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エデンの鳥かご  作者: チャッピー
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【第9章】世界創造〈ラグナロク〉

 輪は絶望し、世界崩壊が始まった。世界をリセットし、再構築を計る海廻だが裕司がそれを阻止しようとしていた。一方、絶望した輪は世界の終焉を待つだけの存在に変わり果てていた。そんな時、輪の前に真由里が現れた。輪にとって彼女は希望となるか、それともー

 途方も無い結末に向かおうとしていた輪。輪は考えた。自分は間違っていたのか…と。いや、きっと輪は間違ってなどいなかった。ただ、求めすぎただけなのかもしれない。

 黒い空間の中に一人取りこぼされた輪はこれから起こることが何となくだが分かった。

「この世界はもう終わるんだな。俺の手によって。それだけは何となくわかる」

 独り言のように輪は語りだす。もう輪は何もする気が起きなかった。このまま世界の終焉を迎えるのを待つだけにした。

「俺は…」

 輪が何かを呟きだそうとしたその時一筋の光が輪の視界から入った…気がした。

「気のせいか」

 輪が再び目を伏せようとするとそこには輪のよく知る少女が目の前にいた。

「ここにいたんだね、輪」

 そう、そこにいたのは真由里だった。

「真由里…どうしてここに」

 輪が尋ねる。すると真由里はすぐに答えた。

「ねぇ、輪。少し話さない?二人きりで」

 真由里がそう言った後二人は見つめ合っていた。

「ああ…そうだな…最後にお前と話すのも悪くないか」

 輪はそう言うと真由里から話を始めた。

「色々あったよね。私たちが出会ってから」

「そうだな…今年の春からお前がここに来て…そこから色々あったな。海廻に文化祭の実行委員やらされたり、劇をやったり、夏祭りでは海廻に色々振り回されたり、体育祭では俺たちが優勝したり、修学旅行では俺が大変な目にあって優里奈や裕司や真由里、俺と海廻が喧嘩みたいになったり…て結局あいつらとは仲直りできないままこの世界は終わるのか…」

 輪が今年の思い出を淡々と言っていくと次は真由里が答えだした。

「そうだね。文化祭は大変だったね私はあの頃はここに来てから日が浅くてあなたたちと上手くやれるか心配だった…けど、文化祭の運営も劇も成功できた。夏祭りは私はお祭りなんて言ったことが無かったからすごい新鮮な気持ちだった。花火も楽しかった。体育祭では皆で力を会せて優勝できた。修学旅行は色々あって、私はすごい悲しい思いをしたけどすごく楽しかった!うん、楽しかったんだよ!」

 真由里がそう言うと輪が今度は話し始めた。

「ああ、俺も同じだ…けどな…優里奈が死んだ瞬間、それらの思いが全部悲しい思い出になっちまった。今は…あの輝きもただの絶望の光にしか見えない」

 真由里は輪に対して悲しそうな目を向け、話し始めた。

「私も、優里奈が死んだと知った時…すごく悲しかった。今までこんな気持ちになったことが無かったくらいに。その瞬間分からなくなっちゃったの…本当に私がしてきたことは正しかったのかな?って思うようになった」

 真由里は涙目になりながらそう言った。

「なぁ、一つ聞きたいんだけど…お前はどこまで知ってるんだ?裕司や優里奈は色々調べてたみたいだけど…」

 輪は真由里の眼を見てそう言った。なぜだろう…真由里の今の言葉に輪は疑問を感じずにはいられなかった。

         

