放課後の梅ちゃん(7)
毎週金曜深夜0時に、次話投稿します。感想等もよろしくお願いします。
「こそこそして、全くもって怪しすぎる……」
そう言って、百は僕の姿を検分するように、ジト目でねめつける。
妹が居るというだけで、いない奴らからしたら羨ましいらしいけれでも、実際の所はというと、そんなことは全く無い。モモなんて可愛らしい名前だけれど、ララもナナも美柑もいない僕にとっては、ハーレム計画なんてあるはずもなく、エッチぃTO LOVEるなんて起こるはずもないというものだ。
この九十九の次だから百というような、ふざけた名前をつけられてしまった(本人は気に入っているようだけれど)妹は、顔だけはいいのだけれど、その中身はというと、これがとんでもなくめんどくさいのだ。
まあ、世の中の妹なんてものは、多かれ少なかれ面倒なものなのだけれど、こいつはその度合いが違う。
まずこいつは、こういった絶対に会いたくない、関わりたくないときに限って、何故かしゃしゃり出てくる。
「こんな真夜中に一体、どこに、誰と、何をしに行こうって言うのよ!」
そして、こうやって何かにつけては、僕の行動をいちいちチェックしてくるのだ。
「どこだっていいだろう?ちょっと、そこまでフラグを回収しに行くんだよ!」
「フラグ?何それ?どういう意味?」
おっと、口が滑った。
百は片方の眉を持ち上げて、明らかに怪しむように、僕に詰め寄ってくる。
「な、何でも無いって!何でもないから気にすんなよ!」
「あやしい……何も無い人はそんな風に何でもないなんて言わないものよ!」
そう言って、百はますます顔を近づけて、僕に迫ってきた。
「お、お前の方こそ、こんな時間に何やってんだよ?」
僕のほうに向いていた疑惑の目を逸らす為に、苦し紛れに、そう訊ねる。
「え?あたし?そんなの決まっているじゃない」
百は暗い玄関でも分かるくらい、得意げな笑みを浮かべて、
「勉強していたのよ。お兄ちゃん」
と、ポニーテールを揺らして答える。
「お前、勉強って……」
こんな時間まで勉強して、一体、何になろうというのか。
ちなみに、というかこんな情報は誰もいらないとは思うけれど、百は僕と同じ東雲学園の中等部に通っている。僕の通っている高等部とは違い、あくまでも私立中学である東雲学園中等部は入学するのもかなり難しいらしく、市内でも秀才が集まる事で知られている。
しかも、わが妹である百は、その中等部三年の進学クラスに属していて、成績も常にトップクラスなのだそうだ。
そういった優秀な妹に比べると、成績のあまり芳しくない僕なんて、ただの普通科高校の劣等生である。
って、何それ。全然カッコよくない。
更に言うと、そんな、妹は我が家では希望の星であり、絶対君主であり、超時空シンデレラなのだ。したがって両親も、僕から見ると、露骨に育て方が違うように思うのだけれど、それは僕の被害妄想だけということも無いだろう。
そういう意味でもウザい妹なのだ。
「勉強は大事だよ。ほら、あたし中三だし」
「え?でも、お前、エスカレーターで進学するんじゃないのか?」
「お兄ちゃん……いくらなんでもエスカレーターじゃ進学できないよ。それを言うならエスカレーター式って言わないと……」
こういうところが更にムカつく。
「それで、そのエスカレーター式に進学できるはずのお前が、何でこんな遅くまで勉強しているんだよ?」
「それは……」
百は少しだけ、躊躇っているように考え込んで、
「そのまま進学するとは限らないって事じゃない?」
と、何だか曖昧に答えた。
「そうなのか?お前はてっきり東雲学園に来るもんだと……」
「まだ決めかねてるって感じかな……ほら、だってお兄ちゃんが居るでしょ?」
「そりゃ、一体どういう意味だよ!?」
その内容如何で、さすがに傷つくぞ。
「ま、まあ……なんにつけても頑張るのは良い事だ。勉強頑張れよ、百――」
僕はドアノブに手をかける。
「じゃあ、行ってきます」
「うん。分かったよ、お兄ちゃん。行ってらっしゃい……って、ちょっと!何、勝手に出て行こうとしているのよ!」
ちっ!誤魔化せたと思ったのに……。
「いや、だって、そんな流れだったじゃないか……」
