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目は閉じているが、意識は戻っていた。寝不足であることを思い出し、もう一度寝ようとする、しかしすぐに今朝以降のことを思い出した。
試験のこと、風間との激戦が頭の中で渦巻いた。様々な感情が入り乱れ跳ねるように起きあがった。
清潔感のある白い部屋、若葉色のカーテンが前方と左側に引かれていた。
「起きたかい」
右側のカーテンは仕舞われており、一人の男がいた。丸椅子に入りきらないほどふくよかな体格にまさにダルマといった顔。月島学園長であった。そして、その後ろの窓から橙の陽光が差し込んできて、現在の時間が夕方だと分かった。
かなり長い間寝ていたらしい。
「あの、」
「君らほど派手にやった生徒はいなかったからね、君の回復を優先させてもらってる」
「あ、ありがとうございます・・・」
「なに、いい勝負が見れたし私は満足だよ」
そう言い、学園長はニィと笑った。
自分の身体を見てみるとほとんどの火傷が消えていた。学園長の魔術によるものだろう。だが、顔にはまだガーゼが張られており、ひりひりとした感触があった。
「傷は全部治さないというのが決まりなんだ、怪我することに対してちゃんと警戒心を持ってほしいからね」
「さて、本題に入ろうか、すでに試験の結果が出てる、聞きたい?」
学園長の顔がにやついていたのが癪に障ったので、黙っていると嘆息し、すぐに語りだした。
「この試験は加点方式、それぞれの教員が点数をつけていくんだけど、勿論勝つと沢山のポイントが貰える、まあ負けても術の使い方とか魔力量とか光る点があれば合格できるんだけどね、君、私の蘇生術ありきで戦っただろう?」
「……」
「さっきの怪我の話とおんなじさ、警戒心ってのは大事でそれを試験だから、生き返れるんだからと無茶するのは点数低いよ」
顔の火傷が疼くように痛みだしていた。
「だが、古海先生と笹島先生からの評価は高かった」
「ギリギリボーダーライン、私のおまけ点数も含めてね」
軽い言葉であったが、それでも頬の痛みを消すほどであった。
「合格ってこと、今度からは無茶しないようにしなさい」
注意であったがその語意は優しかった。
「じゃ僕忙しいから失礼するよ、もう大丈夫だと思うけど体調に問題があったら学校医に相談するように」
そう言うと学園長は全然忙しくなさそうな足取りで保健室を後にした。
しばらく、ベッドの上でボーとしていた。色んな感情があった。がそれを押しのけるように喜びが込み上げてきた。
「おい!ジーク!聞いたか!」
起動魔術にならないよう名前を呼ぶ。やはり一番喜びを分かち合いたかったのは一緒に戦ってくれたやつだった。
「おいジーク!…ジーク?」
しかし、返答がない。
「おーい、ジーク、ジークさん」
意地でも今喜びを分かち合いたくて、呼びまくる。
「ジーク、ブシドー、サムライソルジャー!」
テコでも反応しないジークに起動魔術を使ってやろうかと思うと
『あーもー!うるさいうるさい!あいつは今寝てるって!』
急に聞きなれない甲高い少女の声が頭に響いた。
「…………は?」
第一章 刃と魔術師の章 完
これにて一章完結です。最後まで読んでいただきありがとうございました!次からもなるべく投稿ペースを緩めずに頑張ります!