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エデンの鳥かご  作者: チャッピー
11/12

【第10章】祈りと願い

 世界崩壊まで残り24時間。そんな中、この世界の元凶である園花海廻は最後の眠りについていた。そして、海廻は昔の夢を見ていた。

 今回の物語は、海廻が「楽園の世界」を作る過程を描いた【始まりの物語である】

 少女は祈った。普通の少女になることを。少年は願った。平穏な日常を過ごすことを。

 祈ることが少女の唯一の心の支えだった。例え…逆らえない運命だとしても祈ればそこへ導いてもらえるような気がしたから。

 少年は願い続けた。自分の前で悲しむ人を見ることのない世界になることを。少年は失ってばかりだった。

 この物語はそんな小さな祈りと願いから始まった…


               【始まりの物語である】


「はぁ、はぁ、はぁ」

 園花海廻は心不全を起こしていた。医師からは余命は後3日と宣告された。

 ー私、ここで死ぬのかな?

 海廻はそんな事を考えていた。

「うみねちゃん…」

 黒羽輪は海廻の名を呟いていた。輪は海廻の容体が悪化したと知らされたのですぐさま海廻の所に駆け付けた。ーしかし、

「もう、これ以上は限界でしょう」

 そんな声が聞えた。輪は目の前が真っ暗になる感覚を感じた。

 輪の家は葬儀屋である。人の死を幼い頃から見続けており、親戚の死もたくさん見て来た。

 輪は葬式が嫌いだった。大切な人が死んでいったから。輪は死に関しては異常なトラウマを抱えるようになってしまったのだ。

「死なないでうみねちゃん…お願い…死なないでよ…」

 輪は願った。願い…続けた。


 海廻が余命1日前の夜。海廻は祈り続けた。普通になりたいと。祈った。祈りつづけた。

「誰?」

 海廻は気配を感じ取った。そこにいたのは…輪だった。

「こんばんは。うみねちゃん」

 海廻は驚いたような顔をした。

「りんくん?どうしてここに?」

 海廻が尋ねると輪はすぐに答えた。

「うみねちゃんが心配で…それで…」

 輪はぎこちないように言うと海廻から大粒の涙が零れた。

「!何で泣いてるの?うみねちゃん」

 輪は驚き海廻に尋ねる。すると、海廻は嗚咽を漏らしながら話し出した。

「うっ…普通になりだかった…丈夫に…生まれたかった…うっ…皆と楽しく…もっと遊びたかった!りんくんやゆうじくんたちと…もっと遊びたかった!もっと…生きたかった!」

 そんな海廻を見て、輪は驚いていた。

「どうしたの?」

 輪が尋ねるすると海廻は答えた。

「私は今日か明日にはもう…死ぬって先生に言われたの…もう…生きられないって!」

 輪はそれを聞いた瞬間、涙が零れた。

「何でなんだろう…何で僕は…失うばかりなんだ。もう嫌だよ…誰かが死んでいくのを見るのは」

 そして、お互い泣き続けた…


 その後、少し落ち着き、話を始めた。

「もう、残された時間は本当に無いんだね…」

 輪が尋ねる。すると海廻は首肯した。

「私…嬉しかったよ…私の為にあなたが悲しんでくれたこと…今まで私が生きて来たことが無駄なんかじゃないって…思えたから。だから、もう何も悔いはないよ」

 海廻が笑顔でそう言った。

「僕はそんなに優しい人間じゃないよ。怖いんだよ…誰かが死んでいくのが」

 輪が海廻の言葉を否定する。

「ううん。怖いってことはあなたは命の尊さを知ってるってこと。あなたが悲しむのは失う辛さを知ってるってこと。こんなにも優しい人に出会えた私は本当に幸せ者だよ」

 海廻がそう口にする。そして、更に続けた。

「あなたと出会えた時間は…すごく楽しかった。病室と砂浜しかなかった私の世界を、あなたは一瞬で私の世界を広げてくれた。私に幸せをくれた。心残りがあるとすれば、中学生になる前に死んでしまうことと、もう…あなたに会えなくなってしまうことかな…」