               「自分がしてきたことは正しかったのか?」


 なぜ真由里は今、そんなことを考える必要があるのか?輪は今そのことが気になっていたのだ。

 すると、真由里はあっさり答えた。

「もうこの世界は終わる…だから、話すね。全てを」

 そう言って真由里は語り始めた。



 世界が崩壊していく。建物は崩れていき、海は割れていき、大地は泥人形が崩れるかのごとく無くなっていく。終わりが近い。

「…一端この世界が終わり…新しい世界と秩序を創造する。私はこの世界を完結させない。永遠の時をあの人と生き続ける。輪…これからもずっと一緒だよ」

 海廻が嬉しそうにそう言った。すると、世界崩壊が一気に進んでいった。

「私は輪の為に生きてる…輪が幸せならそれでいい。輪が私を選んでくれなくてもかまわない。私はそれで幸せだから」

 海廻は自己暗示じみたその言葉をずっと言い続けていた。



「私はね…輪。私の本来の目的はあなたを止めることだったの…もう手遅れだけどね」

 真由里が自嘲じみてそう言った。

「どういう…」

 輪が質問しようとするが真由里はそのまま続けた。

「私には人の記憶を「取り戻させる」力があるの。裕司には…嘘を吐いたけど」

「記憶を…取り戻す?」

「この世界は「ある人物」よって創られた。そして、その代償にあなたの記憶が消された。私はあなたの失った記憶を取り戻してこの世界を元に戻すのが私の本来の目的だったの」

 真由里は輪にそう告げた。ただ、疑問が残る。輪は失った記憶を取り戻していない。

 輪は「失った記憶の部分」は把握していた。恐らく去年の8月から今年の3月までだ。輪はこの頃の記憶が全くないことには夏祭りの時点で気づいていた。なのに…

「何でお前は俺の記憶を戻さなかったんだ?」

 輪は真由里に問いかける。

「この世界が生まれた理由を知ってしまったから。そして、何より私はあなたたちと共に過ごすうちにこの世界が好きになってしまったから」

 真由里はそう答えた。

「この世界が生まれた理由?何なんだよ?それは…」

 真由里は答えなかった。いや、答えれなかった。

「ごめんなさい…それは私の口からは言えない。言う資格が無い。私はこの優しい世界に転がり込んだだけなのだから」

 そろそろ崩壊がかなり進んできたようだ。

「もう、終わりが近いな…」

「そう…だね。でも、大丈夫。一度世界は消えてまた…新しい世界になる。その時はまた…逢おうね」

 真由里はそう言った後、輪が「そうだな」と返した。

 二人は終わりの時を待ち続けた。


 墓園の前に一人の少年が倒れていた。周囲にあった花のドームが崩れ去り黒いドームが作られていた。

 そのドームが広がっていき、やがて、少年を飲み込んだ。

 -俺は…このまま死ぬのか?

 少年は心中でそう考えていた。そして、少年・裕司は今までの思い出を走馬灯のごとく思い出していた。そしてー


           ー嫌だなぁ、全部無かったことになるなんて…


 裕司はそのまま眼を閉じた。



 輪と真由里はお互いに寄り添い静かに眼を閉じていた。

「輪、怖くない?」

 真由里が尋ねる。

「少し怖いけど…思ったより平気だ」

 二人は手を繋ぐ…すると…輪は頭の中に様々な映像が浮かび上がった。

 今までの思い出を全て思い出していた。海廻が去年の夏死んだこと、そのせいで輪自身が引きこもりになってしまったこと。そして、今のこの世界を願ったこと。

「そうだ…何で気が付かなかったんだ…あの時の声は…」

 輪は全てを思い出した。

「輪?」

 真由里は輪に声をかけたするとー

「海廻はさ、どんな時でも弱音を吐かなくてさ、いつも笑顔だったんだよ。海廻が一度死んで俺が引きこもっちまってた時声がしたんだ。そして声が悲しそうな声で俺にこう言ったんだよ。『あなたはそれを望むの?』って。今になって分かる。あの時の声は悲しそうだったんだよ」

 真由里は驚きと共に安心したかのような顔をした。

「そっか。私は本当はこんな結末を望んでいなかった。だから私は…無意識に輪の記憶を戻しちゃったんだね」

 真由里がそう言うと輪は顔を前に向けた。

 その時輪の目の前に見たことのある少年がいた。裕司だ。

「裕司!お前っ!」

「へへっ…こっぴどくやられちまった。なぁ、輪。アイツのしようとしてることは…この世界を…無にすることと同じだ。俺たちの思い出を…無かったことにするってことだ。そんなのは…嫌だ」