「流れって何よ!お兄ちゃん、あたしに何も教えてくれてないじゃない!どこに行くとかさ!誰ととか!」
誤魔化そうとした事が裏目に出たらしく、百は女性特有の手に負えないヒステリーを起こして、僕の罪を糾弾するように、早口でまくし立てる。
「ちゃんと答えてよね!どこに、誰と、何しに行くか!」
質問事項が増えたような気もするが、とにかくこの問いに答えることが出来なければ、僕はこのドアを突破する事は出来ないようだ。
「さあ!どうなのよ!」
まるで旅人になぞなぞを出して、その行く手を遮ったといわれるエジプトのスフィンクスのように、高圧的な態度で、僕を攻め立てる百なのだった。
なんだっけ?答えられないと、石にされるんだっけ?って、そりゃメデューサだったっけ?まあ、とにかく何とかしてこいつから逃れないと……。
「分かったよ……ちゃんと教えてやるから……」
僕は観念したと表現する為に、両掌を百に向けて見せ、降参のポーズを取る。
「実はな――」
と、僕は極めて簡潔に、百にこれからどこに行って、誰と、何をするかを教えた。
「――ふうん……そうなんだ……」
僕の説明に、ひとまずは納得したと見える百は、小さく頷きながら、何度もその答えを頭の中で吟味しているようだ。
「それにしても、こんな時間から学校に行って肝試しなんて、変わってるよね。しかもクラスメイトはほぼ参加するだなんて、どんだけお兄ちゃんのクラスって仲がいいのよ」
呆れたように笑いながら、百はそう言った。
さて、お気づきの通り、僕は百に、決して正直に真実をありのままに伝えてはいない。
最も重要(?)な部分、『誰と』を隠したのだった。
ある程度の年齢の人間ならば、当然知っていることなのだけれど、上手な嘘というのは、少しだけ真実が混じっているか、真実にほんの少しの嘘を混ぜる事なのだが、しかしながら幸い(彼女にとっては残念ながら)百はまだ、そこまでの年齢には達していなかった。
「あ、ああ、そうなんだ。楡沢って奴が言い出したんだけどさ。ほら、一度会った事があっただろ?本当、気のいい奴らなんだよ……」
「まったくもう、高校生にもなって、子供っぽいんだから」
したがって、僕の嘘に、全く気付く素振りも見せない百は、ウフフとかいって、笑っているだけなのだった。
「そ、そ、そうなんだよ、本当、クラスの全員が来るとか、本当ありえないよな。は、はははは……」
……ま、まあ、僕のごまかし方はともかく、この説明で百はとりあえず納得したようだ。
「ま、そういうことだから……」
そう言うと、僕は片手を挙げて、ドアを開けて出て行こうとする。
「うん。分かった」
百はそう言うと、沓脱に降りてきて、ゴソゴソしだした。
「……おい、何をしているんだ?」
「ん?見てわかんない?靴を履いてるんだよ」
「いや、そうじゃなくって!靴を履いてどうする気だって訊いてんだよ!」
いそいそと靴を履き終えた百は、キョトンとした表情で顔を上げると、
「どうするって、ついて行くんだよ」
何を分かりきった事を聞いているの?と、顔に貼り付けて、国民の当然の権利を主張するかのように、はっきりと口にする。
「そんな面白そうなイベント、ついていくに決まってるじゃない!」
「いやいやいや!決まってないよ!」
本当に、めんどくさい妹。
「何を言い出すかと思ったら……お前を連れて行ける訳ないだろう。みんなも迷惑するだろうし……」
迷惑するのは、僕なのだけれど。
しかし、僕の考えとは裏腹に、百はせっかく収まったヒステリーをぶり返させてしまったようで、
「なんでよ!連れてってよ!てか、連れてけ!」
と、とても高等部にまで、その名前が聞こえてくるほどの、評判の美少女が口にするとは思えない言葉を吐いて、僕に懇願、というか脅迫してくるのだった。
「お兄ちゃん言ったよね?どこに行く時もいつも一緒だって。あれは嘘だったって言うの?」
「そんなプロポーズを、お前に言った覚えは無い」
「そ、そんな……あの約束はデタラメだったって言うの!?騙したのね!?詐欺なのね!?詐欺ったのね!?」
「人をそんな結婚詐欺師みたいに言うな!」
詐欺ったってなんだよ!?