 海廻がそう言うと輪はまた涙を流した。

「本当に…逝ってしまうの?」

 海廻は静かにそして悲し気に答えた。

「…うん」

 輪は手で顔を覆い涙を流した。

「りんくん。死ぬ前にあなたに伝えておきたいことがあるの」

 海廻が輪の手を下ろさせ、輪の顔を見た。そして、

「黒羽輪君、私を幸せにしてくれてありがとう。あなたをずっと愛しています。ずっと…好きでした」

 海廻が言葉を言い終えた瞬間、海廻の心臓が完全に止まった。海廻は眠るように息を引き取った。

 輪は壊れた人形のように月を眺めていた。


 輪は桃源山の麓に海廻の墓標を建てるように頼んだ。桃源山は一つだけ大きな願いを叶えてくれるという言い伝えがあるのだ。

 輪は海廻の墓標に願った。

「海廻が戻ってきますように。うみねちゃんを…返して…」

 願った…願い続けた。

 その時、墓標から園花海廻の名前が消えた。空を眺めると綺麗な満月が夜を照らしていた。そして、輪は海廻と出会った時のことを…完全に忘れたのだった。


 黒羽輪は中学二年生になっていた。裕司と一緒に家に帰っていた。

「しっかし暇だなぁ毎日毎日。何かこう…面白いことねーかなぁ」

 裕司がぼやきだした。

「うるせーよ。自分で探せ」

 輪が呆れ果て裕司に適当な返事で返した。

 輪は陸上部なのだが今日は活動が無い日だった。なので、悪友の裕司と一緒に帰っていたわけである。

「それにしてもお前は随分ドライになったよな~。小学生の時はあんなに元気な奴だったのに。まぁ、どっちかっつーとお前の場合は自分の感情を内に秘めるようになったって言った方が正しいな」

「……そうかもな」

 輪はそう言うとしばらく黙り込んだ。輪は小学生の頃の…もっと言うと小学6年生の時の記憶がほぼ無い。どうしても思い出せないのだ。

「何で俺はあの頃の記憶が無いんだろうな~」

 輪がそう言うと裕司が話してきた。

「まったく。その通りだぜ?何で覚えてないんだよ。よく施設の孤児院に行ったり病院に行ったりしただろう?まぁ、俺も何で孤児院や病院に頻繁に行ってたのかは覚えてないけど」