 裕司がそういうと輪は「ああ」と答えた。

「俺は…あの修学旅行の時から…ずっと言えなかったことが…あるんだ。…ごめんな…そして、頼む…この世界を無にはしないでくれ…輪…これは…お前にしか…できないことなんだ…」

 裕司が言い終えると真由里はそれに続けた。

「輪…もう覚悟は決まったんだね」

 そして、裕司が続ける。

「頼んだぞ…輪」

 裕司はそう言い残した後、力尽きたように眼を閉じた。

「裕司!裕司!目を開けて!」

 裕司はとうとう限界が来たようだ。裕司は息を引き取った。真由里が号泣する。しかし輪は涙を堪え、まっすぐその先を見据えた。

「ありがとう。真由里、裕司」

 そして、輪は決意を新たに前へ進むと決めた。

「行こう!真由里!」

「うん!」

 そう言って二人はここから出る出口を探すのであった。

 この黒いドームはよく見れば、輪たちの記憶を映し出していた。文化祭、夏祭り、体育祭、修学旅行を始め、中学の頃の記憶や、小学校の頃の記憶も映っていた。

「これは…」

 輪が足を止めて見た記憶はいじめられてる真由里が輪が助け出すときの記憶だ。

「ははは…こんな時の記憶も出ちゃうなんて」

 真由里が照れながらそう言った。

「俺とお前はこの時から会ってたのか?」

「そうだよ…やっぱり輪は覚えてなかったんだね。でもよかった。思い出してくれて」

 真由里がそう言うと輪が「教えてくれればよかったのに」と言ったが真由里はすぐに首を横に振った。

「駄目だったんだよ。あの時は…それに別に覚えていなくてもいいとその時は…思ってたから」

「なら、また今度そのことについて色々話そう。俺はお前に聞きたいことが山ほどあるんだ」

 そう言いながら輪は抜け道を必死で探していた。真由里も必死に出口を探していたが見つからない。

 二人は様々な自分たちの記憶を眺めていた。そして、輪は強く思った。

 -記憶や思い出は時として毒になるのかもしれない。優里奈が死んだ時俺の優里奈と共に過ごした記憶が絶望に変わったからだ、でもー

「やっぱり、全部を無かったことにはしたくないな」

 輪がそう言うと海廻が首を縦に振った。

「そうだね。今までの思い出を無意味にしたくない。進もう!」

 しかし、どうしても出口が見つからない。

「闇雲に走ってるだけじゃダメみたいだな」

 輪がそう言うと真由里もどうやら同じことを考えていたようだ。

「そうだね」

 そして、輪と真由里は出口のヒントになるものがあるかどうかを探した。しかし、そこにあるのは自分たちの記憶だけだ。

「もしかしたら…この記憶の中に…出口が在るのかもしれないね」

 真由里がそう言う。

「なら、これらの記憶の中をしらみつぶしに見ていくしかないってことかよ」

 輪が頭を抱えると真由里がそれを反対した。

「それじゃ時間が掛かりすぎるよ。何とかして答えを絞り込もう」

「それでも絞り込もうとしても埒が開かねぇからとにかく今はどっかの記憶に入り込もう」

 そう言うと二人は適当に記憶を選んでその記憶に飛び込んだ。すると、視界が真っ白になった。

 輪と真由里は日比野高校の屋上にいた。目の前にいたのは海廻と輪だった。

「これは…クリスマスパーティ前日の記憶だな」

 輪がそう言うと真由里は周囲を見渡したが特に変わったものは無かったようだ。

「もう少し探ってみよう」

 真由里がそう言うと輪は頷き屋上から離れていった。

 しかし、屋上から降りようとしたが、階段の先は空洞になっていた。

「これ以上は進めなそうだな」

 輪がそう言うと真由里もそれに同意し、そのまま記憶から脱出した。

 他にもいくつか記憶の中に入り込んだがどれも出口を見つけるには至らなかった。

「くそっ!このままじゃいつまで経っても出れねぇ!」

 輪が焦り始める。しかし、真由里は冷静に出口を探っていた。

「今までの記憶を辿って分かったことがいくつかある。それは、この記憶は私たちに関する記憶しかないということ。そして、新しい記憶であればあるほど記憶が鮮明になってる」

