【第8章】破滅の行進
輪と海廻はクリスマスパーティのプレゼントを買いに行った。楽しい時間を過ごす二人であったが一方で裕司と優里奈がこの世界のことを調べていた。それぞれの思惑が交錯しすれ違っていく。その結果、結末は残酷なものとなる…
朝が来た…。黒羽輪は今日も気だるげに目を覚ましていた。
「今日はクリスマスイブか。ってヤバ!明日の準備してない!」
輪は焦りながら走って行った。
十二月二十五日に日比野高校のクリスマスパーティがある。クリスマスパーティはそれぞれの生徒がプレゼントを買い、買ったプレゼントを交換するイベントがあるのだが、輪はそのことをすっかり忘れていたのだ。
「いつもこういうことは裕司が言ってくるはずなのにな~」
輪はそう呟いた。裕司と優里奈は修学旅行以降話していない。俺たちの間に亀裂が出来てしまっていた。前の修学旅行で俺たちはそれぞれすれ違いが生じたのだ。
輪も拷問を受けてしまい爪の色は黒く変色し、髪の色も白く染まり、左目は青白く染まっていた。
「あれ以来何か妙なことになったな~」
輪はそう言いながら家を出た。
「輪、おはよう」
海廻が声をかけてきた。輪も「おはよう」と言い返した。
「元気無いな。どうかしたか?」
輪は海廻に聞いてみると「何でもない」と答えた。
「ねぇ、輪。今日の放課後時間ある?」
海廻が突然聞いてきたので輪は疑問に思ったが海廻はさらに続けた。
「えっとね、明日のクリスマスパーティのプレゼントまだ買ってないから一緒に買いに行こうと思って」
「そうか、俺もプレゼント買って無くてさ。いいよ、行こう」
「うん!」
海廻は上機嫌で一人さっさと走って行った。
裕司と優里奈は今日、学校を休み桃源町に向かっていた。
「ここであってるの?」
優里奈が裕司に尋ねる。
「ああ、このあたりのはずだ」
二人は8月に行った夏祭りが行われた山に向かっていた。そこに妙な物を見つけたからだ。
「見つけた。ここだ」
裕司が見つけたのは「とある墓標」だった。しかしー
「どうなってんだ、これ?」
裕司が疑問の声を上げてていたので優里奈は「どうしたの?」と尋ねた。
「前は、この墓標に「園花海廻」って書いてあったはずなんだ…なのにー」
優里奈は裕司の言う墓標を見てみただがー
「名前が書かれていない…真っ白じゃない…」
優里奈が呟く。
「一体何が起こってんだ?」
裕司が混乱している様子だった。
「他を当たってみる?」
優里奈の提案に対して裕司は「ああ」と答えて他の場所に当たることにした。
しばらくするとその墓標から文字が出てきた…書かれていた名前はー
「今日は裕司と優里奈は休みか」
「そうみたいだね~」
輪と海廻は学校の屋上でそんなやり取りをしていた。
「輪はさ~。今のこの世界はおかしいと思う?」
海廻がそんな事を聞いてくる。
「何かおかしいとは思う。けど…俺は裕司や優里奈ほど気にはしてないな…」
「何で?」
「俺たちは特に何かあった訳じゃないだろ?確かに修学旅行では大変な目にあったけど…こうしてみんな無事だったんだし特に気にすることでも無いと思ってさ」
輪はそう答えた。
「そっか…。じゃあ今のままでいいと思う?」
「う~ん。裕司たちとなんか喧嘩みたいになっちゃったからな~。今のままじゃ嫌だな。なんか」
「そっか」
海廻は素っ気ない感じで返事をした。
「何だ?珍しいな。海廻がそんな話をするなんて。何かあったのか?」
輪が疑問に思いながら海廻に聞いてきた。
「ううん。何でもないよ」
そう言って海廻は屋上を後にした。輪はそれをぼんやり眺めていた。
裕司と優里奈は夜中の公園で二人で話していた。
「しっかし、何もこれっていう手掛かりが無かったな」
「そうね」
裕司と優里奈は沈んだようにそう言った。
裕司と優里奈が分かっていることは主に三つだ。一つ目はこの世界は本来の世界とは違うこと。二つ目はこの世界の変化に誰も気づいていない…むしろ裕司と優里奈が違う世界の人の様な状態になっていること。そして三つめは…
「この世界は誰かが作っていて、その人が干渉してる…ねぇ裕司、一つ聞きたいんだけど何で誰かが干渉してるって言えるの?」