 輪はそのまま黙り込んだ。輪は裕司の言っていたことすら全く覚えていない。何か…大切なことを忘れてしまった気がする。

 輪がそう考えていると輪はとある人影を見て足を止めた。

「どうした?輪?」

 裕司が尋ねる。

「いや、あそこに人がいるんだけど…」

 輪が指をさす。

「…あ、ホントだ。ここは立ち入り禁止区域で誰も入らないのに」

 人影が見えたのは海岸だった。しかし、この海岸は満潮が来るとかなり水位が上がる上に波がかなり荒れ危険ということで立ち入り禁止になっているのだ。

「俺、ちょっとあの子に危ないから出るように言ってくる」

 輪が走って行った。

「おい、待てよ輪!今日は満潮の日だぞ!お前!」

 裕司の静止も聞かず輪は人影の所へ向かった。


「綺麗だね~」

 少女はそんな事を口にしていた。

「海を見るのは…やっぱりいいね~」

 少女がそんな事を言っていると後ろから声が聞えた。

「おい!ここは危ないからさっさと離れろ!」

 声は少年の声のようだ。声をかけたのはもちろん輪だ

「危ないって何が?」

 少女は尋ねる。

「もうちょっとで満潮が来る!ここは満潮が来ると波が荒れるから危険なんだだから速くー」

 そう言いかけた瞬間大波が二人を襲ってきた。

「うわっ!」「きゃっ!」

 二人は波に呑まれた。思った以上に波が荒れるのが速い。

「くっ!ヤバい!全然進まねぇ!」

 波がかなり荒れてるせいで泳いでも泳いでも進めない。少女の方も一応泳げるようだが進めていない。

「くそ!何か捕まるものは…」

 輪が探していると近くにロープの付いた浮輪を見つけた。

「輪!これに捕まれ!」

 声の主は裕司だった。どうやら助けに来てくれたようだ。

「おい!俺に捕まってろよ!」

 輪がそう言うと少女は輪に捕まり輪は浮輪を掴んだ。裕司は思いっきり力を込めてどうにか二人を助け出せた。


「はっくしゅん!」

 少女は盛大にくしゃみをした。

「で?何であんなとこにいたんだよ?立ち入り禁止の札があっただろ?」

 輪が尋ねると少女はこう答えた。

「海が見たかったの。私…海が好きだから」

「だからって立ち入り禁止のとこに入った挙句死にかけてるんじゃ世話ねーよ」

 裕司が渋い顔でそう言う。

「ごめんなさい…」

 少女は誤った。

「その制服…家の学校だよな?名前は?」

 輪が尋ねる。するとー

「私は園花海廻。中学二年生だよ!」

 海廻は元気よく名乗った。輪はその名を聞くと少し懐かしい気持ちになった。

「君…何処かで会わなかった?」

 輪がそう言うすると海廻がふざけたような表情をしながらこう言ってきた。

「ねぇ、もうちょっと上手いナンパの仕方ないの?」

「別に…そんなつもりは…」

 輪がそう言おうとすると裕司が茶化してきた。

「へぇ~、輪はこういう子が趣味なのか~。まぁ、こいつ大分変な奴だけど見た目はかわいいな」

「だからそんなんじゃねーって言ってんだろ!?」

 ーまぁ、確かにかわいいけど…それに、わりと好み…。

 海廻は青がかった長い黒髪と黄色の大きな綺麗な瞳を持つ少女だ。かなり華奢な体型であり、まさに清楚と呼ぶに相応しいのではないだろうか…見た目だけは…

「まぁ、助けてくれたことにはお礼を言わなきゃね!ありがと!ええと…」

 海廻が二人の名前が分からず、困惑していると裕司から名乗りだした。

「俺は神山裕司。よろしくな、園花」

 次に輪が名乗り出た。

「俺は黒羽輪だ」

「うん!ありがとう!輪!裕司!」

 海廻が元気よくそう言った。なんとも天真爛漫という言葉がぴったりな少女である。

「いきなり下の名前で呼び捨てかよ…まぁ、よろしくな海廻」

 後ろから裕司が「おまえもだろ」と言われたが無視する。輪は単純に向こうが呼び捨てにするならこっちもその方がいいと思っただけだ。

「うん!これからもよろしくね!」

 海廻が元気よくそう言った。

ーこれが輪と海廻の「二度目の出会い」だったー



「輪!裕司!おはよう!同じクラスだね!」

 海廻が元気よくそう言ってくる。

「ああ、そうだな」

 輪がそう答えると裕司が二人の間を割り込むようにして入ってきた。

「やれやれ…またお前と同じクラスか…輪。俺たちって運命の赤い糸で繋がってんのかな?」

「気色悪いこと言うな…」

 輪が呆れたように言う。

「冗談だよ!冗談!園花もこれから1年よろしくな!」

「うん!改めてよろしくね!二人とも!」

 輪たちは中学三年生になっていた。あの出会いから三人はよくつるむようになっていた。

「黒羽君」

 後ろから声がした。

「島崎か。お前も同じクラスか」

 輪がそう言うと海廻と裕司が訝しげな顔をした。

「ほ~~~~う、輪。園花というものがありながら二股か?いい度胸じゃあねーかよ」

 裕司が煽ってくる。かなり楽しそうだった。

「輪…」

 海廻は軽蔑するような眼で輪を見ていた。

「ちげーよ。こいつは同じ陸上部の同級生だよ」

 輪は弁解するが二人は信用していないようだ。

「私と黒羽君は同じ部活の友達よ。少なくともあなたたちが思っているような関係じゃないわ」

 更に続ける。

「私は島崎優里奈」

 優里奈は淡々と自己紹介をした。

「俺は神山裕司」

 裕司が自己紹介をした後海廻も自己紹介をした。

「私は園花海廻。よろしく」

「よろしくね。神山君、園花さん」

 優里奈が淡々と言ってきた。

「こいつは無口で不愛想だけどまぁ、いい奴だから」

 輪が優里奈のことを簡単に紹介した。

「フォローのつもり?なってないわよ」

 優里奈が輪に不満げに言ってきた。

「まぁ、仲良くやろうぜ!」

 裕司が元気よく言ってくる。

「ああ、そうだな」

 輪は首肯した。


 中学三年生になって間もなく優里奈は交通事故にあった。全治まで1か月かかった。輪たちは優里奈のお見舞いに何度か来ていたが基本的に優里奈は無口の為ほぼ会話が無かった。