 真由里が説明する。すると輪はもしかしてと思い口を開き自分の考えを真由里に伝えた。

「もしかして…一番新しい記憶が出口ってことかな?」

 輪が言うと真由里が納得したような顔をした。

「確かにその可能性は高いね。私たちの中で一番最近の記憶を探そう」

 探していくと一番最近の記憶を見つけた。

 その記憶はー真由里が輪の所に行こうとしていた記憶である。

「私はこの時あなたと一緒に新しい世界が創られるのを見ようと思っていた。けど、ここに来てあなたと再び話して、裕司がここまで来て私と輪に自分の想いを伝えに来て…私はこの世界を無意味に終わらせたくないって思った」

 そう、真由里がここに来た時点でこうなることが決まっていたのかもしれない。

 記憶が黒い円となり外に繋がる出口へと変わって行った。

「どうやら正解だったみたいだな。真由里、俺はさ、いっそこのままお前と終わりを迎えてもよかったってさっきまでは思ってたよ。けど、それじゃあ駄目なんだよな。俺の今の選択がもしかしたら間違ってるのかもしれない。でも、お前に記憶を戻してもらって裕司の想いを知って、このままじゃいけないと思った。だから俺は進むって決めたんだ!」

 輪は強い眼差しを真由里に向けそう言い放った。

「輪、もう迷わないんだね」

 真由里が再び聞いてくる。そして、輪はすぐに答えた。

「ああ!俺はもう、迷わない」

 すると、輪の身体に変化が起きた。髪の色が白色から黒色に戻り、目の色も元の水色の瞳に戻っていた。輪は中学二年になるまでは眼の色は水色だったのだが。中三に上がる頃には真っ黒になっていたのだ。それがなぜなのかは輪本人も分かってはいない。

「真由里、行こう!」

「うん、あの子を止めに行こう」

 しかし次の瞬間、真由里が謎の光に包まれて力尽きたように倒れこんだ。

「真由里!」

 輪が真由里を抱き上げ、呼びかける。しかし、真由里はかなり弱ってる様子だった。

「へへっどうやら私を邪魔な存在だと思ったみたいだね…」

 真由里がそう言うと輪は驚いたような顔をした。

「何でこんな…」

「今は世界の崩壊が起こっている。あの子はこの世界の神…これくらいのことは出来る…」

「真由里…俺は…」

 輪は戸惑いを隠せなかったが真由里は続ける。

「一度決めたことを曲げるのは止めて。お願い…私たちの友達を…助けて…」

 真由里がそう言うと輪はそのまま黙り込み、出口へ向かって走って行った。

 -私は今下したこの選択に後悔は…無い。やっと…自分の選択をすることが出来たんだから。これが…私の…本当の意思。

 真由里はゆっくりと眼を閉じていく…そして、真由里のポケットから懐中時計が出てきた。懐中時計の中身が露わになっていた。中身は写真が入っていた。輪、海廻、裕司、優里奈、そして真由里が写っている写真が入っていた。

 そして、真由里はそのまま絶命した…


 輪は走った、走り続けた。そして、出口へとたどり着いた。

「なっ!」

 輪が見た光景はひどいの一言であった。大地はひび割れ海は真っ二つに裂かれており、空間がねじ曲がったようになっていた。

「輪?」

 輪は声の方向へ振り向いた。そこにいたのは海廻だった。

「海廻…「お前」だったんだな?」

 輪が問いかけると海廻はあっさり首肯した。

「そうだよ…「楽園の支配者」は…私」

 さらに輪は質問を続ける。

「優里奈や裕司、真由里を殺したのもお前か?」

 これまた海廻はあっさり首肯した。

「そうだよ…全部…私がやった」

 輪は怒りを露わにし質問を続けた。

「何でこんなことを…お前の目的は何なんだ!?」

 海廻はあっさりと答えた。

「全ての者たちに幸福な時間を与えたかった。それだけだったのに…裕司や優里奈はこの世界を探索し否定した。普通の世界とは違う「楽園の世界」になったというのに…人間の好奇心はとことん理不尽かつ横暴だね」