優里奈が聞いてきた。そして裕司はその質問に淡々と答えた。
「真由里の言葉から「私たち」って言ってた。要は俺たち五人にとって都合のいい世界って言ってるようにも思えた…まぁ、推測の域を出ないけど確実だと思う」
「じゃあ、真由里がこの世界に干渉してるんじゃないの?」
「その可能性は低い。この世界に仮に干渉してるとしたらあんな回りくどいことはしないはずだ」
「だったら誰が…」
「それが分からないから調べている訳だが…ぶっちゃけ真由里に聞くのが速いが…」
「教えてくれる訳が無い」
「そういうこった」
「今日はもう遅いし帰るか」
「そうね」
そう言って二人は解散した。
時は遡ること夕方、輪と海廻は明日のクリスマスパーティに交換するプレゼントを買いに行っていた。
「どれにするんだ?決めたか?」
輪が聞いてくる。しかし、
「まだ決めてない。そういう輪は決めたの?」
「俺はもう決めた。これにする」
輪がそう言って手に掴んだのは花柄のマフラーだった。
「そっか…輪はマフラーか。じゃあ私はこれだね!」
そう言って海廻が掴んだのは手袋だった。
「流石に安直過ぎないか?」
輪が海廻にそう言うが「これでいいの!」と答えた。
今、二人がいるのはクリスマスパーティでプレゼントを買う人が多いお店におりそこでプレゼントを選んでいたのだ。直前で買いに行く人も多いので今はかなり人がいた。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
輪が言うと海廻が「まだ帰りたくない!遊ぼう!」と言い出した。
「っつ!えっと…つまりこれはその…デート?」
「??何言ってるの?私は最初からそのつもりだったんだけど?」
海廻がそう言うと輪は照れくさそうにした。
「分かったよ…俺から離れんなよ」
「うん!」
そう言って輪と海廻は二人で歩き出した。
その後二人は色々な店を回ったり、ご飯を食べたりした。そして、今はカラオケボックスにいた。
「いや~。カラオケに行くのは久しぶりだね~!」
「そうだな」
海廻が興奮していると輪は淡々と答えた。
「何歌おうかな?」
海廻が言う。
「そう言えば昔裕司と俺とお前の三人でよく行ったな」
「そうだね~。二人きりで行くのは初めてだね!」
輪が昔を懐かしむように言うと海廻が満面の笑みで答えた。
「じゃあ、これにしよう!」
海廻が言うと曲が流れだした。
海廻は歌もかなり上手く全体的に明るめの曲を選曲する傾向がある。一方、輪はお世辞にも歌が上手いとは言い難い…曲も無駄に難易度の高い曲や電波ソング、ボカロなどを歌うため余計に下手さが目立つ。因みに裕司と優里奈は二人とも歌が上手い。
だが、今回の海廻はいつもと違っていた。全体的に失恋ソングやしっとりとした曲を歌っていた。輪は相変わらずの選曲だった。
ひと段落した後は海廻から輪に話を振ってきた。
「ねぇ、輪はさ、永遠の世界ってあると思う?楽園って存在すると思う?」
輪は少し間を置いた後に海廻の質問に答えた。
「う~ん。あったらいいなとは思うけど…そんなのがあるかって言われたら…どうなんだろうな」
「でも、今は世界中が平和だよ?戦争も無くなったし、皆が幸せな始まり、毎日から幸せな終わり終わりまで迎えてるんだよ?今のこの世界は永遠の楽園じゃないかな?」
海廻がそう言うと輪が押し黙った。そして、輪はこう答えた。
「分からない」
海廻はがっかりしたように「そっか」と答えた。
「それに裕司と優里奈と真由里とも今は変なことになっちまったし…今はそれを何とかしたいな」
「…そうだね」
輪がそう言うと海廻は納得したようにうなずいた。
「そろそろ時間だね…行こうか」
「ああ」
海廻がそう言うと二人はカラオケボックスを後にした。
「今日は楽しかったね!輪!」
海廻が満足げにそう言うと「ああ、そうだな」と輪は答えた。
「じゃあ、また明日!………(今度はもう、辛い思いはさせないから)」
輪は最後の方は小声で聞き取れなかった。
「ああ、また明日」