 退院してから部活にもすぐに復帰したが、前ほど走れなくなっていた。そして、優里奈は初めて部活をサボった。

「………」

 優里奈は近くの公園で黙りこんでいた。

「あれ?優里奈?」

 声が聞こえた。そこにいたのは海廻だった。

「園花さん」

 優里奈が海廻の名を呼ぶと海廻は微妙な顔をした。

「海廻でいいよ」

 海廻はそう言って優里奈の隣に座った。

「いや~~!偶然だね~~!こんなところで会うなんて!でも、今部活だよね?もしかしてサボり?」

 海廻が楽しそうにそう言うと優里奈は表情を曇らせた。

「だったら…何?」

「いや、優里奈って真面目そうだったからサボるなんて珍しいな~って思って…何かあったの?」

 海廻がさっきとは一転して真面目な表情で聞いてくる。優里奈もそれを感じ取ったのだろう。海廻の質問に答えることにした。

「あの事故から、思うように走れなくなったの」

「まぁ、あの事故で足を手痛くやられたって聞いたし…」

 海廻がそう言うと優里奈は反論した。

「ううん。傷は完治してるの。でも…」

「走るのが怖くなっちゃったんだね。そう言えば自主練中に事故が起きたんだったね」

 海廻がそう言うと優里奈は悲しげな顔をした。

「私は…どうすれば…」

 優里奈がそう言うと海廻が話し出した。

「私ね、昔は心臓の重い病気にかかってたんだ。今はもう治ったけど」

「え?」

 優里奈が驚いた顔をしていた。

「当時はもう助からないって言われて、余命も宣告されたよ。しかも、そのすぐに両親が亡くなっちゃって…でも、私は諦めなかった…ううん、諦めきれなかったんだよ。私は…死にたくなかったから。だから、祈り続けたの。助かるように…」

 優里奈は海廻のことをお気楽な少女だと思っていた。学校でも居眠りはすぐにするし、常に明るくて皆を巻き込む少女だったから。だが、優里奈が今見ている海廻は今までの海廻とは全く違っていた。

「それからね…私は大切な人がいたの、大切な友達が…その友達はね…両親が交通事故で亡くなって、病院で過ごしていて外の世界が怖くて縮こまっていた私をこの広い世界に連れて行ってくれたんだよ。すごく楽しくて、毎日が幸せだった。私はその時、初めて「生きたい」って思えたの。まぁ、その人がどんな人か覚えてないんだけど」