「あいつらは全てを知った…だから殺したのか?」

 輪は問いかけるが海廻の対応はあっさりした回答だった。そう、まるで心が無いかのようであった。

「私だって、本当は殺すつもりは無かったんだよ。でも、あの子たちは私の世界を否定した。私の世界に従っていれば無限の幸福を分けていたものを」

 海廻がそういうと輪は海廻に対してこう言った。

「無限の幸福があればそりゃ幸せだろうさ、悲しいことなんかない方がいいに決まってる。けど、与えられるだけの用意された空っぽな幸せは自分で掴み取った些細な幸せにすら届きはしない!!空っぽになって行くだけだ!幸せは…求めるものであって、与えられるものじゃないんだよ!与えられるだけの幸せは人を狂わす。お前の言う幸せは麻薬と同じなんだよ!!!!」

 海廻は初めて表情が変わった。なぜなら、輪の今発した言葉は死ぬ直前に優里奈が口にした言葉とほとんど同じだったからだ。

 ー輪なら必ずこういうわ!あなたの言う幸せは麻薬と同じだってね!

 海廻は輪に否定されることは覚悟していた。だが、優里奈の言うとおりになったのが海廻にとっては心に刺さっていた。

 ーこれじゃまるで…優里奈の方が輪のことを理解してるみたいじゃない!

「輪は私の世界を否定するんだね…」

 海廻が悲し気に輪に問いかける。

「ああ、俺は…この世界を…認めない!」

 輪はその強い瞳で海廻を見据えてそう言い放った。

「輪は…強くなったね。真っ直ぐに…いや、違う。これが本当の輪…いつも真っ直ぐな人…」

 海廻がそのまま続けた。

「じゃあ、私のいる場所を探しなさい。そして、私を本当に否定するのならば…私を…殺しに来なさい!」

 そう言うと海廻は虚空へと消えていった。

「海廻!!待て!まだ話は終わっていない!!」

 しかし、海廻はすでに消えてしまっていた。

「とりあえず…海廻を探す!俺はまだ…海廻に本当に言いたかった事を言えてない!」

 そう言って輪は町を走り、海廻を探し始めた。



「輪はこの場所が分かるかな?まぁ、分かっても分からなくてもどちらでもいいけど…」

 ある場所に来ていた海廻はさらに続けた。

「この世界が崩壊するまで…後、24時間だよ…輪、それまでに私を見つけて殺せる?あなたがこの世界を否定するのなら…壊したいのなら…私を殺すしかないんだよ…ふふ。世界の命運を懸けたかくれんぼだね」

 海廻は楽し気とも悲し気ともとれる表情でさらに続けた。

「輪…あなたは自分の願いを現実にする力があるんだよ…私と真由里と輪は存在しないはずの力が使える。私は輪の力の余剰でしかないけど。何で輪と真由里にはそんな力があるのかは分からないけど二人とも簡単に力が使える訳ではない」

 そう、輪と真由里の力はいくつか制約がある。

 真由里は4回だけ「記憶を戻す力」がある。だが、この能力は一個人の全ての記憶を取り戻すことが出来る訳ではない。失ったほんの一部分の記憶を戻すことしかできない。

 真由里がこの力に気づいたのは小学六年生の頃でなぜ三回までしか無理なのかを気づいたのかというと、本来の世界において真由里は力を3回使ってしまい、一度、力が無くなったからだ。

 しかし、海廻がこの「楽園の世界」を創り、別の世界となり世界が一度リセットされたため真由里は再び能力を使えるようになった。しかし、この世界になってからは記憶を戻す相手が指定できなくなった。裕司と優里奈がこの世界に違和感を持ってしまったのも真由里が無意識に能力を発動させてしまっていたからだ。

 真由里がこの世界のことを全て知っていたのは無意識に自分自身に能力が発動し、記憶を取り戻し、この世界に違和感を感じとり、日比野高校に転校するまで独自で情報を集め回り、海廻に辿り着いたからなのだ。