「大体、そんな台詞、僕がいつ言ったって言うんだ?」
「ま、まさか……覚えてないっていうの……?」
百はわざとらしく、大げさに驚いてみせる。
「そう、あれは、たしか十年前……」
「って、幼稚園の頃じゃねえか!」
そんな昔の話を、持ち出してくるんじゃねえよ。
遠い目をして語り始めようとしている百に、僕は言ってきかせる。
「百よ。人間というのはだな、忘れるという事が出来るから、こうやって幸せに生きていけるのだよ。そんな昔の事を、いつまでも覚えていても、何も良い事は無いぞ。全ての事柄を覚えているなんて、そんな事がもし出来るのだとしたら、人間の脳では到底耐えられないほどの情報量になってしまい、たった一年でパンクしてしまうのだと、某禁書目録さんも言っていたじゃないか」
「あれは、確かそんな呪いがかけられているって言われてたけど、本当はそうじゃなかった、とかそんな話じゃなかったっけ?ていうか――」
暗がりでも分かるほど、百は落胆してみせて、
「あたしにとっては、忘れたくない大事な思い出なんだけどな……」
と呟いて、寂しそうに笑った。
「とにかく、ダメなものはダメだ」
かわいそうな子作戦を発令しそうになっている百に、先手を打つべく、僕は毅然とした態度で言う。
「お前が何と言おうと、連れて行くわけにはいかない」
僕にはっきりと拒絶された百は、すっかり拗ねた子供のような表情になって、
「むう~~~……」
などと、唸りを上げながらジト目で睨んでくる。
「そんなに睨んでも無駄だからな」
せっかくクラスのマドンナ的女子と、二人っきりで深夜の学校に忍び込むだなんて、ラノベの主人公でもなければ、一生回ってくるはずもないチャンスを、たかが妹の駄々のせいで、ふいにするなんてもったいない事は出来るわけがない。
生粋の日本男児である所の僕としては、世界に誇るべき『もったいない精神』から、このチャンスは絶対に逃してはならないと考えているのだ。
絶対に負けられない戦いが、ここにある!
どんな顔をして、僕を睨んでこようが、たかが妹だ。怖くもなんとも無い。
ふん、精々恨みがましく僕を睨むがいいさ。
そんなものに、屈するわけが無かろう。
「あのさ、お兄ちゃん……」
睨みつつも、静かに百は口を開く。
「ん?なんだ?」
さあ!どんな罵声でも、恨み言でも言うがよい!そんなもの、痛くもかゆくも無いわ!
「お兄ちゃんさあ、まさか、女の人と会うんじゃないよね?」
「……は、はい?」
百のまさかの攻撃(口撃)に、声が完全に裏返ってしまった。
「さっき言ってた、クラスメイト達と肝試しっていうのも、本当は嘘なんじゃない?」
「な、な、な、何を言っているのかな?、全く、わ、わけがわからにゃいにょ」
しかも、続きにいたっては思いっきり噛んでしまった。
狼狽の見本のような態度を取ってしまった僕に、百は素朴な疑問を投げかけるように、至って自然に口撃を続行する。
「だって、お兄ちゃんが今、着てるのって、お気に入りのパーカーじゃん。そんなの着て、ただのクラスメイトとの戯れ事に出かける訳ないよね?」
誤魔化せ!誤魔化すんだ!僕!
