたすら続けていたのだ。
風間が「あー」などと唸りながら足を止めた。ついに話をするのかと、それに合わせて止まる。
が、風間は難しい顔をして何も喋らない。全く何も喋らなかった。
「お前ひょっとしてすげー口下手だったりするのか?」
「馬鹿なことを言うな、言いたいこことが決まってなかっただけだ」
そう言い、風間は顎を少し上げ、目を細めた。
「…桐島と、戦うそうだな」
「流れでそうなったな」
ため息をついて、風間は少し間を置いて口を開いた。
「お前、負けるぞ」
「率直だな、その根拠はなんだ?」
「桐島は俺より強いぞ」
風間はどんな表情でそれを口にしたのか、夕日の逆光でそれは伺えなかったが、いつもの厳粛な顔をしているのだろうと思った。
「学年一位のお前がそんなことを言うのか」
「言うさ、俺が一位で桐島が二位、そこに大きな差はなかった。それに桐島は親から使い魔を相続している、桐島の父は優秀な魔術師だ、相続する使い魔も強力なはずだ」
「…一つ聞いていいか?桐島がお前より強いってのはあの時のお前ってことか?」
風間は目を見開いたように見えた。そして、笑っているようにも見えた。
だから、自分はこう言葉を紡ぐのだ。
「俺はあのときの自分よりも強くなる」
「桐島に勝ってそれを証明してやる」
夕日が雲に隠れた。逆光が弱まり、風間の顔をはっきりと捉えてた。
「…忠告のつもりで来たんだがな、それでもどこかで思ってしまう、お前なら何か起きるんじゃないかってな」
風間は優等生には相応しくない何か企んだような、そんな笑みを浮かべていた。
「俺とあそこまで戦ったんだ、無様に負けるんじゃないぞ」
そう言い残すと風間は去って行った。
「ああ、勝つさ」
誰に誓うでもなく、ただそう呟いた。
桐島と勝負の約束をしてから1週間が経った。桐島は勝負事には真剣なのかこのごろは綾部をパシリに使わずにいるが、目に見えて不機嫌そうなのが伺えた。桐島からすれば一か月の猶予は鬱陶しく、すぐにでも自分と戦いたいのだろう。
だが、自分にとってはありがたいことであった、すでにこの一週間で様々な部分が伸びてきたと言えた。身体面では筋トレが功を制し、体には厚みができ、かなり身体を上手く動かすことが出来るようになった。魔力面では少しずつではあるが、増加は見受けられた、それが筋トレのおかげなのか、魔術訓練のおかげなのかはわからないので両方とも継続中である。
勝負まであと3週間、鍛錬に手を抜くことなく自身を磨けばかなり強くなれるという自覚があった。
だが、まだ何か出来ることはないかと探しているとき、父がこんなことを言った。
「最近よく食べるようになったなぁ」
目の前には黒の短髪に穏和そうな顔、それに眼鏡を乗っけた父がいる。夕飯時であった。回鍋肉をオカズに白飯を三杯食したところで父がポロリとそう言ったのだ。
「うん、体動かしたり魔術使うとすげーおなか減るね」
四杯目は納豆ごはんにしようと思ったところで
「いいことだよ、よく食べれば筋肉がつくし、魔力もつく」
納豆をかき混ぜる手がぴたりと止まった。
「…それほんと?」
「ああ、母さんだってそうやって鍛えてたんだぞ」
納豆をごはんに掛け、しょうゆを垂らす。
「母さんってどんぐらい飯食ってたの?」
「学生時代か?そりゃ凄かったぞ、弁当が重箱三段だったからな」
父は愉快そうにそう言った。
「それってまだある?」
「んん、探せばあるんじゃないか?」
「それとほかに母さんがやってたことある?」
「んー」
父が人差し指を顎に当てて考え始めた。初老の男がやっても可愛くはない。
炊飯器から5杯目をよそったところで父がこういった。
「そうそう、トレーニングの一環とかで僕が母さんの自転車を弄ったぞ、若いときだったからまだあんな程度の重さだったけど、今やったらなぁ、エネルギー効率の逆だよ逆、進化に抵抗したマシーンをつくれるなぁ・・・・・・・・」
稼業の話となり、急に饒舌になった父の話を遮り、父に詰め寄る。エネルギー効率の話などどうでもよいのだ。
「父さん、それ俺の自転車にもできる?」
父は数秒目をぱちくりとさせていた。それほど自分はおっかない顔をしていたのかと思った。
が、あとに聞いた話によると、どうも父に詰め寄る自分が学生時代、自転車の改造を頼んでくる母に瓜二つであったことが原因だったらしい。
「…出来るけど」
その夜、自分の愛車は魔の自転車へと変貌した。
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