 海廻は自分の目的を全て話し、真由里にこう言ってきた。「日比野高校に通ってみないか」と。海廻は輪のことをほぼ全て知り尽くしていた。真由里と輪が知り合いであることも知っていた。

 真由里はこれを了承して転校生として今年の4月に転校生として日比野高校に転校してきた。これが真由里が海廻の目的を知っていた理由である。

 輪の力は自分の願いを叶える力がある。しかし、この能力はかなりの制約が存在する。

「輪の力は満月の夜でないと使えない、同じ願いは叶えられない、願いの力が強くなくてはいけない。そして、記憶の一部が無くなる」

 海廻はそう呟いた。

「輪は何度かこの力を発現させてるけど…それについては輪自身も後で知ることになるだろうし…ここでは語らないよ」

 海廻は大きなあくびをした。

「もう…夜だね。少し…眠ろうか。この世界の最後の睡眠になるだろうし」

 海廻はそう言って眠りについたのであった。


「完全に見失った!」

 輪は一人で海廻を捜索していた。世界は今のところは崩壊を起こさず安定している状態だがいつまた、崩壊が始まるか分からない。時間との勝負だ。しかしー

「もう夜中だしな。こうも暗いんじゃ探しようもないな。それに身体が重い…」

 疲労しきった状態で捜すのは得策では無いだろう。

「少しだけ…休むか…」

 そう言って輪は一人道端で眠りにつくのであった。その後、輪が眼を覚ましたのは翌日の1月9日の朝であった。輪の最後の戦いが幕を開けるのであった。



 海廻は夢を見ていた。昔の…過去の夢を見ていた。それは…輪と初めて出会った小学6年生のことであった。

 当時の海廻は心臓の病気にかかっており余命がわずかしかないと言われていた。海廻は本来は活発な少女であった。故に外で遊ぶことが大好きであった。

 なので、海廻の両親は海廻の余命を医師に宣告された時、せめて自分の子を後悔が無いように本人の意思を尊重することに決めた。

 海廻は砂浜で遊んでいた。両親は遠くから海廻を眺めていた。

 そんな時、砂浜に一人の少年がやってきた。

「こんなところで何してるの?」

 少年は海廻に声をかけた。海廻は戸惑っていながらも話しかけてくれて嬉しかったのもあり少年の質問に答えた。

「砂遊び…です」

 少年は明るい調子で一緒に向こうで遊ぼうと元気よく言ってきたのだ。

「えっと…私はその…身体が弱くて…」

 身体が弱い海廻は遠慮しようとしたが、少年は海廻に寄って来た。

「じゃあ、一緒に砂遊びしよう!こう見えても砂で城を作るのは得意なんだよ~!」

 海廻は戸惑いながらも「それなら…」と言い一緒に砂遊びを始めた。

 二人でとても大きな城を作った。

「おお~~。こんなに大きい城を作ったのは初めてだよ!君すごいね!」

 少年は満足げにそう海廻に言う。

「私も…こんなに大きな城を作るのは初めて…です。嬉しいです。あ、ありがとうございます」

 海廻も嬉しかったようで少年に自分の気持ちを伝えた。

「えっと、あなたのお、お名前は?」

 少年は元気よく答えた。

「僕、黒羽輪!君は?」

 そして海廻も元気よく答えた。

「私は園花海廻!」

「よろしくね!うみねちゃん」

 輪は笑顔で言った。

「うん!こちらこそよろしくね!りんくん!」

 それが…二人の出会いであった。


 しかし、海廻は自分が死ぬ前に両親が事故で無くなってしまった。 海廻は一人ぼっちになってしまった。その後、葬式が行われた。海廻はむせび泣いていた。輪の両親が葬儀屋のため輪もその葬式に参加していた。