輪はそう言った。なんだかんだで輪も楽しんでいたのだ。
そして、二人はそれぞれの帰路へと進んだ。
私はあの後、裕司と別れ、一人で考え事をしていた。何か妙なことは無かったかと今までのことを振り返った。修学旅行、夏祭り、文化祭、体育祭、振り返ったが妙なことは一つも…いや、待て…裕司の言ってた墓標…何であそこに海廻の名前が?そもそもあの墓標って最初から名前は風化して分からなくなってたはず…だから分からなくて当然のはず…なのに何で裕司は海廻の名前を見たんだろう…
「まさか」
私はもしやと思いあの墓標に向かった。
「着いた…確かこの辺りに…」
優里奈は墓標の名前を見た。するとー
「やっぱり…」
そこに書かれていたのは『園花海廻』の名前だった。
「どういう原理か分からないけど夜になったら文字が出てくるみたいね。でも、何で海廻の名前が」
優里奈が思考をめぐらす…するとあることに気づいた。
「そう言えば、…何で気が付けなかったの?海廻ってよく考えたら謎が多いじゃない」
そう…海廻は輪とは中学二年生の時に知り合った…だが、それ以前はどうだ?彼女のことは全く分からなかった。輪の話だと海廻は小さいころからここにいたそうだ。なら中学一年の時から名前ぐらいは知っているはずなのだ。優里奈は人の顔と名前はすぐに覚えるので同学年の生徒の名前は中一の時点で把握しているのだ。それに海廻は美人で人気者であり、名前も特徴的だ。なのに何故優里奈は海廻のことを中三になるまで知らなかった?
「それに海廻って常に輪を思って行動している…それ自体はおかしくないけど、あれは異常だわ。それに海廻はこの世界を肯定的に思っていた。誰よりも。もしかしたらー」
優里奈はある考えに思い至り裕司に電話をした。
『もしもし、俺だけど。何か俺に用か?」
「この世界を作った犯人が分かったの」
『本当か?今どこにいるんだ?』
「直接話がしたいから今すぐに桃源山の墓標に来てちょうだい」
『分かった。すぐ行く』
優里奈は携帯の電源を切った。その時ー
「うん。そうだよ。優里奈の思ってる通りだよ」
優里奈は後ろを振り向いた先にいたのは『園花海廻』だった。
「じゃあ、あなたが」
優里奈は海廻に確認をとるするとー
「うん、そうだよ。この世界を創ったのはー『私』。何で分かったの?私はてっきり真由里が怪しいと二人は思い込んでるようだったけど…」
「私は人の顔と名前はすぐに覚える。中三になるまであなたのことが分からなかった。この時点で違和感があった。そして、これは今思い出したことだけどあなたはもう、『死んでるはず』」
「たったそれだけで私を犯人だと断定しちゃうんだ。それってひどくないかな?そっか…一年前のことを思い出したんだね」
「ここからは私の仮説になるわ。恐らくあなたと真由里はお互いのことを知ってる、いわゆる共犯者で真由里はおそらく私たちがもし違和感を感じてしまった時に海廻のことを気づかせないようにしていた。そして、あなたの行動は常に輪の為にこうどうしている。つまり、この世界は輪の為にあなたが用意した『楽園』だったのね」
優里奈が海廻に問いかけるするとー
「勘かな?それは」
海廻が聞き返す。すると優里奈は答えた。
「勘ね」
「女の勘は鋭いとよく言うけれどまさかここまでとはね~。一本取られたね」
「何でこんなこと…」
「そうしないといけなかったからだよ」
「これが輪の為になると思ってるの?」
「そうだよ。優里奈はもう全部思い出してるよね。輪は『私が死んだことになった日』からずっと引きこもっていた。私が望む世界なら輪も望んでる。私は皆にとって幸せな世界を創りたいだけ…それの何がいけないの?」
「本気でそう言ってるの?このことを知った輪なら必ずこう言うわ」
そして、優里奈は答えた。
「そんなはず無い!輪はそんなこと絶対に言わない!私の方が輪のこといっぱい知ってるもん!!」
「あなただって本当は分かってるはずよ!なのに何で!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさーーーーーーーーーーーーい!!!私は!この世界を守り続けなきゃならないの!でないと…全部壊れちゃう…」