「た、確かに、僕が着ているのは、数少ない僕の私服コレクションの中でも、唯一ちゃんとしたブランドで、自分で選んで買った、お気に入りのパーカーだけれど、そ、それが、何で女の子と会うって事になるんだよ?」
「え?だって、お兄ちゃん、それ、デート服にするんだって買ってたじゃん」
「ぐはっ!」
誤魔化し失敗!
略してごまかしっぱい!
「こんな時間に女の子と会うなんて、何を考えているのよ!?ほんと信じられない!私というものがありながら……不潔よ!」
「何だ?その女房気取りは!」
なんて、一応、突っ込んでみたものの、形勢は完璧に僕の不利だ。
敗色濃厚なんてものではない。
九回裏、ツーアウト、しかも二十点差で負けているチームのバッターボックスに立たされているような気分だ。
しかし……しかしだ……僕は行かなくてはいけない。
ここから起死回生の一手を、僕は繰り出さなくてはいけないのだ。
最後の一球から、満塁ホームランを四回と、一本のソロホームランを打つぐらい不可能なことをやってのけなくてはならない。
さあ、僕の巻き返しが始まるのだ。
「フフフ……どうやらお前は、何か、勘違いをしているようだな」
「勘違い?何?言い訳?てか、何?また誤魔化そうとしているんじゃないの?」
百にとっては、僕の言葉はすでに信じるに値しないものとしてのレッテルをべったりと貼られているようだけれども、僕はそんな事など気にも留めずに続ける。
「確かに……確かにお前が言ったとおり、このパーカーは、僕が来るべきデートに備えて、購入したもので間違いない」
「何それ?弁護士の真似でもしてるつもりなの?そんなんじゃ、どんな訴訟も敗訴決定だよ」
百は自分の勝利を確信して疑わない表情を、顔全面に貼り付けて、僕に話す。
「まあ、言わなくてもわかっていると思うけれど、お兄ちゃんの選べる選択肢は、あたしを連れて行くか、深夜に女の子とコソコソと密会している事をお母さん達にばらされて、あたしを連れて行くしかないんだからね!」
「どちらにしろ、ついて来るのかよ……」
普通は『ばらされたくなければ連れて行け』じゃないのかよ?
「しかーし!そこがお前の勘違いしている所なのだよ!」
「は?どこ?どこが?」
僕の態度が気に食わなかったのだろう、百は明らかに機嫌を損ねて、むきになって訊いてきた。
「どうせ、そうやってあたしを挑発して、適当にはぐらかすつもりなんでしょ?」
「くっくっくっ……言ってろ、言ってろ」
僕はわざと、百が更に怒るように、不敵に笑う。
「じゃ、じゃあ!教えてもらおうじゃないの!あたしが何を勘違いしているのかを!」
僕の思惑通り、百は鼻息も荒く、僕に詰め寄ってくる。
「ああ、教えてやるとも!物分りの悪い妹に、このお兄さまがな!」
売り言葉に買い言葉、とばかりに僕も続ける。
「まず最初に、お前が言うように、僕はデートのためにこのお気に入りのパーカーを着ていることは認めよう」
あくまでも高圧的に、僕は話す。
「だったら、あたしの言ったとおりじゃん。それが何であたしの勘違いって話になるのよ?」
「そ、れ、が!その思い込みこそが、お前の間違いなんだよ」
「はあ?どういうこと?」
百はもうすでに噴火寸前といった表情だ。
「ちゃんと説明してよ。そんなんじゃ何が言いたいのか全然わかんないんだけど?」
「フッフッフッ……では、教えてやろう――」
僕はめいっぱいキメ顔で言う。
「僕はデートに行くとは言ったけれど、誰と行くかなんて言ったか?」
「え?それは……確かに……って、まさか……そ、そんな……?」