「そんなことがあったのね」

 優里奈は海廻の話を聞きそう言った。

「そう、強く祈り続けてね、奇跡が起こったんだ。私の病気は死ぬ直前で治り始めたの。それから、その病気を完全に治せたんだ」

「…………」

 優里奈は黙って話を聞いていた。

「だからね、優里奈も諦めなければ大丈夫だよ。少しくらい休んでもいいんだよ。そこから立ち上がればいいんだから」

 海廻がそう言うと優里奈は反論した。

「私は…あなたの様に強くない…」

 海廻はそんな優里奈の言葉を否定した。

「ううん。そんな事無いよ。だって、優里奈は頑張り屋さんじゃん。私、輪と一緒にずっと見てた。だから、優里奈は大丈夫だよ」

 そう言って海廻は優里奈を抱きしめた。その後、優里奈はしばらくの間ずっと泣いていた…


「落ち着いた?」

 海廻が優里奈に問いかける。

「もう、大丈夫。ありがとう。園花さん」

 優里奈がそう言うと海廻がムスッとした顔をした。

「海廻でいいって言ったよね?」

 海廻がそう言うと優里奈は仕方なく訂正した。

「ありがとう。海廻」

「うん!」

 海廻は満面の笑みでそう答えた。




 時が経ち、輪たちは中学校を卒業した。

「みんな同じ高校に進学するんだよね!同じクラスになるといいね!」

 海廻がそう言うと輪が「そうだな」と楽しげに言った。

「優里奈は進路に悩んでたみたいだけどな~。まぁ、俺のおかげだな!皆同じとこに進学できたのは!」

 裕司がそう言うと優里奈が裕司の頭をはたいてきた。

「調子に乗るな」

「痛って!何だよもー。お前が進路で悩んでる所を俺が相談に乗ったんじゃないか!」

 裕司が苦し紛れにそう言うと優里奈がムスッとした顔になった。

「恩着せがましい」

 海廻も「そうだね…」と言いこればっかりは輪も弁解の余地なしと言った顔をしていた。

 こうして、輪たちの中学校生活が終わったのであった。



 海廻は一人で夜の散歩をしていた。すると、見知らぬ人影が見えた。よく見ると白い髪の少女だった。

「見知らない子だね」

 海廻は声をかける。どうも海廻は昔から知らない人と話す癖がある。今はそれも大分抜けてきてはいるが…

「ねぇ、君、見知らない子だね。どこから来たの?」

 すると、少女は驚いたような顔をして海廻を見て来た。

「あなたは?」

「私?私は園花海廻だよ。君は?」

 海廻が自己紹介をする。

「私は…白姫真由里です。最近この町に引っ越してきたんです」

 少女は…真由里はそう言ってきた。

「ここは暗いと危ないよ。特に君みたいにかわいい子は狙われちゃうよ?」

 海廻がそんな事を言うと真由里は訝しげな顔をした。

「そういうあなたこそこんな夜に歩くなんて危ないですよ。あなたも見たところ、結構かわいいですし…」

「へへへ、私は喧嘩強いから別に大丈夫!それに、私は夜の散歩が好きなんだ~」

 海廻はそう言いながら更に続けた。

「軽い道案内なら出来るよ!案内しようか?」

 海廻がそう言うと真由里は遠慮した。

「いいえ、大丈夫ですよ」

 しかし、真由里は引かなかった。

「ええ~!いいじゃん!行こう行こう!道案内するから!」

「えっ、ええ~~!!ちょっと待ってください~!」

 海廻は真由里の腕を引っ張って道案内をした。

ーこれが、悲劇の始まりになることも知らずー


 海廻は一通り真由里に道案内をし終えた後、公園で二人で座っていた。

「はい、ジュース」

 海廻は真由里に近くの自販機で買ったジュースを手渡した。

「ありがとうございます」

 真由里がお礼を言った後、海廻は真由里に尋ねて来た。

「真由里はさ~、今歳いくつなの?」

「今年で高校一年です」

 真由里がそう言うと海廻は目を輝かせた。

「私と同い年じゃん!高校はどこ?」

「市立南高校です」

 真由里がそう言うと海廻は残念そうな顔をした。

「そっか~。日比野高校じゃないんだ~、残念」

「そんなに残念がらなくても…また会えますよ!」

 真由里が海廻にそう言ってくる。

「そうだね!また会おうね、真由里!」

 海廻は真由里に握手をしようとした。真由里はそれに応えた。

 ーその瞬間…海廻は頭に電撃を走ったような感覚に襲われた。そして、頭の中に色々な映像が浮かんでくる。そして、海廻は全てを思い出した。

「園花さん?」

 真由里が海廻に声をかける。

「何でもないよ!今日はありがとね!」

 そう言ってお互い別れた。


 海廻は町の電柱に手を添えた。

ー木に変われ!

 海廻は心の中でそう唱えた瞬間、電柱が木に変わった。

 『概念操作』、それが海廻が生き返った時に手に入れた能力だった。

「全て…思い出した…そうだ…そうだった…私は輪の為に…私は小学六年のあの夜に輪の目の前で一度死んだ。その後、輪が桃源山の山の頂上に私の墓標を建てて、そして、願った。私がこの世界に戻ってくることを。そして、私は生き返った。恐らくこの力は私が生き返った時に手に入れた力」

 海廻はなぜ自分が生き返ったと同時にこの能力が使えたかは分からない。だが、「出来る気がした」のだ。海廻はなぜかそう確信した。

「でも、輪と後それから裕司も…何でみんな私のこと忘れてたんだろう?後私も何であの二人のことを忘れていたんだろう?」

 海廻が考えていると一つの結論に辿り着いた。

「輪は自分の能力を使うと記憶が失う。そして、その影響で私も?」

 そう考えると辻褄が合う。しかし、だとしたら、輪は自分に力に気付いていない可能性がある。

「輪はこう言ってた。失うのが怖いって。悲しいって言ってた。私は輪の助けになりたい。この力を私は輪の為に!」

 海廻の思想が歪んでしまった瞬間であった。


 海廻は自分の力を把握することにした。分かったことはこの『概念操作』は物質を自分が望むものに変換する能力のようだ。さらに、自分の意思で雨を降らせたりやませたりすることも可能である。他にも様々な応用が可能であった。しかし、変えられる範囲は非常に狭い。世界の概念全てを変えることは出来なそうだ。