 輪は海廻のその姿を悲しげに見つめていた。

「うみねちゃん…」

 輪はそう呟きながら海廻を眺めていた。


 海廻は三代美代子の勤めている施設の孤児院に住むことになった。

 輪はそのことをすぐに知ったので施設によく遊びに行っていた。小学校も一緒だったため、会う機会も多かった。

「うみねちゃん。遊びに来たよ!」

 輪がやってきた。

「ちょっと待って!」

 海廻が準備を済ませてやってきた。

「お待たせ…りんくん。…とゆうじくんも?」

「よっ!そのはな。遊びに来たぜ」

 その少年神山裕司は元気よくそう言った。彼は輪と同じクラスで小4の頃からの腐れ縁らしい。

「それにしてもそのはなはかわいいな。りんの彼女なのがもったいないくらいだ」

 裕司が二人をからかってくる。

「「そんなんじゃないよ!」」

 ハモった。輪と海廻はさらに恥ずかしくなった。

 その後3人は日が暮れるまで遊び続けた。

「じゃあね!うみねちゃん、また明日」

「バイビー、そのはな」

 輪と裕司が海廻に別れの挨拶を言った。

「うん。今日は楽しかったよ。また来てね、りんくん、ゆうじくん」


 海廻は学校初めの頃はよく学校に来ていたが日に日に来る頻度が少なくなっていった。

 海廻は見た目がかわいいためクラスの中でも人気者だった。さらに、病気持ちとは思えないほど活発な少女であったため男女問わず人気があった。

 その海廻も病気が進行してきているため学校を休むことが多くなっていった。


「うみねちゃん。お見舞いに来たよ」

「生きてるか~。そのはな」

 輪と裕司は海廻のお見舞いに来ていた。

「あ、二人とも!来てくれたんだ!」

 海廻は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「はい、お土産。速く良くなるといいね」

 輪が心配そうに海廻に言った。

「速く良くなれよ。そのはな、待ってるからな」

 裕司も心配してくれているようだった。

「う…うん、ありがとう」

 海廻が微妙な顔をしながら返事をした。

「どうかしたの?」

 輪が聞いてくる。

「なんでもないよ!りんくん!…嬉しくて」

 海廻がそう言うと裕司が「そうかそうか!嬉しいか!」と言った。

「何でゆうじくんがいばるの?」

 海廻が言うと輪が「気にするな。こいつはいつもこうだ」とだけ返した。

「じゃあね」「じゃあな~」

 輪と裕司が帰って行った。その瞬間海廻はむせび泣いた。

「うっ…うっ…何で…何で私はこんな体で生まれてきちゃったの?」

 海廻はずっと堪えていた。誰にも相談できないでいた。言える訳が無い。

「りんくんともっと遊びたいよ…皆ともっと楽しく過ごしたいよ。普通に過ごしたいって思うことがそんなに悪いことなの?」

 海廻は悲しんだ。なぜなら余命はもう10日を切っているのだから。

「うっ!」

 海廻は胸の苦しさに襲われた。今にも死にそうな勢いだ。幸い医師がたまたま通りかかって来てくれたので大事には至らなかった。しかしー

「こんなの…死にながら生きてるようなものだよ」

 海廻は願った。自分が「普通に暮らせる」世界をー



 はい、第9章更新しました。もう、終わりは近いです。この回で伏線が大分回収されましたね~。この怒涛の伏線回収ぶりは自分でも驚いてます。だって、内容そこまで深くは考えて無いんですもん。

 今回は輪と真由里を中心に話を進めました。以外に影薄かったですからねー彼女(それでも優里奈よりはマシだったけども)今回の話でようやくヒロインっぽくなったのかな?真由里は。個人的にこの回はお気に入りです。

 今回の話でクライマックスに入ったと同時に犠牲も出てしまいました…そう、裕司と真由里が死亡しちゃったです。嘘だろ…いや、マジで誰も死なせる予定は無かったんです。個人的には裕司にはかなり愛着があったので…

 次の話は過去篇です。もう入ってますが。最終回直前が過去篇てのもどうかと思いますが、まぁ、勘弁してくださいな。え?修学旅行の時も過去篇やってたって?知らん。

 というわけで、後2話でこの物語は終わりを迎えます。最後までお付き合いください。それではまたお会いしましょう!

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