「一体どういう…」
優里奈が疑問に思った次の瞬間ー
「え?」
優里奈は自分の身体を見たすると胸にナイフが刺さっていた。そして優里奈は倒れた。
「ごぉめんねぇ~~。優里奈ぁあ。こうするしかなかったんだ~。」
そして、すぐさま優里奈の喉をナイフで切り裂いた。さらに、両手首と両足も切り裂いた。身体全身に赤い花を咲かせた。
「っつ!」
「優里奈…大好きだったよ。『次の世界』では仲良くしようね」
そう言って、優里奈の血に染まった身体を抱きしめ、額にキスをした後海廻はそのまま去って行った。
しばらくして裕司が墓標に到着したがそこで見たものは…身体全身を切り刻まれ、倒れこんだ優里奈のだった。
「何だよ!これは!何でこんな!優里奈しっかりしろ!優里奈!優里奈!」
裕司が身体を揺すると目を開けて「裕司…」とか細い声が聞えた。どうやら口封じに喉を切られたようだ。
「わ…たし…は…もう…死ぬ…。あの子を止…め…て」
そう言って優里奈は息を引き取った。
優里奈の手の先には血で書かれた文字があった。「sea」とだけ書かれていた。恐らく暗号か何かだと裕司は直感した。優里奈は全ての真相にたどり着いた。それで優里奈はー
裕司は悲しみの余り涙した。
「くそ!くっそ!俺がもっと速くに来てれば!くっそーーーーーーーー!!!」
裕司は叫んだ、いつまでもー
12月25日クリスマスパーティは中止になった。島崎優里奈が桃源山で死体として発見された。第一発見者は神山裕司で見つけた頃には死んでいたそうだ。死因は刃物によるもので、全身を切り刻まれ胸を貫かれていた。このことを知った生徒たちは唖然とし皆、驚きを隠せずにいた。
特に輪はその日一日は何も喋らなかった。真由里は泣き叫び、海廻は下を向きうつむいていた。裕司は学校に来ていなかった。
次の日の12月26日葬式が行われた。輪は家が葬儀屋のため準備をしていた、淡々と。
輪は思考が回っていなかった。訳が分からなくなっていた。
何も言葉に出せない。言いたいことは山のようにあるはずなのに。
葬式が行われた。やはり裕司は来ていなかった。今は大雨が降っていた。まるで誰かが泣いているようなそんな感じだったのだ。
真由里はずっと泣いていた。海廻がそんな真由里をそっと抱きしめていた。
輪の眼は虚ろで死んだ魚のような眼をしており、そんな状態でお経を読んでいた。
お経が読み終わった頃には皆笑顔になっていた。雨も上がっていた。
「しかし、可哀想に。まだ子どもだったというのに。まぁ、あの世で幸せに暮らしている事だろう」
「ああ、仕方なかったんだよ」
「警察もこの捜査は打ち切るそうだ。自殺でケリを着けるそうだ」
といった声が聞えたが、今の輪は怒る気すら起きなかった。
冬休みが訪れた。輪は家にずっと引きこもっていた。思考が追いついていないのだ。
「何でこんなことになったんだ?ふざけてる。バカげてる」
輪はそんな事を呟いていた。今は1月8日、明日から3学期が始まる。だが、輪はもうそんなことどうでもよくなっていた。
時々海廻が顔を出しに来ていたがすぐに帰ってもらっていた。
引きこもるばかりではいけないと思った輪は外に出たくなった。
「外に行ってみるか」
そう言って輪は外に出て行った。
「ねぇ、これは一体どういうことなの?何で優里奈を…」
真由里は海廻に問い詰めていた。
「彼女は全てを知ってしまったからね。処分するしかなかったんだよ。それに…優里奈は私を否定した。許さない許さない許さない許さない許さない許さない絶対に」
「っ!」
真由里は海廻に恐怖を感じた。
「真由里は私のこと…否定しないよねぇ。だから、今まで協力してくれたんでしょう?」
「それは…」
真由里は言いよどんだがしばらくすると
「………分かってるよ。ここまで来たら引き返せない。私は最後まであなたに協力するよ」
真由里はそう答えた。すると海廻は満足げな顔をした。
「それでいいんだよ、真由里。嬉しいよ!」