「こんなんじゃ駄目…何か方法は…」

 そう考えていると海廻はある方法を思いついた。

「これなら…いける!待っててね、輪!あなたの望む世界を創って見せるから」



 高校一年生の八月三十一日、海廻は自分に計画を実行に移すことにした。

 この夏祭りは楽しかった。今でも、海廻の頭には鮮明に残っている。夏祭りが一通り終えた後、海廻は輪と一緒に帰っていた。

「海廻、今日の夏祭り…どうだった?」

 輪が聞いてくる。

「?どうしたの?珍しいね~、輪から話振ってくるなんて楽しかったよ!また行きたいね!」

 海廻がそう答えた。

「別に俺だってたまにはそういう話はするさ…でも、そっか。そりゃあよかった」

 輪がそう言う。すると今度は海廻から質問してきた。

「輪はさ…今でもやっぱり人が死んでいくのは…失っていくのは…悲しいことが起こるのは、やっぱり嫌?」

 輪はそんな海廻の質問に疑問を持った。

「何だ何だ?お前らしくない」

「いいから答えて」

 海廻が急かす。すると、輪はこう答えた。

「俺は人が死んでる姿を何度も見て来た。葬儀屋だからな。正直、若干トラウマだ。だから、あんな悲しい思いはしたくない」

 輪がそう答えると海廻は更に質問をした。

「幸福だけの世界でがもしあるとしたら…輪はそこに行きたい?」

 海廻が質問すると輪はすぐに答えた。

「そんな世界、あるんだったら行きたいな」

 輪がそう答えた時、海廻は小さい声で「良かった」と言った。

 海廻は計画の決行を決意した。海廻は『概念操作』で自身の心臓を止めた。

「おい!しっかりしろ!!しっかりしろ!海廻ぇぇぇぇぇ!!!」

 輪は倒れた海廻を抱き上げながらそう言った。

 これが園花海廻の二度目の死だった。


 海廻は自分の心臓を止め、この世界の概念そのものになった。これが海廻の目的であった。三代美代子をはじめとする人々は海廻の力で記憶の概念を操作され不治の病で死んだという偽りの記憶を植え付けられた。

 海廻は自身の力と輪の力を掛け合わせることでこの世界そのものの概念を変えようとしたのだ。輪にとって優しい世界を創るために…ただそれだけの為に海廻は自分自身を犠牲にしたのだ。

 輪はそれから引きこもりになってしまった。そして輪は願った。海廻がいる世界を。

「また海廻に会いたい、昔みたいに幸せでいたい、悲しみも、憎しみも、虚しさも、切なさも、息苦しさも、怖さも、争いもない、嘘のない、誰かを失うような苦しい痛みもない、そんな世界に行きたい。この世界がそんな世界だったらいいのに」

 輪がそう言うと概念となった海廻は輪に問いかけた。

ーあなたはそれを望むの?

「ああ、そんな世界に行きたい!そう!楽園に!!」

 満月の夜、強い願い、記憶、海廻の命を代償に輪と海廻は楽園を創りだした。

 世界が書き換えられていく…この世界に新たな概念が生まれた。そう、悲しみや痛み、あらゆる負の感情が亡くなった世界へと変わって行った。



 真由里はこの世界の異変にすぐに気が付いた。自身の能力が発動したことによりこの世界がおかしいことに気が付いた。

「今は八月のはず…何で時間が三月に巻き戻ってるの?」

 そう、時間が巻き戻っていた。真由里はそのことに気が付いた。そして、独自に捜査を進め海廻の元に辿り着いた。


 真由里と海廻は日比野高校の屋上にいた。

「あなたが…この世界を?」

 真由里が問いかける。

「その通りだよ。真由里、あなたのおかげで私はこの世界を創造できた。あなたが私の記憶を戻してくれたおかげで」

「なっ!」

 真由里は絶句した。無理もない。真由里は海廻に自分の力のことは言ってないし使った覚えもない。それに、真由里の記憶を戻す能力は使用限界がとうに来ていて使えないはずだった。

