表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Wizard of Defect  作者:
【第一部 運命始動】
17/38

第13話『Re:Start』

「――はっ」


 パチリ、と目を覚ます。勢いよく顔を上げればそこには、


「おや、目を覚ましたかい。シオン君?」

「……アルファルド先生……」


 そこには、図書館の主であるアルファルド・ヒドラが居た。

 周りを見渡せばそこは図書館の方ではなく、ちょっとした生活感のある部屋だった。


「先生、僕は」

「君はね、図書館の入口で倒れていたんだ。君を見付けた私が、この司書室に運ばせてもらった」

「そう、だったんですか……。ありがとうございます」


 どうやら、ゼノさんが言っていたことは正しかったらしい。時計を見ればもう八時前だ。急いで家に帰らねば、二人が心配する。

 立ち上がり、傍に畳んであった学院の制服の上着を着る。そして一言、先生にお礼を言ってここから出ることにする。


「それじゃ先生。ご迷惑おかけしました」

「いやなに、これくらいお安い御用さ。それよりもシオン君」

「はい、なんですか?」

「悩み、解決したようだね」

「――――ッ」


 その言葉に、目を見開く。

 僕は、この人には『欠陥』のことは言っていなかったはずだ。なのに、なんで。


「君が何を抱えていたのかはわからないけど、悩んでいたのはその眼を見ればわかるよ。でも今は、その眼に迷いが無い。だから、直感でそう言ってみたんだが、なかなかどうして、まだ私の直感も捨てた物ではないね」


 そう言って、先生は笑う。その笑みは、人を安心させてくれる笑みであり、そして僕を後押ししてくれる笑みだった。


「……はい。ありがとうございます」


 一言――先程とは違う意味で――お礼を言い、僕はこの場を後にした。


「――――、」


 学校の敷地の外に出て最初に眼にしたのは、明かり。あの【擬似霊界】には無かった、人工の明かりだ。その輝きは、僕に先の出来事が嘘ではなかったと暗に告げていた。

 ごくり、と喉を鳴らす。緊張のせいか、手が震える。こんなことをしている場合ではないと言うのに、自然と身体は動き始めている。

 

「――【小さな焔(リトル・ファイア)】」


 そして僕は、そのイメージを創った。


 そして(あらわ)れるのは、小さな焔。その威力と大きさは、儚いと思うくらい、小さい。

 小さいけど、それで充分だった。


「……はは、は」


 思わず笑い声が出る。

 痛くない、痛くなかった。

 魔術を創った時、頭に痛みを感じなかった。

 欠陥が、直っていた。


「ははっ、はははは!!」


 走る。そうせずには居られなかった。

 夜の街を駆ける。通行人が僕を怪訝な目で見てくるが、そんなこと、どうでもいい。

 心臓が激しく高鳴る。肺が酸素を求めている。血がこれ以上ないっていうくらい全身を駆け巡っている。

 だけど、今はそれら全てが心地よい。


 やがて僕は、家の前まで着いた。転がるように、家に入る。


「お帰りなさい兄さん。遅かったですね。ご飯はできてますから、先にお風呂に……」

「ごめんアンジェ、ちょっと出てくる! 夕飯は先にシアと食べてて!」


 玄関を開けるや否や、すぐにアンジェが迎えに出てくる。しかし僕はその好意を受けず、部屋に戻って道具だけ置いてくる。そしてまた、外へと繰り出す。


「ちょ、兄さん!?」

「ごめん! 事情は後で話す!!」


 短く言葉を残し、再び夜を駆ける。

 向かう先は、この街を一望出来る丘。

 僕の、特訓の場所。


「――――」


 妙に頭が冴え渡っている。いや、冴えているのではない。今も僕の脳と心は興奮している。思考を分断したとでも言えばいいのか、その別部分の思考では、冷静に現状を分析、把握していた。これも、【同時魔核処理(コア・マルチタスク)】の恩恵だろうか。

 身体は熱く、心は冷たく。

 それが今の僕だ。


 丘に辿り着く。当たり前と言えば当たり前だが、人は誰も居ない。

 風が吹き、草が揺れる。その冷たい風は、僕の身体を冷ましているようだった。

 だけど、僕の熱はそれくらいじゃ冷めなかった。


「――【空気と交わりて――」


 言葉を紡ぐ。

 それはさながら、詩を詠むように、その言葉を紡ぐ。

 ひとつの魔術が完了するたびに、また次の魔術を創る。


 炎属性中級魔術【暴発(エクスプロージョン)】。

 水属性初級魔術【水流(コリエンテ)】。

 土属性中級魔術【崩壊(ブレイク)】。

 風属性初級魔術【突風(ゲイル)】。

 氷属性初級魔術【氷槍(アイシクル)】。

 雷属性中級魔術【雷鳴(ドンナー)】。

 木属性初級魔術【治癒(ヒール)】。

 光属性初級魔術【閃光(グリン)】。

 闇属性初級魔術【暗黒(ダーク)】。


 僕の記憶領域ストレージに存在する全属性の魔術を、何でもいいから一度ずつ使う。

 それは、【劣等魔術師】だった自分が、あらゆる媒体を介して記憶した、知識の結晶。僕の記憶領域ストレージには、幾つもの魔術が記憶されている。

 それらを、今、顕現する。


「はぁっ、はぁっ」


 汗が滴る。当たり前だ。僕は今、とんでもなく馬鹿で、無駄で、そして恐ろしいことをやっているのだから。

 周囲への被害は最小限に、幻想を創る。四系統五属性から成るその幻想を。

 

 ――ああ。

 魔術を使えるという当たり前のことが、当たり前の事実が、こんなにも嬉しいことだなんて。


「ぐっ」


 九つ目の魔術である【暗黒(ダーク)】を創り終えると同時に、僕は倒れる。連続で魔術を使った結果だ。まだ魔力切れというわけではないだろうが、それでも反動は大きい。

 ちなみに、僕は今【魔力石】を持っていない。今までの魔術は全て、己の魔力によるものだ。

 その事実が、僕の疲れを吹き飛ばす。

 

「ははっ」


 地面に倒れ込んで、そのまま寝そべる。寝そべって、上を見上げれば、そこには星屑を散りばめた夜空があった。 

 その夜空は、いつかの憧憬と同じ夜空で、僕を懐かしく思わせると同時に、僕を奮い立たせた。

 もっと、もっと。

 僕はまだ、スタートラインを出発しただけだ。

 まだ、最高の宿敵(ロート)の高みには、辿りついていない。

 まだ、憧憬の少女(シア)の場所に、辿りついていない。


 だけど今は、この夜空を眺めていたい。

 吹いた風が気持ちいい。木々と草花が揺れる音が心地いい。


(ああ――、)


 ――今夜はこんなにも、星が綺麗だ。 


 そして僕は、その後、行動に支障を来さない程度に魔力が無くなるまで、魔術の鍛錬を続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