海廻は真由里を抱きしめてそう言い放った。
「じゃあね!真由里!」
そう言って海廻は真由里から去って行った。
輪は一人で当てもなくふらふらと歩き続けていた。輪が辿り着いた場所は桃源町の中心部にある大きな墓園だ。
輪は幻覚でも見ているかのような眼をしていた。実際、そうなのかもしれなかった。
輪の視界はモノクロの世界とそれを色づける花が見えていた。花が一つ一つ枯れ果てていっていた。輪が視認した、コチョウラン、ヒヤシンス、トルコキキョウ、カキツバタ、スイートピー、クチナシなどの花が枯れ果てていた。まるで輪自身の心が枯れ果てるように。静かに枯れていた。そう、それはまるで輪の楽しかった思い出が枯れ果てるように。色褪せるように。
枯れ果てた花が風化し、また新しい花が咲き始めた。それまでは色々な種類の花があったが今度は一つの花が大量に咲き乱れた。
輪の視界に今広がっている花は彼岸花。花言葉は諦め、悲しい思い出。まるで、今の輪の心情を現しているようだ。彼岸花は血の色のように赤く、そして毒のような香りを発していた。
輪の目の前に突如人影が現れた。輪のよく知る島崎優里奈だ。
「優里奈!」
輪は目の前にいる少女の名を叫びながら近づいたが、手が届きそうになった瞬間、優里奈の身体が彼岸花の花弁となって消えていった。
「がっ!」
そして輪はそのまま通りすぎて足を躓き転んだ。
輪は上体を起こした後、散らばった花弁をこぶしで叩き潰した。
「ああ!!」
花弁を叩き付けた輪の拳は赤く染まっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
輪は息を切らしながら赤く染まった自分の手を見ていた。しばらくすると声が聞えて来た。誰の声か分からない。
聞こえてくる。聞きたくもない声が聞える。
【嫌だ!】 【死ね!】
【助けて!!】 【ぎゃああああああああ!】
【皆死んじゃうだろ~~~!!】
【守れなかった】 【消えろ!】 【こっ、殺される!】
【殺せ殺せ殺せ!!】 【こうするしかなかったんだ~】
【全てを犠牲にする覚悟があなたにはある?】
【あ…の…子を…た…すけ…て…】 【何で守ってくれないの?】 【何が正しいんだよ!?】
【あの人がいない!ねぇ、どこ!】 【ここくらいよ~】 【黙れ!】 【怖い怖い怖い!】
【僕が守らないと…】 【ああああああああああ!!】 【死なないでよ!】
【何をやっても駄目だ】 【必ず助けに来てくれる!だから、ぎゃあああああああ!!!】
「やめろやめろやめろやめろおやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやろ!!!!!俺の中に入ってくるなあああああああああああああああああ!!!!!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ー悲しみと…後悔だけが…心の中にに入り込んでくる。痛みと苦しみだけが俺の身体を絞め付ける…壊れていく…静かに消えていく…何もかもが…今までの幸せな時間が全て痛みと悲しみに代わっていく。
ーああ、これが………
【絶、望……】
輪が絶望を感じてしまった瞬間、世界が壊れだした。
「ああ~~。世界が壊れだしちゃったか~」
海廻が呑気そうに言う。
「人間の感情は理不尽だね。私はただ、皆の幸せのために…」
海廻は悲しそうにそう言い、更に続けた。
「輪が絶望したんだったらこの世界はまた創り変えられる。輪が幸せじゃない世界なんて意味ないもの。輪にとって幸せな世界になるまではこの世界は何度も何度も創り変えられる。輪が死んでもこの世界はまた幸せな世界になる。輪の為の世界。どうやら、輪だけじゃないみたいだね。絶望していたのは」
平和な世界になったはずなのに輪以外にも絶望した人間は海廻はこの世界になってから何人も見て来た。
「この世界はね、輪、あなたがトリガーなんだよ。あなたが幸福と感じるまではこの世界は維持される。けど、深い絶望を感じた時はこの世界はあなたが前よりも幸せになれる世界に再構築される」