「きっと、私は特殊な人間だったからそのせいで能力が発動してしまったのかもね」

 海廻が冷静に真由里にそのことを告げる。

「ねぇ、真由里、私たちの日比野高校に転校しない?輪に会いたいんでしょう?」

 海廻が真由里に言うと真由里が驚きを隠せずに海廻に問いかけた。

「何で…それを…」

「私は概念となったからね~。色んな人の記憶に干渉できるんだよ。あなたの過去も全部知ってる。まさか輪の昔の友達だったなんて驚いたけど」

 真由里は海廻にさらに問いかけた。

「あなたの目的は…何なんですか?こんなおかしな世界を創って、何がしたいのですか?」

「おかしな世界なんかじゃないよ。『楽園の世界』だよ。それに、私は輪が…皆が幸せになる世界を創ったんだよ?それが私の目的」

 海廻が淡々と答える。

「私はあなたを止めるためにここに来ました。本来の世界を捻じ曲げるなんてそんなの間違ってます!」

 真由里がそう言うと、海廻は交渉を持ち掛けて来た。

「なら、これから一か月間この世界であなたはこの学校の転校生として暮らしてみてよ。それで納得いかなかったら、この世界を元に戻すといい。でも、この世界を受け入れたのなら、私に協力してもらう」

「ふざけないで!そんなの…」

 真由里は否定したが海廻はその言葉を遮った。

「この世界は私と輪で創った世界なんだよ?私を否定するってことは輪も否定するってことだよ?それでもいいの?」

「そ…それは…」

 真由里は言葉が出なくなった。

「それに私は何も悪事は働いていないよ?それでも信用できない?ねぇ、お願い。チャンスを頂戴」

 海廻は頭を下げ、必死でお願いした。

「分かりました。一か月だけ待ちます」

「ありがとう、真由里」

 真由里が了承し、海廻は笑顔でお礼を言った。

 そして真由里は輪たちと過ごす内にこの世界が好きになって行った。


「あなたの言う通りでした。この世界は…いいですね」

 真由里がそう答える。

「そうでしょう?協力する気になってくれた?」

 海廻が真由里に尋ねる。

「分かりました。あなたに協力します」

 海廻と真由里が同盟を組んだ瞬間だった。


 しかし、この世界は確実に歪みが生まれていた。そして、最終的には裕司、優里奈、真由里、そしてー輪までもがこの世界を否定した。

 ならば、海廻のやることは一つである。

ーこの世界を守り続ける。輪、例え、あなたを殺すことになっても。

 海廻の意識は現実に引き戻された。


「ふぁああああ…」

 そんな声を上げながら黒羽輪は目を覚ました。

「さて、海廻を探すか!とは言え、どこにいるんだろうな…あいつは」

 輪がそんな事を口にしていた。しかし、輪の覚悟は決まっていた。

ー海廻、俺は必ず、お前を助け出す!必ず!

 輪は改めてそう決意するのであった。

 

 

 【第10章】願いと祈り、更新しました。はい、というわけでカウントダウンです。あと1話で終わります。もう確定です。過去篇が思った以上に長くなってしまいました。これでもいくつかカットしました。今回の話はコンセプトがあるんですが、それはサブタイトルでもあるの通り「祈りと願い」です。海廻を大分掘り下げました。海廻の祈りと輪の願いを今回は意識して書きました。なんかファンタジー色が強くなってる気がしないでもないですが元からそうする予定だったので気にしない気にしない。

 次でいよいよ最終章です。一番書きたいところをやっと書ける!やったね!まぁ、ぶっちゃけ9章、10章の時点で書きたいことの半分くらいは書いてるのですが。序章と一章、そして、9章、10章はある程度構想は練ってたんですがそれ以外は行き当たりばったりで書いてました(笑)もちろん、次の最終章は結末はバッチリ考えてます!ご安心を。

 この最終章でこの物語は完結します。輪と海廻の物語を最後まで見ていってください。それではまたお会いしましょう!

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