「ああ、そうだ、僕がこの深夜にデートをしに、コソコソと会いに行くのは、女の子ではない」
犯人を宣言する名探偵よろしく、僕は百に勝ち誇る。
「僕が今からデートするのは、正真正銘、男の楡沢なのだよ!」
わはははは、と高笑いをあげたいけれど、そんな事をして、両親を起こしてしまっては元も子もない。僕は心の中だけで、笑うことにした。
「ふん、どうだ?これならお前もついてくるわけには行かないだろ?それに、母さん達に告げ口したとしても、ただ、傍目には男友達と遊びにいっただけなんだから、別に僕は痛くもかゆくもないね」
勝ち誇る僕の目の前で、百は黙り続けている。
「ん?どうした?悔しくて言葉も出ないのか?」
「…………お兄ちゃんさあ……」
百はゆっくりと、重たい口を開く。
「お兄ちゃんさあ、恥ずかしくないの……?」
「な、何が?」
「いや、まあ……お兄ちゃんがそれでいいならいいんだけれど……」
百は、僕を憐れむような目で見ながら、力なく笑う。
「何ていうか……そこまで必死なんだったら……」
コクコクと数回頷いて、
「うん、いいよ……しょうがないから、今回は見逃してあげるよ」
そう言うと、百はまるでお姉ちゃんのように、優しく微笑んでみせた。
「…………あ、ありがとう……」
何となく、お礼を言ってしまったけれど、これって馬鹿にされてないか?僕。
「じゃ、じゃあ……まあ、行ってきます……」
何か釈然としないものが、腹のそこで燻っているけれど、とにかく百の気が変わってしまう前に!
「そういえばさあ、お兄ちゃん?」
「今さら止めたって、無駄だからな!」
噛み付かんばかりの勢いで、僕は百をけん制する。
「いやいや、別にもう止めはしないけれど……」
「そうか、それならいいけれど……で?何だ?」
「いや、行くのは構わないんだけれど、ただ……まあ……その……」
恥ずかしがるようにモジモジと、百は俯いて、
「その……気をつけてって……言おうかと……」
と、消え入りそうな声(実際に最後の方は消え入っていたのだが)で、僕に言うのだった。
「なんだ、そんな事かよ」
「なんだじゃないよ!お兄ちゃん!」
頬を膨らませて、百は言う。
「お兄ちゃんだって知ってるでしょ?あの噂……」
「ああ、『放課後の梅ちゃん』の事か?」
知ってるも何も、それ所の話ではないのだけれど……。
「それが、どうしたんだよ?」
「どうしたって……だから、気をつけてって言ってるの!」
もう!と、更に百は頬をはち切れそうなほど膨らませるのだった。
「心配してあげてるってのに、もっと違う言葉があるんじゃないの!」
「そんな心配の押し売りなんて、頼んだ覚えはないのだけれど……」
どこの世界に、妹に心配されて喜ぶ兄がいる?
「梅ちゃんねえ……」
「そうだよ!色々と物騒な噂が、こっちにまで聞こえてきているんだから!ほら、この前だって、女子生徒が襲われたって……」
百はさっきの表情からガラッと変わって、とても子供っぽい、夜の闇を怖がる女の子のような顔で、不安げに僕にそう話す。
「まあ、だから、肝試しなんてものに行くんだろうけれど……でも、本当に気をつけてよね」
「そんな心配しなくたって、分かってるって」
僕はそんな百を片手で制しながら、ドアノブに手をかける。
「もう!お兄ちゃん!」
「大丈夫だって。それに、もしかしたらその梅ちゃんは――」
ドアを開け、振り返りざま、僕は心配そうにこちらを見つめる百に、笑ってみせる。
「――実は案外、いい奴かもしれないぜ?」