海廻が独り言を言っていると後ろから声が聞えた。
「それがお前の狙いだったんだな、海廻」
海廻が振り向く。
「裕司か。私がここにいるってよく分かったね」
「中学校の屋上は昔お前と俺と輪でよく一緒にいて…お前のお気に入りの場所だったからな」
裕司が冷静に答えた。
「いつ私のことに気づいたの?」
「夏祭り行った時お前の名前が書かれていた墓標があった。その時からお前のことは怪しいと思っていた。だが、気づいたのは昨日だ」
「…何で気づいたの?」
「優里奈は血でメッセージを残していたんだよ。『sea』と書かれていた。この単語は英語で『海』って意味だ。中学生以上なら誰でも分かる単語だ。この単語はお前の名前の『海』を現してたんだよ」
裕司が海廻にそう言うと海廻はしまったなと言わんばかりな顔をして、「そっか。気づかなかったな~。もっと入念に殺しておくべきだったか…」と言い放った。
裕司は溢れ出る怒りを抑えながら海廻を睨み付けた。
「何でだよ…。友達だっただろ?何でこの世界のことがバレたってだけで殺したんだよ」
「最初は殺すつもりは無かったんだよ。優里奈には私の気持ちを分かってくれると思っていたから、説得するつもりだったんだよ?けど、優里奈は私を否定した!」
海廻は眼を血走らせながらそう言い放った。そして、更に続けた。
「それに、仮に優里奈が死んでも世界がやり直されれば優里奈の死もリセットされる。だから別にいいじゃん。幸せならそれで」
裕司は海廻の言葉を聞きこう答えた。
「お前のそれは自分の幸せの押し付けだ!悪意と何も変わらねーよ!」
裕司は海廻の言葉を真っ向から否定したのだった。
「そっか。なら、あなたも死んで!」
裕司は反射的に身体を捻らせたが、ナイフは右腕に刺さり壁に叩き付けられた。
「一体どうなって。俺は確かに避けたはずなのに…まさか、時間操作でも出来るのか?」
「う~~ん。ちょっと違うかな?あなたも言ってたでしょ?この世界は私の世界なんだよ。だから、この世界の概念を操作するなんてわけないよ?まぁ、完全無欠ってわけじゃないけど」
海廻は裕司に淡々と説明をした。
「そうかよ!」
裕司は自分の右腕に刺さっていたナイフを抜き取り海廻めがけて投げた。
しかし、海廻は飛んできたナイフを片手でキャッチし裕司の顔にナイフを投げつけた。
飛んできたナイフは裕司の頬に掠った。裕司は間一髪でナイフを躱し屋上を急いで降りて行った。
「逃がさないよ」
海廻はそう言って裕司の後を追いかけた。
裕司は階段をおり、中学校から出ようとしたその時右肩ににナイフが刺さっていた。
「がはっ!」
裕司は倒れこんだがすぐに立ち上がり中学校の校舎から出て、輪の元に向かった。
「以外としぶといね。まぁ、逃がさないけどね」
裕司は走り続けた。だが、海廻は裕司の向かう場所に先回りしていた。
輪のいる桃源町にある墓園まであと少しの所まで来ていた。しかし、墓園付近は巨大な茨に覆われており近づけない。
「くそっ!力ずくでも入ってやる!」
「させないよ」
後ろから声が聞えた。その瞬間、裕司の脇腹がナイフで貫かれていた。さらに、海廻はどこから持ってきたか分からないが日本刀を所持していた。それを使い、裕司の身体を切り裂いた。
裕司は海廻に切られまくり、裂かれまくり、身体全身が真っ赤に染まるまで切り刻み続けた。そして、海廻は裕司の五体を吹き飛ばした。
「がはっ」
裕司はあまり痛みを感じていなかった。海廻の刀捌きは見事なもので裕司は心地よく感じていたぐらいだ。
ーくそっ。ここまでか…。これじゃあ…優里奈の死が無駄になるじゃねーか。
裕司は身体を這いずり墓園へと進んでいく。
「はぁ、はぁ、はぁっ」
「今の裕司は生のしがらみに捕らわれてる獣だね。いい加減しつこいよ」
海廻は機嫌が悪そうに裕司に言い放った。しかし、裕司は止まらなかった。
「海廻、今お前は俺を『生のしがらみに捕らわれてる獣』と言ったな」
「それが何?」
「俺は…それが嬉しい…がはっ」
裕司は血を吐きながら誇らしげに言った。
「?意味が分からない」
海廻が裕司にそう言ったが、裕司がそのまま続けた。
「お前みたいに死んだまま生きてるよじゃあ分かんないだろうな。俺だって昔は今のお前と同じようなもんだった。死んだままで生きて来た。何となく生きて来た。けど、輪と出会ってそれが変わった。輪はバカだから…俺が助けねぇといけないんだよ。輪が俺の事を助けてくれた時もあった。そうしている内に俺にとって輪はかけがえのないものになっていたんだよ。今になって分かるよ…輪がどれだけ大事な奴か。輪だけじゃない。優里奈や真由里、海廻…お前だってそうだ。俺は今の輪とお前をそのまま野放しには出来ない。だって俺たちは『友達』だから」
海廻は顔を険しくして裕司の眼の前まで回り込んだ。
「裕司はもう、引く気はないんだね…なら、ここで死んで!」
海廻は裕司の背中をバッサリと切り裂いた。裕司はその瞬間動かなくなった。
「裕司…ごめん、ごめんね…」
そう言って、海廻は去って行った。
裕司は意識が無くなる直前海廻の顔が少しだけ見えた。
「へっ…やっぱり、お前も辛かったんじゃねーかよ。海廻」
裕司が見た最後の海廻の顔は涙を流し悲しい顔をした海廻だった。
「いなくなれ!いなくなれ!いなくなれ!俺の中に来るなあああああ!!!」
輪は発狂していた。頭がおかしくなるくらいに。いや、すでに今の輪は廃人になっているのかもしれない。
花が散っていく。そして、散った花がドロドロに溶けていく。ドロドロに溶けた赤い液体から声が聞える。だが、何を言っているのか輪にはもう分からなかった。
「俺は…もう……」
輪がそう言うと液体はたちまち黒色へと変わり、輪の身体を覆っていく。
真由里は海廻が去った後に墓園に来ていた。そして、覆われていた茨を破壊して進んでいった。
「せめて、最後は輪の傍にいたいな」
真由里はそう言った。そう、真由里は全て知っていたのだ。こうなることも本当は分かっていたのかも知れない。
「見届けよう…この世界の終焉を」
そう言って真由里は墓園の中に入って行った。
「真由里は…輪の所にいったんだね」
海廻はそう言った。
「私はこの世界を創り直さないといけないから輪の所にはいけないんだよね。そういう意味では真由里は少しずるいな…」
海廻はひとりごちるように言う。
「まぁ、けど私に協力してくれたんだしこの世界の最後くらい一緒に居させてもいいか」
海廻は疲れ切ったように独り言を言っていた。
「終わる時はいつも一瞬だね。…………………はぁ、悲しくない………はずなんだけどなぁ」
そう言って海廻は涙を流していた。脳裏に浮かんだのは優里奈と裕司の血まみれになった姿だった。両方とも海廻が殺した。
新しい世界になれば二人が死んだことそのものが無かったことになる。だから、何も問題はないはずだ。なのにー
「何でこんなに悲しいのかなぁ?何でこんなに苦しいのかな?分からないや」
海廻は自問自答したが結局何がどうなるわけでもなく、新しい世界の創造の準備を始めた。
輪は一筋の光が見えた気がしたがすぐにその光が閉ざされるとすぐに眼を閉じた。
「ここにいたんだね輪」
そんな声が聞こえた。
「真由里…何でここに…」
輪は疑問に思い問い詰めたが真由里は答えなかった。
「ねぇ、輪。最後に少しだけ話さない?二人きりで」
そう言って真由里と輪はお互いを見つめ合っていた。
【第8章】破滅へ行進を更新しました。はい、ようやく『声』の正体が判明しましたね。多分気づいてる人がほとんどだったと思いますが…海廻についてはもう少し掘り下げる予定です。
後…優里奈が死亡する形になりましたが実は最初は誰も死ぬ予定は無かったんですよ。でもなんやかんやでこうなりました。
というか、更新が大幅に遅れちゃいましたね。リアルが忙しかったです(泣)
次は真由里メインの話になります。そして輪は最後の決断に迫ります。
後、もうぼちぼち終了のカウントダウンを行いますね。後3話で終わる(予定)です!まぁ、これを越してしまう可能性もありますが…下回る事はないです。
それではまたお会いしましょう!




